リリアンへの手紙
ヘンリーがまた屋敷にやってくると思ったが、予想に反してメッツォに帰国した。
トリアを発つ前に、ルイーズがヘンリーに挨拶に行くと彼は落ち着いた様子だった。
「ルイーズ、オレはお前を愛しているとはっきりは言えない。多分、お前もそうだろう」
「ええ…………」
今は言えなくても、リリアンが登場する前なら“好きでした”とは言えたかもしれないとは思ったが、それは言わないでおいた。
「リリアンから手紙が届いた。手紙には愛の言葉がたくさん書かれていた。あれは、オレがトリアに行くと聞いて涙を流したが、どうしてリリアンがオレをそれほど愛しているのか分からない」
「愛って……理由はないのではありませんか?彼女の気持ちは本物なのです。私は当初、彼女の行動に傷つきましたが、今では健気だなと思うようになりました」
「お前はそれでいいのか?」
「殿下は欲張りです。リリアン様にこれほど思われているのに、私の愛も求めようなんて」
「オレは王子だ」
「王子だからって人の心を手に入れるのは大変ですわよ」
ヘンリーの表情は変わらない。自分に向けられるべき気持ちが向けられないことを不満に感じているのだろうか。
「そうかもしれない。………オレはあのアードルフという者が好きではないが、お前の気が済んだ時、またお前を受け入れる心づもりだ」
まさかの言葉にルイーズは顔を上げた。ヘンリーが自分以外の者に意識を向けた者を許すとは思えなかったからだ。
「殿下………」
「初めて………オレをそんな目で見てくれたな」
ヘンリーの手が伸びてきた。顔に触れられる。
「........成長されたのですね」
「どういう意味だ。……はあ、オレはお前から見ればまだ男としての魅力に欠けるみたいだな」
怒りまくっていたヘンリーは、なんだかちょっと大人になったようだった。そのまま席を立つと、馬車へと向かう。
(留学し続けることを認めて下さったのよね?)
ルイーズは久しぶりにヘンリーを見直したのだった。
…………音楽院に戻ると皆にヘンリーの状況を伝えた。
「ヘンリー王子も少しは大人になって良かったじゃない」
「ええ。アードルフの協力があったからこそだわ」
「ルイ―ズ、もう終わったような言い方をしているけど、ヘンリー王子が帰国したからってすぐには恋人のフリは解消すべきじゃないよね。しばらくこのまま楽しみながらフリを続けよう」
「そうね。アードルフも理想の相手を見つけるという目的があるものね」
「そうそう」
アードルフはルイーズと恋人のフリをしている間に、ステキな令嬢を見つけることになっている。ルイーズとは付き合っていることになるが、男性は女性よりも恋に奔放であっても受け入れやすい。慣れている男性の方がいいという女性もいる。そこまでダメージにならないはずだ。
「私を隠れ蓑にしっかりとお相手を見極めてね?」
「なんだか、僕が悪いやつみたいだなあ」
「そんなことないわ。アードルフは素敵よ」
ふふふ、とルイーズが笑うとフローレンスが同調する。
「そう、アードルフ兄はみんなのものだもんね」
「フローレンスは本当に僕が好きだなあ」
和気あいあいとした雰囲気であったが、レウルスをチラリと見ると、彼は仏頂面だった。
(レウルスはなぜ、不機嫌そうなのかしら……?)
気になったルイーズだったが、その日は帰ったらやろうと思っていたことがあったので、レウルスとは後日会う約束を取り付けて帰宅した。
リリアンに手紙を書こうと思っていたのだ。
彼女は自分の気持ちに正直な人だ。未だにヘンリーを想い続けているのかと思うと、尊敬に近い気持ちが湧いてきていた。
(あの気難しい殿下を理解してあげられるなんてある意味、特技というか、才能だわ)
自分はヘンリーがなにを考えているのかを必死にいつも聞き出そうとしていた。だけど、リリアンはそんなことをしなくても彼の感情を引き出しているのだと思うと、相性ピッタリではないかと思える。
(でも、リリアン様ってたしか婚約者がいたのよね?)
そちらはどうなっているのかと気になっていて、思い切ってリリアンに手紙を出すことにしたのだった。
《リリアン様へ
いかがお過ごしですか?こうして手紙をリリアン様に差し上げるのは初めてですね。本来は私がリリアン様に手紙を送るなど、まわりは眉をしかめることかもしれません。
ですが、私はリリアン様の殿下への気持ちの強さに感動しているのです。はっきり言ってしまえば、私よりも殿下に対する想いは強いでしょう。
だからこそ、殿下をこれからもお支えして頂きたいと思います。私は留学して良い仲間にも恵まれ毎日が充実しているのです。これはリリアン様がいたからこそ得た機会です。複雑な思いを抱いたこともありましたが、どうぞ殿下を宜しくお願いいたします
あなたの味方、ルイーズより》
書いた手紙を読み返すと筆を置いた。
(こんなものかしら。リリアン様にはもう少し頑張って頂かないと……)
純粋に応援する気持ちだけではなく、自分の希望を叶えるための手紙であるが、リリアンを奮起させようと書いたのだった。
ヘンリーがようやく落ち着きました
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