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【完結】婚約者の王子より、冴えないチェリストに恋した公爵令嬢  作者: 大井町 鶴(おおいまち つる)
◆第7章 新しい道は

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かき乱される心

馬車寄せへと向かうルイーズは、心臓がドクドクと動いているのを感じていた。


(レウルスは一体どういうつもり?私たちの関係はなんでもないと結論を出したのはあなたなのに、今さら思いを伝えられていなかったってなんなの?)


レウルスに言われた一字一句を頭で反芻する。


(気まぐれでキスしたんじゃないけど、軽率だったですって?)


レウルスはもどかしそうな様子で必死に伝えようとしていた。


『これだけは伝えたい!オレはルイーズに追いつくから........!忘れないでくれ』


今日もレウルスは自分に追いつくと言った。


レウルスも説明が上手ではない。ヘンリーに引き続き、どうしてこうも口下手な男性が世の中には多いのだろうと思う。


‟追いつく”という言葉の意味がどうも分からない。彼がここのところ社交などを頑張っているのは、音楽を心地良く聴いてもらうためだと自分で説明していたから、それは分かる。


(..........それにしても、レウルスらしくない)


あの神経質そうなレウルスが今やにこやかに人と話しているのだ。もともと冷たい人ではないが、誰にでも愛想を良くするレウルスはちょっとつまらない気持ちになってしまう。自分だけに温かな表情を浮かべて欲しいと思ってしまうのだ。


(私の気持ちも少しずつ整理していたのに....)


はあ、とタメ息をついた。


馬車寄せに来ると、アードルフが手を振っていた。


「ルイーズとカルテット組んでるメンバーはさっき帰って行ったよ」


アードルフはルイーズのカルテットメンバーを把握していた。どういったメンバーとやっているのか確認したかったらしく、以前、練習中に覗きに来ている。


「自主練でもしていたの?」

「え?ええ………」


アードルフに手を差し出されて馬車に乗ると、アードルフがすぐにくっついてきた。


「やっと触れられる」

「アードルフ、ここはまだ音楽院だし、そのちょっと」

「ここが音楽院じゃなければいいの?」

「そういうわけでもないけれど、ねえ、ちょっと控えましょう?」

「ルイーズがそういうなら。今度、うちの別荘に来ないか?演奏会をやろうよ」

「演奏会を別荘で?」


急な提案だった。別荘というぐらいだから泊りということになるのだろう。


「しばらくは忙しくて無理だわ。アードルフだってコンクールに出場すると言っていたじゃない」

「うん、でも止めようかなあ」

「ダメよ。アードルフのバイオリンに期待している人がいるわ。私もその1人よ」

「ルイーズに褒めてもらえればいい」


アードルフは困ったことに、音楽への意欲が下がっているみたいだ。


「アードルフ、それはダメ。それに、私もコンクールに出てみようと考えていたの」

「ルイーズが?」


驚いた顔をアードルフがする。


「どうして驚くの?私がコンクールに出るレベルではないと思っているのかしら?」

「そうじゃないよ……。ルイーズがどこまで頑張るんだろうと思っただけ」


(どういう意味?)


ちょっとムッとする。


「アードルフ、あなたはボロゴ楽団に憧れているんでしょう?私に構って本来の目標を忘れてはいけないわ。それに私だって遊びでトリアに来たわけではないの」

「……そっか。そうだよね」


どこか気の無い返事に、ルイーズは自分の気持ちを理解してくれていると思っていたアードルフに軽く不満を抱いた。


「コンクールのことは参加するとして、別荘での演奏会はいつにしようか?」

「やるとしても次の長期休みでしょう」

「次の休みは春か……長いなあ」


ルイーズはとてもそうは思えなかった。コンクールの練習や毎日の練習をしたら、あっという間に過ぎてしまう。


(アードルフとは、少し考えにズレがあるみたい......)


「ルイーズ、そんな顔をしないで。僕は楽しい話をしたかっただけなんだよ」


アードルフはルイーズのあごに手をやると、そっとルイーズの唇にキスした。


「まだ、帰り途中よ」

「これぐらい許してよ」


アードルフの想いが大きくてルイーズはなかなか同じ分の気持ちを返せない。


「アードルフ、焦らないで。私はここにいるのだから」

「うん」


アードルフはルイーズの肩に顔をうずめた。甘えるアードルフの頭を撫でる。


「やっぱりアードルフは甘えん坊ね。今日はどんな1日だった?」

「ふふ、ルイーズは僕の母のつもり?僕はルイーズに母性を求めているんじゃないよ?」


(分かってる。あなたは不安なのよ)


口には出せないが、やっぱりかつての婚約者のことを引きずっているのだろうと感じた。


アードルフの背中を撫で続ける。


「ルイーズとこうしてくっついていると安心するなあ」


アードルフとの気持ちのズレを感じつつ、彼を傷つけないようにしなくてはと思ったルイーズだった。

なんだか複雑なことになってきました


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