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【完結】婚約者の王子より、冴えないチェリストに恋した公爵令嬢  作者: 大井町 鶴(おおいまち つる)
◆第6章 交錯

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揺れる想いと身分差

舞踏会の翌日、起きると頭がとても痛い。あまり強くもないのにまたお酒を飲み過ぎたと思った。


幸い、週末で休みの日だったのでゴロゴロとしながら昨晩起きたことを考えていた。


「はぁ…………確実にお酒が全ての事態を引き起こしているわ。私はもうお酒を飲むのをやめた方がいいのかも」


本当の原因はイザベラ夫人への嫉妬と夫人の嫌味なのだが、イヤな気分をお酒で紛らわそうとしたルイーズの心の弱さが招いたものでもある。


話すうちになんかのタイミングでアードルフにキスされた。あの時のアードルフは、婚約者に駆け落ちされた心の傷もあって側にいた自分にキスをしたのだろうと思えた。


アードルフのされたキスはイヤでは無かったが、慰めるようなもので深い意味は無かったと思う。それよりも、王に呼び出されたアードルフに替わってレウルスが馬車で送ることになった時に起きたことの方が問題だった。


「レウルスはなぜ私にキスをしたの........?」


酔いが醒めた今、もう一度、冷静に考えてもレウルスが自分にキスしたのは、アードルフがキッカケだとしか思えない。彼はアードルフに嫉妬していたのではないか。


「........ウソでしょう?」


(嫉妬してキスするということは、私のことは妹ではなくて女性として見ているということでいいのよね??)


あの馬車内での熱いキスの時間を思い出したら、顔が一気に赤くなった。頬に手を当てる。


「..........しかも私、泊って行かないかと誘わなかった?」


あまりに恥ずかしい言葉を言ったと思って、顔をパタパタと扇いだ。恥ずかし過ぎた。


頭を整理しようと、昨晩は入ることができずに寝てしまったお風呂の用意をジーナにさせる。


浴槽に浸かって起きたことを冷静に処理しようと思うが、なかなか心を落ち着けることができなかった。レウルスと熱烈にキスし合ったことを思い出すと、これからどうするべきなのだろうと考えてしまう。


お風呂から出ると、レウルスと昨晩のことを話したくなった。学園の練習室は休みの間も使える。


今週末の練習は仲間で練習しようと約束していないが、練習室に行ってみようかと考えた。もしかしたら………レウルスに会えるかもしれない。彼は音楽院内にある寮に住んでいる。


思い立ったルイーズは音楽院に向かう用意をした。無事、バイオリンも昨晩すぐに届けられて手元にある。


音楽院に着くと、練習室へ向かった。ピアノやフルートなどさまざまな楽器の音が聞こえてくる。大勢の学生が休みに関わらず練習しに来ていた。


いつもの練習室へと行くと、チェロの音が聞こえた。


(このチェロは………レウルス)


練習室を覗くとやはりレウルスがいた。迷ったが、ドアをノックする。


チェロを弾いていたレウルスが手を止めてドアの方を見た。


「邪魔してごめんなさい」

「…………いや。どうした?」


(どうした?、ですって?)


「昨晩のことだけど…………」


大きな声で話すことではないのでレウルスの側に寄ると、彼は急に立ち上がった。


「レウルス?」

「昨晩はお互いに酔っていた。気にするな」


(気にするな………?)


あれほど熱を感じるキスに夢中になったのは、自分だけだったのだろうかと愕然とする。


「…………それは本気で言っているの?」

「ルイーズは完全に酔っていたよ」


(………この人はどうして近づいたと思った途端、いつもすぐに離れていくの?)


それ以上、レウルスはなにも言わない。


ルイーズは胸が痛くなって練習室を出た。後ろは振り返らない。お手洗いへと向かう。鏡で見た自分の顔はひどく無表情だった。


「なんて顔………」


(レウルスは私を意識したはずなのに。………彼は逃げ出したのね)


きっと、爵位の差だとかそういうことを意識したのだろう。鼻の奥がツンとしてきた。


(泣いちゃダメ。ガッカリしたけど、もしかしたら泣きたいのはレウルスかもしれない)


うぬぼれかもしれないが、彼のさっきの言葉はレウルス自身の気持ちよりも現実を優先した結果、言った言葉かもしれない。


「もっと、冷静にきちんと話すべきだったかも……」


ただ、冷静に話し合う機会を持ったとして、レウルスが自分の気持ちに希望通り応えてくれるとは思えなかった。


(前も私とは、音楽を通じて対等だというようなことを言っていたし……)


彼は基本的にしっかりと自分との間に壁を築いていた。


(でも、もし私を好きなら、乗り越えて来て欲しいと思ってしまう)


自分は諦められるその程度の女だったのだろうかと考えた。考え始めると、だんだんと自分の魅力が足りないからレウルスが情熱的になれないのかもと思い始めた。


(くやしい………私、レウルスに憧れて、好きでトリアまで追いかけて来たのに。殿下との婚約の破談には、少なからずレウルスも関係しているのに)


ルイーズの勝手な理由ではあるが、レウルスを想い続けている気持ちが強い分、自分が惨めな気持ちにさせられる。


(もう、気持ちがグチャグチャ………お茶でも飲んで気を静めましょう)


このまま帰るのはシャクだったし、温かい飲み物を飲めば心が落ちつく気がして食堂へと向かった。どうせ、レウルスは練習室にこもって練習している。


紅茶を頼んで一人手ずからお茶を飲んだ。


「………ルイーズ、探したよ」


声をかけてきたのはアードルフだった。


「どうしてここに………?」

「昨晩、送って行けなかったから。屋敷を訪ねたら音楽院に行ったと聞いて来たんだよ」


アードルフは隣に座ると、ルイーズの手を握る。


「………アードルフ、私たち昨晩………」

「したよ、キス」


アードルフがサラリと言った。


「どういうつもりでしたの?」

「ルイーズを好きだと思ったから」


アードルフの言葉は真っすぐだった。


(アードルフは逃げないのね。自分の立場に自信があるのだわ)


イヤでもレウルスと比較してしまう自分がいたのだった。

身分の違いが行動や考えに違いが現れて........


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