落ち着かないレウルス
「オレと組むのがそんなに嬉しいのか?」
「ええ、とっても」
「..............酒を飲んでいるわけでもないのに、素直に反応するから驚いた」
「あら失礼ね。お酒を飲んでいなくても私は素直よ。でもね、これはアードルフのおかげなの」
「アードルフ?」
レウルスがしかめっ面になる。
「恋人同士ってもっと素直に気持ちを伝え合うのですって。あなたとは恋人ではないけれど.......これは恋人でなくても使えるでしょう?せっかくだからと、いろいろとアードルフに教えてもらっているの」
「いろいろと教えてもらってる?」
「ええ、いろいろと」
「なにをだ?」
いきなりレウルスに手を掴まれた。
「レウルス?ビックリするわ」
「..........無意識に手を掴んでしまった。すまない。……それで、いろいろってなんなんだ?今日、食堂でアードルフがやたらとルイーズに触れていたが、まさかそちら方面か?」
レウルスがルイーズの手を離すと、心配気な表情を向けてくる。
「そちら方面だなんて、変な言い方しないで。...........でも、ちょっと最近、アードルフのスキンシップが多いかなって戸惑うのだけど」
「困っているならきちんと話せ。やつは調子に乗るから言わなくては伝わらない」
「ええ。そうするわ」
レウルスに心配されると嬉しくなって表情が緩んでしまう。
「ところで、レウルス、旅行中の話を聞かせて」
「ああ」
それからしばらく演奏旅行の話を聞いた。評判がよく、来年の夏にも演奏旅行を計画する見通しだという。
「後援者の方は顔が広い方なのね。音楽院を卒業しても、あなたが困ることはなさそうだわ」
「ルイーズはどうするんだ?留学期間は1年だっただろう?」
ヘンリーがメッツォに帰国したことは話している。大人しく帰ったことですでに1年の留学期間は継続していると認識している。
「もう少ししたら、私と殿下の婚約話は無くなるはずよ。殿下はリリアン様と共に人生を歩むと決断したみたいだから」
「........それで良かったのか?」
「いいに決まってるわ。もう道はとっくに違えてしまったんですもの。リリアン様のせいでもあるけど、リリアン様のおかげでもあるわ。あと、アードルフのおかげね」
「……アードルフと本気の付き合いをすることはあり得るのか?」
「それはないわ」
アードルフの過去の事情を知っているルイーズは即座に否定した。
「どうしてそう言い切れる?」
「レウルスこそおかしなことを言わないで。私は……」
レウルスをしばし見つめた。
「........レウルスの手、よく手入れされているのね」
レウルスの手に触れた。レウルスがビクリとする。
「........男の手に簡単に触れるなんて、アードルフの悪影響だな」
「ずっと、レウルスの手に触れたいって思っていたの」
レウルスの手を両手で包んだ。ふっくらしていて心地よい。心なしかレウルスの顔が赤らんだ。
「口説くことも習っているのか?」
「口説くだなんて……私は逆の立場がいいけれど」
(レウルスから口説かれるなんてことは........今の状況だとあり得なさそうね)
「アードルフにもっとアドバイスしてもらったら、あなたを口説き落とすこともできるのかしら?」
冗談めかして言う。
「ばかなことを言うなよ........」
レウルスは言葉とは裏腹にルイーズの手を握る。お互いの目が合う。胸がドキドキした。
「トリアに戻って来た時に、ルイーズの事情が緊迫していて驚いた。アードルフでなければどうすることもできなかっただろうと思うと.........。自分にもどかしさを感じていた」
独白するようにレウルスが言う。
「心配してくれただけで嬉しいわ」
「オレではルイーズを助けてやることは難しかったよ」
自嘲気味に言うレウルスが気になった。
「私はレウルスにどうにかして欲しいと頼んだわけではないわ」
「........それでも、オレのファンだと言ってくれたルイーズを助けたかった」
レウルスの言葉を聞いてルイーズは複雑な気持ちになった。
(オレのファンだと言ってくれたルイーズ、だなんて。私、レウルスにまだ妹としてしか見られていないのね)
レウルスの心配は、妹を思うような気持ちからだと思うと虚しくなった。
「........今日はありがとう。また学園で会いましょう」
席を立つと、レウルスも席を立とうとした。
「レウルスの馬車は10分後に来させるわ。それまでここにいて」
「.......分かった」
なにか言いたげな表情のレウルスを残してルイーズが店を出ると、馬車が迎えに来たところだった。中からどういうわけかアードルフが降りてきた。
「アードルフ?」
「迎えに来たよ」
「どうして?」
「僕の恋人なんだから、迎えに来るのは当たり前だろう?」
ルイーズの手を取ると馬車へと乗せる。
「楽しかった?カルテット、OKしてくれた?」
「ええ」
「なんだか元気ないみたいだ」
「そんなことないわ」
そんなやりとりをする姿をレウルスは個室の窓から見ていた。
(まるで本物の恋人みたいだな………)
レウルスは胸がしめつけられるような痛みを感じていた。
アードルフのアドバイスとやらが気になって仕方がないレウルス
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