追いかけて来た人
夕食は、父もいたおかげで複雑な話し合いにはならなかった。
ヘンリーも戻ってくるように言ったものの、一時的な発言だったのかまわりには話していないようだった。
「トリアにはしばらくいる。明日はルイーズがトリアを案内してくれ」
「私が?」
「ほかに誰がいる?」
ヘンリーに街の案内人に指定されたルイーズは、いい迷惑だと思った。自分を泣かせたくせに、平気で街を案内しろとなどという神経がどうかしていると思ってしまう。
(案内なんてする時間があるならば、練習をしたいのに………でも、彼をメッツォに大人しく戻らせるためには仕方ないわ)
「ならば、明日は私のおすすめの場所を案内するわね」
頑張って笑顔をつくりながら言った。
「期待している」
夕食が終わると、父の部屋で親子水入らずのお茶タイムを楽しむ。
「こちらの生活はどうなのだ?」
「問題ありませんわ」
「テラスで殿下と話していたようだが。あの気安い口調でのやりとりを見るに、もしや関係が改善したのか?」
「そういうわけではないけれど、気軽な口調で話せとおっしゃるものだから」
「そうなのか。いや、てっきり距離ができた分、新たな気持ちを抱いたのかと思ったのだが」
(むしろ、殿下は私をガッカリさせてくれたわ.........)
父にヘンリーとの会話の内容を話そうとはとは思わなかった。話してもなにも良い結果にはならない。
「それはそうと、ずいぶんとアードルフ君と仲良さそうに見えたが」
「彼は、尊敬できる仲間の1人ですわ」
「そうか。だが、気を付けねばならない、ルイーズは殿下の婚約者なのだから」
父はヘンリーを嫌がりながらも、ルイーズをヘンリーの婚約者だという認識を常に持ち続けている。
「………お父様、殿下とリリアン様とはどうなっているのですか?」
手紙には記されていないので聞いてみた。彼らが相変わらず仲良くしているのならば、アードルフと企んだ計画はより遂行しやすい。
「........変わらない。ただ、殿下はお前がトリアに行ってから、少し真面目になったようだ」
「そうですのね」
(結局、殿下はなにも変わらないことを求めているのね。そんな状況で連れ戻されるわけには絶対にいかないわ)
リリアンも1年の約束でメッツォに留学してきているから、彼女にしてみてもルイーズがいない今がヘンリーとの距離を詰めるチャンスである。
(リリアン様がいっそのこともう少し頑張ってくれたら)
ヘンリーとの婚約をどうにかすることが目下の課題である。
……………翌日になり、トリアの街案内をするべく準備をしていると、思いがけないことが起きた。
「ルイーズ!大変だ!」
父がバタバタとルイーズの部屋にやって来た。
「どうしたのですか?」
「リリアン王女が……リリアン王女がやってきたのだ!トリアに!」
「えっ!?」
なんとリリアンはヘンリーを追いかけてトリアに乗り込んできたのだった。
「ならば……街案内どころではありませんわね、私は巻き込まれる前にここを離れますわ」
「どこに行くんだ?」
「音楽院へ。リリアン様と顔を合わせたくありませんわ」
「......分かった。ここは私がどうにかする」
娘を大事に思う父はすぐに理解してくれた。
(まさかの展開………。リリアン様には頑張って欲しいと思ったけど、これは予想外だったわ。相変わらず大胆な人ね)
内心、リリアンのガッツに感心した。
(トリアまで来るなんて、本気で殿下のことが好きなのね.........)
音楽院に着くと、アードルフたちが意外そうな顔をされた。
「あれ、ルイーズはヘンリー王子の対応で休むという連絡があったけど?」
「大変なことが起きたの」
リリアンがヘンリーを追ってトリアにやって来たのだと話すと、彼らも驚いた。
「リリアン王女って………どういう神経をしているんだい?」
「すごいわね、彼女って」
フローレンスが言う。
「そうね。でも、こちらにとっては好都合よね?」
アードルフの方を意味ありげに見ると、彼はうなずいた。
「フローレンスとコンラートには話しておこうと思う」
アードルフは昨日、ルイーズと話し合ったことを説明した。
「えー!アードルフ兄がルイーズの恋人になる設定??いやだぁ!私のアードルフ兄があ!」
「フローレンスはコンラートがいるじゃないか」
「一応、そうだけど」
「一応とはひどい。確かに私とフローレンスは長年、友のような関係であった。でも、フローレンス、これを機会に私にもっと向き合ってみたらどうだろう?」
コンラートがフローレンスの手を取る。
「え~、急にそんなことを言われると照れる」
フローレンスが恥ずかしそうにする。彼らは、なんだかんだで仲が良い。
「ルイーズが可哀そうな結婚をするかもしれないと思うと、助けてあげたい気持ちはあるけどさ」
「一応、アードルフにもメリットがある計画なのよ」
「うん。僕も結婚相手を考える時間を稼ぎたいからね」
フローレンスたちはアードルフの言葉を聞いて、フム、といった感じで黙った。
「そういうことなら。分かった。私たちも協力してあげる。レウルスが戻って来たら状況が変わっていてビックリしそうだね」
フローレンスの言葉にルイーズが反応した。
「そうね。彼にもきちんと説明して協力してもらわないと....」
本当は、偽りでもレウルスではない人と恋人になるのは望んでいない。けれど、今、ヘンリーに対抗できるちょうどいい人間はアードルフしかいない。
(きっとレウルスも分かってくれるはずだわ)
レウルスに分かってもらえますようにと、願いながら屋敷に戻ると、ルイーズの帰宅を待ちわびていた父が飛んできた。
「殿下は、リリアン王女を連れてすぐにメッツォに戻った。国の恥を見せるわけにいかないからな」
「そうでしたの」
「可哀そうなルイーズだ」
父はルイーズを抱きしめたが、ルイーズはこっそり晴れ晴れとした表情をしていたのだった。
リリアンはルイーズを気にするヘンリーが気になって大胆な行動に出ました
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