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【完結】婚約者の王子より、冴えないチェリストに恋した公爵令嬢  作者: 大井町 鶴(おおいまち つる)
◆第4章 留学

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女性とデートする姿を目撃

音楽院での音楽漬けの日々は続いていた。


トリアに来てから早くも3ヶ月が経とうとしている。最初はアードルフやフローレンスとの他にもクラスメイトと共に食事に行ったりする時間もあったが、音楽史や分析・理論・実技などたくさんの学ぶことがあった。


「メッツォで専門の先生から指導を受けてはいたけど、レベルが違うわ」

「やはり違いますか?」

「違うわ。才能があれば飛び級もできるし、私よりもずっと若い子が学んでいることもあるわ」


皆、音楽院にいる生徒はただ授業を受けるのではなく、将来を考えてコンクールにも積極的に応募している。


レウルスもチェロのコンクールに応募すると言っていたし、買い物に行く時間もないぐらい忙しいらしい。


ルイーズは音楽家を目指しているわけではないが、音楽家などを目指す人たちに囲まれていると、自分もそうしなくてはいけないような気分になってきていた。


ここのところ、週に数回アンサンブルを続けているアードルフにも褒められるようになってきていて、自分の実力を試したいような気にもなっている。


今日もアードルフと放課後に一緒に練習をしていた。


「ルイーズ、最初の頃に比べて想像力豊かな演奏ができるようになってきたね」

「本当?嬉しいわ」


曲を奏でる時、レウルスと買い物で出かけた日のことを思い浮かべながら音と対話していた。ちょっとワクワクするような、甘くドキドキするような気持ちを思い出すのである。


(心を揺さぶる感情や風景……さまざまなものが刺激になるのね)


まわりに優秀なバイオリニストもたくさんいる。バイオリンだけではなくピアノなどの楽器の他にも声楽、指揮、作曲など実にさまざまなことを学ぶ学生が音楽院には溢れていた。常に刺激を受ける毎日である。


(大変な毎日だけど、留学したからこそ得られるものもたくさんあるわ)


気を抜くと、音楽家志望のまわりの生徒に引け目を感じてしまうどころだが、ルイーズは負けたくなかったし成長したかった。アードルフやフローレンスもルイーズの頑張りを認めていた。


「もう少し練習するわ」


バイオリンを再び手に取って弾き始めると、突然、弦がぷつりと切れた。


「あ、弦が」

「予備の弦は?」

「それが今日は用意していなくて…」

「予備は常に持っておこうね。僕の弦の種類とは違うようだし、今日はここまでにしようか。僕はもう少し残るよ。課題曲の練習があるからね。一人で大丈夫?」

「大丈夫よ。がんばって」

「うん」


アードルフがウィンクして見送ってくれる。廊下を歩いていると、フローレンスとレウルスがよく練習している音楽室には二人の姿はなかった。


ここのところ、授業の方でもなにかと課題が多く、それぞれで練習することも多い。レウルスもどこかで練習しているのだろう。


ルイーズは馬車に乗ると音楽店へと向かった。


(今日もよく練習したわ.......)


朝から一日中、音楽のことを考える時間が続いている。馬車から見える街の様子をなにも考えずに眺める時間がとても平和に感じられた。


しばらくなんの気なしに街の様子を眺めていると、レウルスに似た人が目に入った。見間違いかもしれないと思った。


というのも、レウルスが女性と腕を組んでいたように見えたからだ。彼にデートするような人はいないはずだし、失礼だがレウルスはそういったことと縁遠い人だと思っている。


(でも、見間違いか確かめなければ!)


「馬車を停めて!」


ルイーズが急いで馬車を停めさせると、レウルスが歩いている方を観察する。よーく見たが、間違いなくレウルスであった。女性をエスコートしているようだ。


(あの、レウルスが.........?ウソでしょう!?)


あの人付き合いが苦手で女性をエスコートするのも得意ではなさそうなレウルスがなぜ、あんなことをしているのだろうと頭にハテナでいっぱいになった。近頃はただでさえ、コンクールに出ようとして忙しいはずなのにだ。


(どういうこと!?そして、あの女性は誰?ずいぶんと色っぽい人だったわ!)


自分よりも年上だと思われるキレイな女性は、身なりからして貴族らしく見えた。


(どうしよう、気になる……)


バイオリンケースを見てしばらく悩んだが、レウルスたちが角を曲がるのを見て心を決めた。


「私、ここから歩くわ!」


そう言うと、馬車を降りた。御者席に座っていた護衛が慌てて降りて来る。


「お嬢様、急にどうしたのです?楽器店に行くのでは?」

「レウルスを見かけたのよ」

「レウルス様を?」


屋敷の者にはレウルスは尊敬する先輩である、と説明している。もし、レウルスを街で見かけたら親切にするように言い聞かせていた。


「レウルス様に会いに行かれるのですか?」

「いえ、誰かといるようなの。それが誰だか知りたいのよ」

「.........それは尾行ということですか?」

「そうとも言うわね。私、レイニーさんから弟を宜しくと言われているから、相手が誰だか見極めなくてはならないわ!」


もっともらしい理由を言う。護衛は‟え?”という顔をしたが、スルーした。少し、強引な理由ではあるが、護衛である彼は主に逆らうことはできないのは分かっている。


「早く追わないと見失うわ!」

「........了解です。お嬢様は私のすぐ後ろを歩いて下さいね」


なぜ、そんなことを言うのだろうと思ったが、背の高い大柄な護衛の彼の後ろに立つと、自分の姿はすっぽり隠れた。


「急ぎましょう!」

「はい!」


大きな男に隠れるように追う姿は、傍目から見るとちょっぴり奇妙であった。

突如、始まった探偵ごっこ


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