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【完結】婚約者の王子より、冴えないチェリストに恋した公爵令嬢  作者: 大井町 鶴(おおいまち つる)
◆第5章 変化の時

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演奏時間となった。


(目の前にいる人たちはいないと思って演奏しよう)


場慣れしていないルイーズは、予期しない客人もあって心が乱れている。いっそ前にいる人たちはいないと思って演奏を楽しもうと思った。


演奏が始まる。フローレンスが最初の音を奏でた。すぐにルイーズたちも音を重ねていく。優しい音色がとても美しい。


さすが、コンクールにも出ているアードルフは、慣れた様子で曲に入り込んでバイオリンを奏でていた。


やがてチェロのフローレンスが弦を指で弾いて演奏するところにくると、皆に視線を送って合図を送る。合わせるようにビオラとバイオリンもメロディを軽やかに奏でていった。


(とても美しくまとまっているわ)


自分の奏でる音を確認するように目を閉じて確認する。理想的な演奏ができていると自分でも感じた。ビオラやチェロの音色が重なることで、繊細なメロディがより美しく聴こえる。


やがて終わりに向けて静かに落ち着いていく部分に入ると、余韻を残すような演奏をする。音が完全に消えると拍手が聴こえてきた。


客席を見ると、演奏して高揚していた気分がさらに高まった。トリアの王族もヘンリーも拍手してくれていた。父は嬉しそうな顔をしている。


そのまま、次の曲へと移る。次の曲はルイーズも大好きな“恋の挨拶”だ。甘く切ないメロディの曲はどの国でも大人気だった。


(この曲を聴くと、レウルスを自然と思い浮かべてしまうわ)


演奏しながらレウルスを思い浮かべる。レウルスへの想いが旋律に自然と乗るような気がした。


無事に演奏会のプログラムも終了となるとホッとした。


アンコールの曲も無事演奏し終わると、皆が立ち上がり拍手を送ってくれた。とても気持ちがいい。


(なんとも言えない達成感だわ)


演奏会後は、ほとんどが身内同士ということもあり、そのまま歓談タイムとなる。飲み物を持った使用人たちが会場に入って来た。


ルイーズたちがトリアの王族と話していると賛辞を受けた。


「アードルフはもちろん、コンラート、フローレンス、ルイーズ嬢は素晴らしい演奏者だの」

「ありがたきお言葉です」


礼儀正しく礼をするアードルフはいつもの軽い調子ではなく、立派な紳士みたいだった。フローレンスも淑女らしくて、いつもの様子とは全く違う。あまりにも違うので違和感を覚えたほどだ。コンラートはもともと落ち着いているから、あまり変わらないが。


「それにしても、ルイーズ嬢はとても美しいの。ヘンリー王子も鼻が高いだろう」


トリア王がヘンリーに話を振る。


(なんて振りをされるの.....!殿下はきちんと答えられるかしら.....)


心配していると、受け答えの練習をしてきたのかヘンリーはスラスラと答えた。


「はい。ルイーズが側にいるだけで癒されます」

「ルイーズ嬢が妻になったら、好きな時に美しいバイオリンの音を聴けるのも羨ましいな」

「そうですね。楽しみです」


ヘンリーが平然と答えるので、驚いた。


(リリアン様と仲良くしていてバイオリンに興味なんてないくせに。………でも、以前の私だったら同じように答えていたわね)


ルイーズはトリアに来てから、音楽院の授業に忙しくて社交界で話すような会話をしていなかった。裏表のある会話からすっかり離れていたから、こういった世界があるのを忘れかけていた。久しぶりに気の使う会話をするのはしんどい。


会場にはトリアの王族のほかにも有力貴族が招かれているようだった。普段、アードルフたちも社交をする時間がほとんどないから、今日は久しぶりの社交タイムだろう。彼らもいつもとは違う、貼り付けたような笑顔だなと思った。


一通り、トリアの貴族たちとも挨拶が終わると、やっと一息ついた。


(ノドが乾いたわ)


まわりを見るとヘンリーや父、アードルフたちもそれぞれ貴族たちにつかまっていた。


(ちょっとテラスに出てみましょう)


近くにいた使用人から飲み物の入ったグラスを1つ受け取る。泡が見えるからシャンパンだろう。


(ホントはお酒じゃないものがいいんだけど………トリアは飲み物といったら大人は基本、お酒ですものね)


グラスを持ってそっとテラスに出てみた。いつの間にか日が暮れてきている。夕焼けが美しかった。


(たくさん拍手も頂いて、褒めてもらえて………私もやりきった感があるわ)


夕日を眺めながらシャンパンを飲むと、気分が良くなってきた。


「こんなところにいたのか」


ヘンリーだった。


「あら、殿下。ごきげんよう。まさか、トリアまでいらっしゃるとは思いませんでしたわ」

「そんな話し方をするな。あの者たちと同じようにオレとも話せ」


アードルフたちと気軽に話す姿を見ていたらしい。


「………ならば。ここはメッツォ国ではないし、そうしようかな」


シャンパンをもう一口飲んだ。


「機嫌がいいんだな」

「ええ。とっても。………演奏どうだった?」

「良かった」

「それだけ?」

「褒めているだろう」


はあ、とルイーズがタメ息をついた。


(殿下の前でタメ息つくなんて………私ったら酔っているのね)


ルイーズは酔いを自覚しつつ、子どもの頃以来の気軽な会話が良いなと思えた。


それにしても、ヘンリーはトリアであってもいつも通りだなあと、感じてしまう。


「あの夕日を見てなにか思うことはある?」

「………夕日は美しいと思う」

「殿下でもそう思うんだ」

「当たり前だ。失礼だぞ。酔っているだろう」


ヘンリーがルイーズのグラスを取り上げて中身を飲んでしまった。


「まだ飲もうと思っていたのに」

「お前は酒に弱い。トリアの酒は強いのだからあまり飲むな」


(レウルスみたいなことを言うのね)


ふふ、と笑うと、ヘンリーが驚いたような顔をした。


「笑顔なんて久しぶりに見た……」

「だって私、今、楽しいんですもの。トリアにずっといたいわ」


1年なんかじゃ足りない。ルイーズは1年という約束で来ている。レウルスは3年もここに留学するのだ。彼と離れたくなかった。今ならヘンリーに留学の延長を言い出せるのではないかと思いついた。


「あの殿下、私の留学期間をもっと長くして欲しいのだけど....」

「ダメだ」

「どうして...........」

「お前は大事なことを忘れている」


ヘンリーはルイーズを抱き寄せたのだった。

久しぶりに気を使わない会話ができて嬉しいのはヘンリーもです


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