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楽団長の面談

反対するジーナがいては邪魔になると判断したルイーズは、ジーナをカフェで待つように指示した。幸い、カフェとフルンゼ楽団の練習場は見える位置だ。


「ジーナはここで待っていてね」


ルイーズはじっとまわりを観察して覚えたばかりの庶民的な話し方をさっそく実践する。


「はい..........」


ジーナには先ほどの洋服店で外したアクセサリーを預けてあったから、どちらにせよジーナはカフェをあまり動かない方が良い。出歩くとスリに合ったりする可能性もある。じっとしている分にはあまり危険ではないだろう。


ルイーズは、一人で気ままにフルンゼ楽団がある建物にやって来ると、深呼吸してからコンコンと木の扉を叩いた。


(ふう、さすがの私でも緊張するわ)


「はーい、どなた?」


朗らかそうな男性の声がして扉が開くと、女性が好みそうな整った顔の男性が顔を覗かせた。


「えーと、君は誰かな?」

「私は........オリビアといいます」


偽名を語った。オリビアとは最近、読んでいた小説のヒロインの名前であった。


「オリビアちゃん、もしかして入団希望?」

「はい!入団できるでしょうか?」

「まずは面接をしよう。建物の中にどうぞ」

「あ、はい」


ここがフルンゼ楽団の練習場だと聞いて知ってはいるが、知らない場所に一人で足を踏み入れるのが不安になった。


「あの、私、あちらのカフェに連れの者を置いてきておりまして」

「へえ、そうなの。カフェにいるならそこで待っててもらえばいいよね?はいはい、とりあえず入って」


男性は気にした様子もなく、どうぞ、とルイーズを部屋の中に招き入れた。部屋の中には楽団員がいて各々の楽器を練習していた。


「面談はこっちの事務室でやるから」


男性に連れられて事務室だという部屋に案内された。扉を開ければすぐに練習室だが、男性と部屋に2人きりになるのは抵抗があった。


「どうしたの?」


部屋の前で躊躇していると男性に聞かれる。


「え...と、男性と2人きりの空間はどうかしらと思われましたの」


先程、庶民の話し方を観察してきたというのに、緊張したせいかいつもの口調になってしまう。いろいろと焦ってきた。


「じゃあ、扉は少し開けておこうね。音がうるさいかもしれないけど我慢してね」

「はい、申し訳ありません」


もはやどんな口調が正しいのか混乱していた。とりあえず、言われたとおり事務室のイスに座る。


「君の担当の楽器はなに?楽器は持ってきていないみたいだけど」

「バイオリンです。様子を見に来ただけでしたので楽器は持ってきませんでした」


少し落ち着いてきて口調もやっとコントロールできるようになってきた。


「バイオリンか。じゃあオレと一緒だね。あ、オレはレイニーといって、ここの楽団長をしているよ」

「あなたが楽団長?ずいぶんとお若いのですね」

「ははは。この楽団は若手の集まりだからオレみたいな楽団長でちょうどいいんだよ。とりあえず、ここにあるバイオリンで弾いてみてくれない?」


渡されたバイオリンはずいぶんと使い込まれた感のあるバイオリンだった。木目がハッキリとしているからまあまあなものなのだろう。受け取ると弦の調整をして構える。


「なにを弾きましょう?」

「好きな曲で」


自由だというので、中級程度の“恋の挨拶”を弾いてみた。


演奏が終わると、レイニーがニッと笑う。


「うん、いいね。なかなかのびやかで良かったよ」

「良かったですわ、じゃなくて、良かったです」

「君さ.........こっちに来てくれない?手続きをしようか」

「手続き?」


入口近くに置かれた棚の方に誘導される。手続きに必要な書類でも渡されるのかと思っていたら突然、棚とサンドイッチ状態にされた。壁じゃないがいわゆる壁ドンだ。


「なにをなさるの!」


声を出したが、楽器の音にかき消されて部屋の外にはルイーズの上げた声は届かない。気付いたら、薄く開けてあった扉もいつの間にか閉められていた。


「近づかないで……!」

「襲ったりしないよ。確かめたいことがあるからこうして近づいているだけ。.........君ってなに者?」

「え?」

「君さあ...........本当は貴族じゃないの?」


レイニーという男は簡単にルイーズの正体を言い当てた。


「.......私はそこらの街娘ですわ」

「うそだね。言葉使いや仕草が平民とは違うもん」

「緊張しているだけですわ」

「ふうん。じゃあさ、手を出してみて」

「?」


ルイーズは言われた通り、手を差し出した。レイニーがルイーズの手の甲にチュッとキスをする。


「どう?」

「どうって.........これがなんなのです?」

「ホラ、そういうところ」

「ただの挨拶ではないですか」

「平民は、手の甲にキスして挨拶なんかしないよ。君はずいぶんと慣れているからやっぱり貴族だろう」

「違います!」

「なぜ、隠すのかなあ」


レイニーが顔を近づけて来る。


「........ここで口説くなよ」


いきなり声がしたと思ったら、戸口に不機嫌そうな顔をした例のチェリストの彼がいた。


(れ、例の彼だわ!こんなところ見られたら勘違いされてしまう!)


慌ててレイニーを押しのけた。


「あ、レウルス。この子さ、扉の貼り紙を見て応募してきたんだけど.........。ちょっと気になるところがあるんで今、確認してたとこ。演奏技術は問題なかったよ」

「へえ。オレには関係ないね」


そう言うと、レウルスは部屋を出て行ってしまった。


「.............誤解されてしまったわ」


ルイーズが心配気に言うとレイニーが言う。


「心配しなくていいよ。どちらかというと、心配しなくてはいけないのはオレの方だよね?オレはここの楽団長という立場だし。面接中に口説いているなんて言われたら大変だ」

「そういう勘違いされることをするあなたがいけないのですよ....!」

「まあそうとも言う。........で、君の本当の正体は?こんなに良い香りの精油なんて平民は使えないよ。入団するならば、オレとしてはきちんと楽団員の身元を知っておきたいんだけど?」

「私は庶民で.........」

「あのさあ。貴族だと受け入れてもらえないとでも思ってる?確かにうちは平民の音楽家が多いよ。でも、貴族だって大丈夫。だって、オレも貴族だし」


レイニーの思わぬ言葉に、ルイーズは目を見開いたのだった。

付け焼き刃な会話じゃダメだったと思い知らされたルイーズです


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※更新は毎日19時20分頃更新しています。

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