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【完結】婚約者の王子より、冴えないチェリストに恋した公爵令嬢  作者: 大井町 鶴(おおいまち つる)
◆第5章 変化の時

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偽りの同盟関係

ヘンリーに抱きしめられていた。


「殿下、どうしたの?........私、そんなに酔ってないわ」

「殿下ではなく、名前で呼べ」

「.....ヘンリー様、なんだか今日はおかしい」


慣れないヘンリーの腕の中に閉じ込められて、酔いが醒めてくる。


「おかしいのはお前だ。お前はトリアに来てからおかしくなっている」

「え........おかしくなっている?酔っているから?」

「違う。トリアにずっといたいだの、留学を延長したいだの、おかしいぞ」

「おかしくなんてない。トリアで勉強を続けたいの」

「ダメだ。今すぐメッツォに帰ってこい」


“今すぐ.....?”聞き間違えかと思った。


「......どうしてそんなイジワルなことを言うの?私をキライだから?」

「そんなわけあるか。オレは.......」


ルイーズはヘンリーの胸を手で押した。


「帰るなんて絶対にイヤ!」

「ルイーズ!」


ヘンリーの胸の中で抗うと、ヘンリーがギュッときつく抱きしめる。


「お前は分かっていないだろうが、今のお前は隙だらけだ。そのまま放置するわけにいかない」

「隙なんてない!帰りたくない!ヘンリー様の都合ばかり押し付けないで!」

「騒ぐな」


ヘンリーに口づけられ口を塞がれた。


「うぅ........」


涙が溢れる。ヘンリーがルイーズの涙に気付くと、ようやく唇を離した。


「......ヘンリー様はいつも自分の気持ちがなにより大事なのでしょう?私の気持ちなんて考えていない」


泣きながら言う。酔っている………と分かっているからこそ普段、言えない言葉を言った。


「ルイーズ………。お前は酔って正常な判断ができないんだ」

「違うわ。......うぅ、ぐす」


泣き続けるルイーズをヘンリーは離さなかった。


(このまま強制的にメッツォに連れ戻されるのなんてイヤ.........)


人の気配がした。


「ヘンリー王子」

「誰だ?」


ヘンリーが尖った声を出す。


「あー、僕はアードルフと言いましてルイーズとは楽団仲間です。そして僕は王弟の孫でもあります。皆さん、ヘンリー王子と話したがっていますから、お迎えに参りました。部屋に戻っていただいても?」

「.......誰が呼んでいる?」


ヘンリーは恨めしそうな様子でルイーズを離すと、部屋へと戻って行く。


「ルイーズ、これ」


アードルフがサッとハンカチを渡してくる。小声で囁かれた。


「すぐに戻って来るから。ここにいて」


そういうと、不機嫌なヘンリーを追いかけて行った。


ルイーズは泣いてはいけないと思いつつも、さっきヘンリーに言われた言葉を思い出すと涙を止められなかった。


しばらくすると、宣言通りアードルフが戻って来た。


「話の長い貴族のところに王子を置いてきたよ。......大丈夫?」

「あまり大丈夫じゃないかも」

「なにがあったの?」

「...........殿下が、トリアに来てから私がおかしくなっているというの。だから、メッツォに連れて帰るって」

「それは横暴だね。彼、ルイーズに嫉妬してるかな?」

「嫉妬?」

「ヘンリー王子も縛られた立場だ。だから、ルイーズが好きなことをして楽しんでいる姿を見て面白くないのかもね」

「………それはあるでしょうけれど、あの人も勝手にしているわ」

「あー、あの隣国の王女?」

「知ってたの?」

「うん」


アードルフはルイーズの事情をちゃんと知っていた。


「私、戻りたくないし、彼と結婚したくない」

「なら僕と仲良くしちゃおうか?」


アードルフはイタズラめいた表情をしていた。本気で言っているようには見えない。


「......笑えない冗談ってあるわ」

「冗談にしないでよ。ルイーズはここに国と親睦を深めるために来ているわけでもあるし、このまま僕と仲良くなっても悪くないと思うんだよね」

「そんなの問題になるわ。それに............」


(..........それに、私はレウルスが好きなの)


心の中で言う。


「連れ戻されたら困るだろう?ここはひとまず、留学期間を全うしたいと言って、王子をどうにか帰国させよう。それから、僕と仲良くなればいずれは彼との婚約も解消されるという段取りでどう?」

「......どうしてそんなに協力的なの?アードルフにとってメリットがあるの?」

「まあ、そうだね。僕もそろそろ相手を選ばなきゃいけないんだけど、結婚する相手はじっくり考えたい。だからルイーズと仲良くして時間を稼ぐのは好都合というワケ」

「そんなに簡単なことかしら。フローレンスたちにはなんて言うの?」

「彼らは事情を説明すればきっと分かってくれるよ。みんな、ルイーズが好きだから」


アードルフの提案は大胆だったが、自分の思い通りにしたいヘンリーとの付き合いを見直すためには、行動を起こすことも必要だと思えた。でも、やはり迷惑をかけてしまうのではないかという心配はある。


「気にしないで。我が国との強いつながりは君の国も欲しいはずだ」


トリアはエネルギー資源も豊富な土地だ。メッツォがトリアから供給されている資源はかなりある。ルイーズとアードルフが仲良くなったとして、メッツォの王と王妃は悪く思わないかもしれない。


(とはいえ、偽りの関係なのだけど......)


迷いつつも思い切ってアードルフの案に乗ることに決めた。だって、行動しなければなにも変わらない。


部屋に戻ると、ヘンリーが近づいて来た。


「戻るのが遅いぞ。..........2人で一緒にいたのか?」


ルイーズの隣にいたアードルフを見て、ヘンリーが不機嫌な表情になる。


「彼は楽団の仲間だもの。反省点を話していたわ」

「人の目を気にしろ。君もだ」


ヘンリーに言われたアードルフは両手を上げた。


「演奏会がうまくいったから、お互いに喜びを分かち合っていただけですよ。音楽は人の気持ちを高揚させますから」

「音楽は人の気持ちを落ち着かせるものでもある。.........ルイーズ、もう屋敷に戻れ。今夜は夕食を共にする」

「え……?」


ヘンリーは勝手に予定を決めていたのだった。

泣き疲れたルイーズ


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