接近するイザベラ夫人
演奏が終わると、ルイーズはまたグラスを手に取り仲間と楽しく話した。
音楽院に入ってから授業が忙しく、生徒仲間とゆっくりと話す機会が無かったのもあって彼らと改めて話してみると、意外とルイーズに興味を抱いていたことが分かった。特に男子生徒たちはルイーズを高嶺の花に感じていたらしい。
「褒めすぎだわ」
「こんな気さくに接して頂ける方だとは思いませんでした」
「私ももう少し皆さんと積極的に話すべきだったわ。皆さんのレベルに追いついていくことばかり考えていたから」
「いえいえルイーズ様はとってもお上手ですよ!良かったら今度のカルテットは僕と…」
「ちょっと、君!ルイーズは僕の恋人だよ」
ズイとアードルフが出て来た。
「アードルフ、今度のカルテットは授業内で同学年の学生同士で組むのよ?」
「うーん、ならばルイーズのカルテットメンバーにふさわしい者を選ぶ今度コンテストでもするか」
「おかしなこと言わないで」
「おかしなことじゃないよ…」
アードルフがルイーズの手を取ると、甲にキスをする。まわりにいた者たちがざわめいた。
「アードルフ様はルイーズ様に夢中なんですね」
まわりからそんな声が聞こえた。
(アードルフ、やりすぎ)
自分の手の甲にキスをするアードルフを振り払うわけにいかず笑顔を貼り付ける。
「仲がとってもよろしいのね」
声がした方を見るとレウルスとイザベラ夫人がいた。微笑ましいといった様子で夫人は見ている。
「はい、僕たちはとっても仲良しですよ」
アードルフはルイーズの肩を抱き寄せて夫人にアピールする。調子に乗ったアードルフは、頬にまでキスしてきた。
「アードルフ……!」
小声で名前を呼ぶが、アードルフは聞こえないフリをしている。
「美しく若いっていいわね。羨ましいわ」
「イザベラ夫人も十分お若く、お美しいです。この場で夫人に目を留めない者などいないでしょう」
レウルスが驚くようなことを言った。
(驚いた!レウルスがこんなことを言うなんて………。いくら後援者だからって。彼女は私よりも身分が低いのに........!)
音楽を本格的にやるようになって、身分での偏見はあまりなくなったルイーズだったが、イザベラ夫人に黒い感情が湧く。
「夫人、飲み物をとって参ります」
レウルスが夫人のために飲み物を取りに離れた。
「ルイーズ様、お話は聞いておりますわ。バイオリンをとてもがんばってらっしゃるとか。メッツォには戻られないのですか?」
「......メッツォには当分戻らない予定です。学ぶべきことがたくさんありますから」
「まあ、悲しまれる方がいるのではありませんか?放っておいて平気かしら?」
(私と殿下の間に起きたことはトリアでも知られているというのに、嫌味なことを言う人ね)
リリアンが追いかけて来たのはトリアの貴族の間でも大きな話題になっていた。だから、良識ある者ならこの話題は出さないはずだ。
いくら演奏旅行に出掛けていたといっても、知っておくべき話題である。彼女は未亡人と言えど、伯爵夫人なのだ。
「ルイーズ、これ美味しいよ」
黙り込んだルイーズを気遣って、アードルフが新しいワインのグラスを渡してくれた。
「ありがとう。では夫人、またいずれの機会に」
「ええ。ルイーズ様の大切なレウルスの面倒は、私がしっかりと見るから心配なさらなくて結構よ。安心なさるといいわ」
去ろうとしたところに、イザベラ夫人が余計なことを言った。言い返そうかと思って振り向くと、すでに彼女はグラスを持ってきたレウルスに満面の笑みを向けていた。
(なんなの.......!?)
ケンカを売っているように思えた。
(イヤな女........)
思わずグラスのワインを一気に半分くらい飲む。
「ルイーズ、ああいうのを相手にするべきじゃないよ。ああやって自分の存在をアピールしたい人間はいるものだ」
アードルフがルイーズの肩を抱きながらテラスへと誘導する。テラスに来ると、残りのワインを飲み干した。
「アードルフ、あの人、私に敵意を向けていたわよね?なぜなのかしら?」
「他国のキレイな公爵令嬢が気に入らないとか、以前は社交界の花だった彼女のプライドが許さないとかそういったところだろう」
「あんな人がレウルスの後援者だなんて」
「ルイーズがレウルスを慕っているのを知って、からかったんだろう。.....僕が裏からやり返してあげようか?」
「いいえ……。いちいちそんなことでやり返していたらキリがないわ」
「さすが公爵令嬢」
社交界は戦いだ。忘れていたが、こういう場だったと思い出した。
「イヤな世界だわ」
「疲れるよな。今日は僕に甘えなよ」
アードルフが酔ってきたルイーズを抱きしめる。
「アードルフ……」
抱きしめられると暖かい。酔いもあって目を閉じた。とても眠い。アードルフの心臓の音が心地いい。
「.......静かだけど、寝てないよね?」
「少し、目を閉じているだけ」
「そういうことされるとさ」
「……なに?」
「……こういうことしたくなる」
アードルフがルイーズの頬に手を添えると、唇にキスをした。
「……なにをしたの?」
「もう1回したら分かる?」
「……ダメ。アードルフは寂しいだけなのだから。私たちはそんなふうになったらダメ」
「ルイーズ、そんなことを言わないで………」
「おい!」
テラスの扉が開いた音とレウルスの声が聞こえた気がした。
アードルフは段々と.........
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