現場偵察へ
デニスの報告を聞いてルイーズは考えていた。
(思い切ってアードルフに直接、聞いてみるべき?)
知らぬフリをして彼がしたいように見守るのが正しいのか、こちらから問いただしてエレオーラ嬢のために共に協力するのが正しいのか。
アードルフがルイーズに隠さずにきちんと伝えてくれたら、いろいろと悩まなくてもいいのに、と思う。
(私がアードルフの動向で悩むということは、彼のことを大事に………好きだと思っているからよね?)
自分はきちんとアードルフと向き合えているから悩むのだろうと思うと、変なところで安心した。
アードルフのことをフローレンスやコンラートに相談したい気もしたが、彼らはアードルフの親類で友人である。信用していないわけではないが、必ずしもこちらの味方になってくれるとは限らない。
(かと言って、レウルスに相談するわけにいかないし……)
レウルスは自分に好きだと伝えてくれた人だ。そんな人に相談などしたら、アードルフと別れてレウルスと付き合うつもりで頼ったのだと思われそうでイヤだった。
そんなのはアードルフを裏切っていることになる。
ルイーズの中では、付き合う以上はきちんと向き合うべきだと思っていた。
(まずは自分でどうにかしなければ......)
………翌日、音楽院に行くと、アードルフは音楽院を休んでいた。
昼食時にフローレンスからアードルフが休んでいると聞いたのだ。
「彼は、体調を崩したの?」
「ルイーズはアードルフが休むことを知らなかったの?」
「........知らないわ。連絡などきていないもの」
「そうだったんだ........」
自分には連絡がないのに、フローレンスが知っているところを見ると、コンラートに聞いたのだろう。
「最近、彼の様子が少しおかしい気がするわ」
「そうかな?アードルフ兄は疲れてるんじゃないかな」
フローレンスからは思う通りの情報は得られなさそうだ。
(フローレンスは、アードルフの状況を知って庇っているのかしら)
それ以上は聞かず、モヤモヤしながら過ごしていると放課後になった。放課後は、日課の練習がある。本日はレウルスも加わって練習をした。
「ルイーズ、調子悪いのか?」
何度かミスするとレウルスに言われた。
「ごめんなさい。ちょっと疲れていて.......」
「ルイーズが疲れているなら、今日はここまでにしようよ。私たちも今日は帰るね。街に用事があるし」
フローレンスとコンラートは楽器を片付けると出て行った。
「......ちょっと食堂で休憩でもしないか?」
レウルスに珍しくお茶に誘われた。いつもはアードルフがいるから、皆でお茶をしても個人的に誘われることはない。
「......せっかくだけど、ごめんなさい。今日はしたいことがあって」
「したいことってなんだ?」
「いろいろと.......」
「アードルフのところに見舞いに行くのか?やつが休みだということは知らなかったようだが」
昼食時に彼もいたので、彼はこちらの状況を知っている。
「休む時にお互いに知らせる約束なんてしていないから、知らないこともあるわ」
「その割に驚いていたようだ。気にしているからミスもしていたんじゃ.....」
「私、急いでいるの」
ルイーズはレウルスの追求から逃れるように、慌ただしくバイオリンを片付けて馬車乗り場に向かった。
ルイーズを見ると、デニスが手をブンブン振っている。
「お嬢様!」
「デニス、その目立つ迎え方をやめてちょうだい」
「すみません、つい」
デニスの今日の服装は、護衛騎士の服装ではなかった。これはルイーズが指示したからである。
「普段着でお嬢様と共にいるのは変な感じがします」
「今日はそういう日だから仕方ないわ。落ち着かないかもしれないけれど、協力してちょうだい」
「いやあ、普段着の方が落ち着くに決まってます。さあ、では行きましょうか」
「ルイーズ!」
レウルスが走って来た。
「おい、これ!楽譜を忘れている!」
どうやらルイーズが焦ったばかりに、大事な楽譜を忘れていたようだ。
「ありがとう」
「楽譜を忘れるなんておかしいぞ。……その男は?」
レウルスの目つきが鋭くなる。
「彼?彼はうちの護衛騎士よ。見たことあるでしょう?」
レウルスが眉間にシワを寄せて彼をマジマジと見る。ジロジロ見られたデニスは居心地が悪そうだ。
「確かに。どうして、護衛騎士が普段着姿なんだ?」
レウルスの質問に、なぜだかデニスが口を開いた。
「あー、すみません。これはお嬢様の指示でして!本日だけですので」
「ルイーズの指示?今日だけ?どういうことだ?」
眼鏡の奥がキラリと光った。彼お得意の追求をする気でいるようだ。
「………街に寄りたいところがあるのよ」
「普段着姿の護衛騎士を同行させる必要がある所とはどんな所だ?」
「あ~!お嬢様!こうなったらレウルス様も巻き込んでしまいましょう!」
「ちょっとデニス!」
デニスは、面倒になったのかとんでもない提案をした。
「あなたって有能だと思っていたけど、尋問されたらすぐに音を上げるタイプだというのが分かったわ」
「そんな~!レウルス様はお嬢様が尊敬されている方ではないですか。だから言ったんですよ!」
「勝手すぎるでしょう!彼を巻き込みたくなかったのに!」
「…………どういうことなんだ?」
こちらのやりとりを腕組みして見ていたレウルスであった。
デニスは確かに面倒なのが嫌い。あと、楽天的です。
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