知り合いの女性店員
新しくグラスビールが運ばれてきても、彼らの様子がおかしいままだった。
ちなみに、グラスビールを運んで来たのはほかの店員だ。
「………さっきの店員さんは知り合いだったの?」
「まあ、そんな感じかな………それより、飲もう!」
フローレンスが急ぐようにグラスビールに口をつけた。
「ルイーズもたまにはビールを飲みなよ」
フローレンスが自分のグラスビールを渡してくる。
「え、フローレンスが飲んでいるビールでしょ?」
「いいじゃん。女同士なんだし。回し飲みするくらい大したことないし」
「そういうことではなくて。せっかく頼んだビールが減ってしまうでしょう?」
「いいの、いいの、ほらこうすれば問題なし!」
フローレンスはジョッキからグラスにビールを勢いよく注いだ。雑に入れたものだからビールがテーブルにこぼれて広がる。
「ああ、ビールがこぼれた!」
「これで拭いて!」
急いでテーブルを拭いたりしていると、女性店員のことは頭から抜けていった。
…………飲んだり食べたりしているとあっという間に小一時間ほど経った。あれからフローレンスやコンラート、アードルフは浴びるようにビールを飲んでいる。
ルイーズも付き合う程度でビールを飲んでいたが、胃が膨れて苦しい。お手洗いに行こうと立った。レウルスもつられるように席を立つ。
「ルイーズ、手洗いまでオレが付き合うよ」
「あー、僕が行くよ」
「お前は酔っているじゃないか。大人しく座ってろよ」
レウルスは立ち上がったアードルフを座らせると、ルイーズを連れて手洗いの方へと向かった。
「……私だけでも大丈夫よ?今日はそれほど飲んでいないし。ビールって脹れるでしょう?あまり飲もうと思っても飲めないわ」
「でも、顔が赤い。放っておけない」
「………」
レウルスからそんな言葉を言われるとなんだか断れない。
(レウルスは私に告白してから、積極的になったようだわ)
別荘に無理やりついてきてそれとなく守ろうとしてくれたり、こうして面倒をみてくれたりするのは......やっぱり嬉しくなってしまう。
「さっきのことだが………」
「え、なに?」
「女性店員を見た時のあいつらの表情のことだ」
「ああ、あれね。変な感じだったわ。.......そういえば、あの女性店員がいなくなってしまったみたい。勤務時間が終わったのかしら?」
「さあな……。あの女性のことが気にならないか?」
「気にはなったけど………。なんだか触れていはいけない気がして」
「......そうか。ほら着いたぞ。ここで待っているから」
「ありがとう」
“待ってる”と言われて、傍から見たらまるで恋人同士のやり取りみたいに見えるのでは、という気がした。
レウルスはルイーズが恋人として受け入れるとは言っていないのに、いつもと変わらないような態度で側にいてくれる。
(変に避けられるよりは良いけれど..........)
レウルスには、拒絶されたらと思ったら金賞をとるなり告白されて、未だ複雑な気持ちがしている。彼に理由を説明されたが、やっぱり自分勝手ではないか、と思えてしまうところがある。
手洗いから出て来ると、レウルスがディーターの兄と話をしていた。
「……そうなのか。教えてくれてありがとう」
お金をそっと渡している。ディーターの兄は断っていたが、レウルスが強引に渡すと、大人しく受け取っていた。
「………すみません、ではなにかあればすぐにお呼びください。では」
すぐに部下の店員に呼ばれて去って行った。
「今のはなに?」
「…………詮索しない方がいいだろうが、たまたまディーターの兄が前を通ったのもあって、先ほどの女性店員について尋ねたんだ」
「彼女はどんな人だったの?」
「それが、王都出身というだけで詳しくは分からないらしい。金が必要らしく、ほぼ毎日ここで働いているそうだ」
「そう…それは大変ね」
あのような重いビールジョッキや、アツアツのソーセージ皿を運ぶのはとても大変そうだ。しかも、お酒を出す店である。酔って絡む男性客や女性客もいるだろう。
席に戻ると、フローレンスたちはすっかりできあがっていた。
「あなたたちがお酒に飲まれるなんて珍しい。アードルフはともかく」
「ははは、なんだか今日は皆、解放的な気分になってしまったんだよ」
「お手洗いに行って来たら?待っているから」
「そうね、コンラート、アードルフ兄を連れて行ってくれない?」
「ああ。アードルフ立てるか?」
「立てるに決まってるだろう。コンラートこそ、ちょっとフラついているぞ」
「いやいやそんなことは」
ワイワイ言いながら手洗いの方へと去って行く。
あの女性店員を見て驚いた表情を見せたのは、気のせいだったのかなと思えたルイーズであった。
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