迷いなき抵抗
「ルイーズ、おはよう!」
アードルフがルイーズにハグをする。会う度にアードルフがハグするのが当たり前になっていた。ルイーズも慣れてそれを受け入れる。レウルスの前でもそれは実行されていた。
ヘンリーから怒りの手紙が届いたことをアードルフに相談すると、彼が提案したのだ。
『もっと仲の良いところを見せつけてやればいいじゃないか。離れられないほどアツアツなんだって見せつけるのさ』
アードルフの提案は大胆だったが、恋人のフリをすると決めた以上、やるところまでやるしかないと思えた。愛し合っているように思わせられれば、ヘンリーや王たちも諦めるだろうという算段だ。単純な案だが、今のところこれが有効かもしれない。
(お父様やお兄様の立場が心配だけれど............。リリアン様がもっと頑張ってくれればいいのに)
もはや、リリアンを積極的に応援したい気持ちであった。
「.......それにしても、アードルフ、私たちしかいない時はハグしなくてもいいんじゃない?」
「こういったことは身体がすぐに反応するように普段からするのが一番だよ」
「そういうもの?」
「そうだよな。な、レウルス?」
しかめっ面のレウルスにアードルフが言う。
「......ルイーズがイヤでなければいいんじゃないのか」
「だって。ホラいいってことだ」
「そういう意味じゃない気がするけど」
音楽院の新しい学期が始まって、多くの学生がアードルフとルイーズのことを見ていた。ルイーズは正体を自ら明かしたわけではないが、演奏会に出席した貴族たちのせいでアードルフやルイーズの正体が知れ渡ったようである。
「いい感じにアピールできているみたいだ」
「私は少し恥ずかしいわ」
「恥ずかしがるぐらいでちょうどいいのよ!アードルフ兄にハグされるのが当たり前だと思って欲しくないもん!」
フローレンスは、アードルフとルイーズが恋人だと認識されるようになるにつれ、なんだか厳しい。
「心配しなくて大丈夫よ」
フローレンスはまだプンプンしていた。
すっかり、アードルフと自分のウソの交際が目立ってしまっていたが、ルイーズはレウルスから旅行の話を詳しく聞きたかった。だが、どこにいっても注目されるようになったし、レウルス自身も課題で忙しいようだ。
(もう少しして落ち着いたらレウルスとお茶でもしてみよう……)
そんなことをしていると、父から急ぎの手紙が届いた。
「なにかしら……?」
手紙を見ると、怒ったヘンリーがこちらに向かっているというのだ。
「なんで来るの!.........大変だわ……どうしよう!」
アードルフに急いで報告すると、“来るべき時が来たか”なんて悠長に言っている。
意外と執着されていたのか、ヘンリーはなかなかしつこかった。リリアンと仲良くしているくせに勝手である。
ヘンリーが来るまでどうしようかと、皆で話し合った。レウルスは積極的に対策方法を述べるわけではないが、話し合いに加わってくれた。
そうこうするうちに、ヘンリーがやって来た。音楽院で授業が行われている最中であったが、屋敷に戻るように伝えられる。
「授業の最中なのに、呼び出すなんて………。でも、従うしかないわ」
屋敷に戻ろうと廊下を歩いていると、アードルフが追いかけて来た。
「ルイーズ!ついに王子が来たんだって?」
「なぜ、知っているの?まさかあなたまで呼びつけたのではないでしょうね?」
「フローレンスが知らせに来てくれたんだ。僕も行くよ」
「あなたを完全に巻き込むことになるわ。フリなのにダメよ」
「乗り掛かった舟さ。もう、ことは起きている。それに、これはルイーズの音楽人生がかかっていることだから僕も引けないね。本気で行くさ」
「アードルフ............ありがとう」
馬車の中でヘンリーにどう話そうか話し合った。屋敷に戻ると、ヘンリーが腕を組んで客室のソファに座っていた。怒りMAXの表情だ。
「殿下、お待たせしました」
「なんでそいつもいる?」
「そいつ、だなんて言わないで下さい」
アードルフを巻き込んでしまったのは自分だ。彼を守らなくてはと思うと口調が強くなった。ヘンリーが苛立つ。
「この騒ぎはどういうつもりだ!?」
「殿下……。全ての始まりは殿下なのです」
「リリアンのことを言うならば、気にする必要は無いと言っただろう!リリアンは勝手にまとわりついているだけだ。トリアまで来たこともリリアンが勝手にしたことだ!」
「そんなことを言われたら、リリアン様が可哀そうです。リリアン様は殿下に本気ではありませんか!だからこそ、トリアまで追いかけて来たのです」
なんだか勝手すぎるヘンリーにムカムカしてきてしまって、思っていることをぶちまける。
「リリアン様の気持ちを分かっていて殿下も側に置かれていたのではないですか。リリアン様のお気持ちも考えるべきですわ」
「だから、そんなことはお前が気にすることではない!リリアンを連れてメッツォに帰ったと思ったら、お前たちのウワサが聞こえてきた。これは裏切りだ!」
ヘンリーは、自分以外の心情などどうでもいいらしい。話にならない。
「もうイヤなんです!」
「..........お前の留学を認めたのはなぜだと思う?オレがお前の気持ちを考えてやったからだ。オレの誠意だと分からないのか!」
「私の留学は王が認められたからです。それに殿下が従っただけですわ!」
「なんだと!?」
ヘンリーもルイーズも頭に血が上っていた。
「ヘンリー王子、いいですか?」
アードルフが口を開いた。
「客観的に見ても、ヘンリー王子のリリアン王女への対応が全てのきっかけだと認識されていますよ。トリアの貴族たちはルイーズに同情的です。ルイーズはトリアに来てから懸命に音楽に打ち込んでいましたし、学友たちにも優しい。大評判ですよ。僕はそんなルイーズが可愛くて可愛くてたまらないんですよ」
「ルイーズはオレの婚約者だ!」
「なぜルイーズに執着するのです?リリアン王女も可愛らしい方だと聞きます。ヘンリー王子にピッタリではないですか」
「勝手なことを言うな!」
ヘンリーが怒鳴るが、アードルフは飄々としていた。
「人の気持ちは離れたらそうすぐ戻るものではありませんよ。カッコイイ男なら女性の気持ちを認めて手放すのも大事ですよ」
アードルフの言葉にルイーズはドキリとした。
(アードルフは元婚約者のことを言っているのかしら……)
「.........殿下、アードルフは私の人生に大切な人です。音楽の面でも気持ちの面でも彼は私に欠かせません」
ヘンリーをキッと見ると、強く言ったのだった。
アードルフ、カッコイイ
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