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【完結】婚約者の王子より、冴えないチェリストに恋した公爵令嬢  作者: 大井町 鶴(おおいまち つる)
◆第6章 交錯

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恋人の提案

アードルフの視線が真っすぐルイーズに向けられていた。


「僕たち、本当の恋人にならない?」

「……アードルフは本当にそれでいいの?」

「うん。ルイーズが気にしているのは、フローレンスに聞いたからだろう?元婚約者の話」

「ええ…」


秘密にする話だったから、今さらであっても知っていると言うのは気まずい。


「ルイーズのことと元婚約者の話は関係ないよ。確かに僕は駆け落ちされてショックを受けていたけど、それは過去だ。でも、今は未来を見て進んでいきたい。ルイーズもそうだろう?」

「………傷の舐め合いということではないの、それは」

「いろいろなキッカケがあってもいいじゃないか。僕はルイーズとこうして一緒にいると安心できるよ。ルイーズは違う?」

「それは私もよ。だけど、今まで殿下との婚約関係を解消するためのつもりで側にいたから、急に本当の恋人と言われても戸惑うわ」

「僕はルイーズを大事にするよ」


アードルフがルイーズの手にキスする。堂々とキスして求愛するアードルフが魅力的に思えてしまう。


「………今すぐ答えなければいけない?」

「いや、待つよ。だけど、その間も恋人の設定は続いているからね」

「......分かったわ。真剣に考えてみる」

「ルイーズの気持ちを手に入れるの、頑張るよ」


(アードルフは前向きに考えてくれる人………レウルスよりもよっぽど頼りになる存在なのかもしれない)


レウルスの反応が、あまりにも自分と考えていた反応と違っていて傷ついていた。


お茶を飲むと、練習に音楽院に来たことになっているのもあって2人で練習室へと向かう。すぐ向かいの部屋にはまだレウルスがいるはずだった。


レウルスに言われた言葉はショックだった。当分、この胸の痛みは癒えることは無いだろうと思う。ズルいかもしれないないが、あまりのつらさに自分の心を守れるものがあれば利用したいとさえ思ってしまう自分がいる。


レウルスを想う限り、アードルフの提案を断るべきだったが、自分可愛さに自分を支えてくれる存在が欲しくなって、アードルフの申し出をスッパリと断れなかった。


(ずるいわよね、こんな私って........)


........練習を続けていると、扉をノックする音が聞こえた。


驚いたことにレウルスが練習室に入って来た。


「オレも混ざっていいか?」

「お、珍しい。自分から来るのはあまりないよな」

「そんなことはない」


練習を続ける。ルイーズはなぜ、レウルスが自ら練習をしようとここに加わって来たのか分からず混乱した。


(..........もしかしたら、レウルスは昨晩のことは本当に事故みたいなものだと思っている?)


昨晩のことは彼にとって大したことではなかったのかもと、いう気持ちが湧いてきた。


(イザベラ夫人は自分を大切に扱われることが好きな女性みたいだから、もしかしてレウルスにもそういったことをさせているのかしら………?)


演奏旅行中、後援者としてレウルスの側にいたのだから、もしかしたら彼女がレウルスを好きなようにしていたかもしれない。


(レウルスが昨晩のキスくらいのことを夫人としていたとしたら………?)


完全に自分の中での妄想でしかないが、イザベラ夫人のあの敵意めいた言葉が女としての牽制だとしたら、納得できてしまう。


(まさか、イザベラ夫人とまさかそういった関係なんじゃ..........?)


グルグルとどうしようもないことを考えていると、アードルフに演奏を止められた。


「ルイーズ、なんて演奏しているんだ。それじゃ全然ダメだ」

「あ.........ごめんなさい」

「バイオリンに触れる時は、音と語り合わないと」

「そうだったわ。本当にそう........」


ルイーズがシュンとするとアードルフが少し慌てた。


「ちょっと厳しく言い過ぎたかな。今日は練習を早めに切り上げてお茶でもしに行こうか。......じゃあ、そういうことで。レウルス、これで今日は解散だ」

「………分かった」


レウルスはチェロをケースにしまうと、練習室を出て行った。


「ルイーズ、もしかして僕が言ったことで悩ませてしまった?」

「いいえ、そうじゃないわ。気にしないで」


ニコリと笑って見せると、アードルフがルイーズの頭を撫でる。


「アードルフも頭を撫でるのね」

「ほかにもする人がいるの?」

「レイニーさんも………レイニーさんはレウルスの兄よ」

「ああ、フルンゼ楽団のコンマスね。レウルスにもされるの?」

「されたことはあるわ」

「ふうん」


アードルフがつまらなそうに言う。彼はそのままルイーズの手を握ると練習室を出た。手をつないで馬車乗り場まで向かう。


「今日、なんでレウルスは練習に加わって来たんだろう?」

「演奏旅行でいなかったから、私たちとセッションしたくなったのでは?」

「そうかなあ」

「......それよりどこに連れていってくれるの?」


これ以上、レウルスの話をしたくなくて、ルイーズはアードルフの腕に手を絡めた。手つなぎよりも距離が近くなる。


「あ、さっそく前向きに考えてくれているの?そんなに身体を密着させちゃって」

「変な言い方をしないで。努力してるの」


アードルフが嬉しそうな顔をした。


(ごめんなさい。不純な気持ちでくっついてしまって)


反省しながらもアードルフが喜ぶことをしてしまう自分がいた。自分も大切にされたかった。


そんな姿を柱の陰からレウルスが見ていた。


レウルスは、アードルフたちを複雑な思いで見送っていたのだった。

レウルスが練習に加わって来た理由とは....


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