激怒するヘンリー
翌日、音楽院に行くとレウルスがいつもの練習室に来ていた。
疲れが取れたのか、昨日とは違ういつもの変わらない態度だった。
「レウルス、おはよう」
「おはよう」
「あの、話したいことが」
「ああ。昼でいいか?」
「ええ」
短い会話が終わると、レウルスはそのまま冬の課題曲を練習し始めた。
ルイーズもほかの部屋で彼の邪魔にならないように課題曲を練習する。コンラート楽団の練習は午後からだった。
しばらく練習を続けて時計を見ると、お昼になっていた。バイオリンを片付けて急いで食堂へと向かう。
「レウルス!」
「ここだ」
レウルスが手を上げる。一緒に料理を頼みに行くと、完全に音楽院で過ごすいつもの日常に戻った感じがした。料理を手に席に着くと食事をしながら話をする。
「レウルスあのね、私、アードルフと……」
「付き合うことにしたのか?殿下はどうする?」
厳しい顔で言うレウルスは、やはりルイーズが思った通り勘違いしていた。
「違うの。ちょっともう少し近くに寄ってくれるかしら?」
ルイーズに言われてレウルスが顔をしかめながらテーブル越しにルイーズに近づく。
「なんだ?」
「実はね、私、アードルフは恋人のフリをすることにしたのよ」
「恋人のフリ?………どういうことだ?」
こちらで演奏会を開いたこと、そしてその演奏会に父だけでなく突然、ヘンリーが来たことを説明した。
「殿下にいきなり帰ってこいと言われたの。でも、私は帰りたくない。自分の気持ちを伝えたのに全く聞き入れて下さらなくて」
「1年間、留学することは王が認められたことだろう?」
「そうよ。だけど、私が楽しそうだから許せなかったのね。私がおかしくなっているなんて言うのよ」
「自由にやっているように見えて気に食わなかったということか?だが、それがどうしてアードルフと恋人のフリにつながる?」
「殿下との婚約を解消するためよ。ちょうど、都合よくリリアン様が殿下を追ってトリアまで来たことだし」
「リリアン王女がトリアに?」
レウルスの元にはリリアンが乗り込んで来た話は全く伝わっていなかったようだ。
「ええ。リリアン様と殿下がくっついてしまえば、私との婚約は解消するしかないわ。殿下たちが無事にくっつくためにも私はアードルフと恋人のフリをするのよ」
「要するに、殿下たちの障害を無くし、ルイーズもトリアに残る理由をつくるというわけか?」
「まさにその通りよ」
「そうか..........なら、アードルフが適任かもしれないな」
レウルスは合点がいったようでうなずいた。
「事情はよく分かったが、殿下のことは本当にいいのか?」
「殿下は私を自分の思う通りにしたいだけなの。もはや一緒にいるのは無理よ」
「………とは言え、アードルフを巻き込んでいることには変わりないな」
最もなことを言われて、ルイーズはうつむいた。
「アードルフもしばらく結婚には慎重でいたいからちょうどいいと言ってくれたの。とはいえ、迷惑をかけてしまうわよね」
「あいつは自分のことは自分でどうにかできるだろうが。.........それより、リリアン王女と聞いて思い出したぞ。メッツォの王宮で開かれた演奏会で、ルイーズは変装していたな。しかも、変装したままオレと話したよな?」
「ああ。あの時のことを話せていなかったわね。殿下の婚約者だという手前、変装しなくてはならなくて。あの時はまだ殿下にフルンゼ楽団に所属していることも話していなかったから」
「レイニーと話す時、おかしな声で話していたよな?」
レウルスは急にメッツォでのことを話し出した。変な空気になったからどうにかしようとしているのか。
「もう、それをからかうなら、あなたのかしこまった会話もなかなか面白かったわ」
「ああいう時は、さすがに態度を改めるだろう。まさか相手がルイーズだとは思わず、いろいろと話してしまったが」
「うふふ、あの時はとっても楽しかった」
あの時に楽しそうに話していた姿をヘンリーに見られたからこそ、レウルスはトリアに音楽留学をすることにもなったのだが。今思えば、見られたことは良い結果になった。
一通り事情を話して、メッツォでの思い出話もすると空気が完全に和らいだ。
「状況は分かったが..........オレも話ぐらいは聞けるから」
「レウルスも心配してくれるのね」
「当たり前だ」
「ちょっと珍しいと思ってしまったわ。レウルスは人の事情に関わりたくないタイプだと思っていたから」
「…………そんなことはない」
レウルスが不機嫌そうに言う。
「ルイーズ!」
突然、アードルフの声がしたと思ったら、後ろから抱きつかれた。
「ちょっと、アードルフ!」
「ハハ.......スキンシップの種類を増やしてみようと思ってね」
「これはちょっと..........ビックリするわ」
ルイーズの顔が真っ赤になる。
「アードルフ離れろ!事情は聞いたが、あまりやりすぎるな」
「これくらいいいだろ」
「ただでさえ、殿下の婚約者を横取りしたと言われるんだぞ」
「事実そうじゃないか。まあ、あちらが先に原因を作ったのだから、どうこう言われたくないね」
アードルフなんだか好戦的だった。
「だとしてもだ。殿下はルイーズに自国に帰るように言ってきたぐらいだ。お前とのことを知って怒っているに違いない」
「受けて立とうじゃないか」
「お前、なにを考えているだ」
「アードルフ、無理しないで」
「うん、大丈夫。僕はルイーズのためなら頑張れるよ」
アードルフがおどけてルイーズに微笑む。そんなアードルフをルイーズは心配していろいろと構う。構う姿を見てレウルスはまた心がざわりとした。
…………数日後、ヘンリーから手紙が届いた。ルイーズとアードルフのことを知った怒りの手紙だった。
《オレがお前におかしくなったと言ったのは間違っていなかった。お前がトリアに残りたいなどと言ったのはあの男のためだったのか?
許しがたいが、お前は男に慣れていないから惑わされているだけだろう。今なら許してやる。すぐに帰ってこい!》
という内容だった。
(冗談じゃないわ)
手紙を読んだルイーズは、絶対に帰るものか!と逆に思ったのだった。
ヘンリーはすぐ怒る
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