広場のカフェで聞いたチェリストの手がかり
ルイーズは翌日、ジーナを連れて街に出た。
(お父様には自由に使える時間を認めて頂いたし.........後は彼を探すだけだわ)
ルイーズは例の彼を本格的に探そうと決めたのだった。
ただ、どこから情報を得ればよいのか分からずとりあえず、広場近くのカフェに入った。
「お嬢様、今日はどのお店を見るのでしょう?」
ジーナはルイーズが店目的で来たのだと思っているらしい。
「今日は、お店が目的ではないの。ある人たちを探そうと思って来たのよ」
「ある人たちですか?」
父と広場の演奏会にはジーナは同行していなかったから彼らを知らない。簡単にこの前見た弦楽カルテットの話をした。
「まあ、そのような素晴らしい演奏をする音楽家がいたのですね」
「そうなの。私は彼らを探したいのだけど、どこから始めたら良いか悩んでいるの」
「ならば、公爵様にお願いすれば簡単だったのではないですか?」
「それだといけないのよ」
「?」
ルイーズはあくまで彼らとは対等な立場で出会いたいと考えていた。だから、父に頼むワケにいかなかったのだ。
広場にある常設された舞台にはバイオリンを弾く音楽家の姿が見えた。メッツォの王都は音楽家が集う都市としても有名だ。国も音楽家を積極的に支援していて、王や王妃があちこちから演奏家を呼んでは王宮内で演奏会を催している。
どうしようと考えていると、隣に客がやって来て座った。彼らはバイオリンケースらしきものを持っている。
「というわけでさ、困っているって話なんだよ」
「へえ」
「フルンゼ楽団もいい楽団なのにな。でも、ボロゴ楽団に声をかけられたらに思わず行っちゃうよな」
「私なら迷わず移籍しちゃうわね」
会話の内容からするに彼らは音楽家らしかった。ボロゴ楽団はメッツォを代表する楽団で、国外でも知られる存在である。ルイーズも宮中での演奏会で何度も目にしたことがあった。
「でもさあ、フルンゼ楽団のイケメンのコンマスはいいわよねえ」
「そこかよ。顔じゃなくてさ、あの楽団はなかなか勢いがあるヤツが多くていいなと思うけどね」
「悪くないけど、やっぱり実績が少ないからね。在籍するとなると......」
彼らは音楽業界に詳しいみたいだった。彼らならこの前の弦楽カルテットについても知っているかもしれない。勇気はいるが思い切って彼らについて尋ねてみようと声をかけた。
「あなた方に聞きたいことがあるわ」
「え?」
仲良く話していた2人はルイーズを見て固まった。
「な、なんでございましょうか!?」
急に彼らがかしこまった。
(あら、なぜ固まっているのかしら?服装も地味めにしてきたつもりだけど)
ルイーズは不思議に思っていたがルイーズの価値観と彼らの価値観には差があった。ルイーズの地味は彼らにとってはまだ豪華、なのである。
「楽になさって?私は、この前の週末にこの広場で演奏していた弦楽カルテットのことを知りたいの」
「えーと、あれは.........」
目の前の彼らは緊張した表情で必死に記憶を辿っている。
「それはたぶん、フルンゼ楽団の者だと思います」
「それは確かかしら?」
「はい!イケメンのコンマスがいたので間違いありません!」
女性が勢いよく言う。
(ああ、さっき話していたコンマスがいたのね)
確かに女性にワアワア言われているような人もいたみたいだが、視界に入らなかった。それよりも例のチェロの彼ばかりが目に入ったのだ。
「フルンゼ楽団の方とは知り合いなの?」
「いえ、私たちはほかの楽団の者でして........活動拠点なら知っておりますが」
「あら、では教えてちょうだい」
書くものが必要だと思って、ハンカチと口紅を取り出した。
「メモ帳がないから、このハンカチに描いてちょうだい」
「え!?このお高そうなシルクのハンカチに??」
「そんなに気にすること?」
「いえ...........描かせていただきます」
どっちが描くのだ、彼らはごちゃごちゃとやっていたが、男性が口紅を手に取ると震える手で地図を描き始めた。
「.........ここから近いのね」
「そ、そうですね。あの............もしかして楽団を訪ねるご予定でしょうか?」
「もちろん、そうよ」
「でしたらならば..........もっと庶民のような服装で行く方が無難かと........」
「これでも地味よ?」
「........庶民はアクセサリーなど身につけられませんので」
言われてみれば、ピアスやブレスレットを身につけていた。いつもより地味だが。
「ふうん。ならば、庶民の洋服店も教えてちょうだい」
一通り聞き出すと、ジーナに言って金貨を与えた。
「こんなに頂いては........!」
「いいのよ。だけど、私たちが話したことは秘密よ」
「かしこまりました!」
カフェを出ると、ルイーズたちは庶民の洋服が買える店に向かうことにした。
「フルンゼ楽団が庶民の集まりだとは知らなかったわ。彼らに服装を合わせた方がいいのね」
「さっきの彼らの話では、あまり貴族が好きではないみたいですしね..........一理あるでしょう」
音楽をやっているのは裕福な者ばかりではないのはなんとなくルイーズも知っている。だが、あまり気にしたことがなかったので、服装のことなどを言われて驚いた。
ちなみにルイーズの所有しているバイオリンは屋敷が1軒買えるほどの高級なものだ。さすがに彼らはそんな高級な楽器を買うことはできないだろうが、それなりの生活をしているのだろうと思っていた。だが、この服装が華美だというならば、彼らはどんな生活をしているのか............。
(あのチェロの彼もお金に困る生活なのかしら........)
彼の境遇を心配した。
(まあ、でもいざとなれば私がコッソリ補助すれば良いことだわ)
ルイーズはのんきに考えていたのだった。
庶民の感覚が新鮮なルイーズ
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