ふたりの正体
少し前をフローレンスとレウルスが話しながら歩いていた。
チェロの話でルイーズが入ることができない。
「ルイーズ?眉間にシワが寄っているよ。どうかしたの?」
「いえ....。フローレンスは誰とでも打ち解けるのが早いのかなって」
「ルイーズは人付き合いが苦手?」
「そういうわけでもないけれど.........」
(社交界で人付き合いは必須よ、と言っても彼らには関係のないことよね)
アードルフとフローレンスはトリアの中心街に住んでいるからそれなりに裕福なところの子どもだろうが、気さくな話し方からするに平民だと想像している。自分から聞くのは失礼かと思って確かめてはいない。
「ここはトリアなんだからさ、ルイーズももっと気楽にやるといいよ。そうじゃない?」
「..........確かに。まだ、余裕が無くて」
「バイオリンなら焦っても仕方ないよ。どうしても時間が必要だ」
「ありがとう。アードルフは優しいのね」
「ルイーズこそ、とってもチャーミングだよ」
「チャーミング?そんなことを言われたのは初めてだわ」
チャーミング、と言われて少し複雑な気持ちになる。普通は誉め言葉だろうが、なんとなく親しみがある人という意味で言われているような気がしたのだ。
人前で素直に感情を出さないように教育されてきたのもあって、親しみを持たれるのに慣れていなかった。
(素の自分を知られるって、鎧を着ていない騎士みたい。どことなく不安になるわ)
「あの......私を簡単に理解しようと思わないで」
「え?どうしてそういうふうになるの?警戒してるならしなくていいよ。僕はいい人だしさ」
「自分でそんなことを言う人はいないわ」
「ガードが固いんだな。僕のことは信じていいよ。だから、ルイーズも自分の思っていることを素直に伝えてよ。それは音楽にも役立つよ」
「音楽に役立つ?」
「ルイーズに足りないのはまさにそこだと思うよ」
(感情を音に乗せろ、ということかしら?..........確かに、今まで演奏する時にキレイな音を出す方に比重を置いてきたわ)
「あなたはよく人のことを観察しているのね」
「いやあ、ルイーズだからだよ」
出会ったばかりのアードルフがどうしてそんなことを言うのか分からないが、好奇心旺盛なのだろうと思った。
そして、そんな好奇心旺盛な彼らに誘われて大してどんな人物なのかも知らずに食事へと行こうとしている。
(こんなこともトリアだからこそできることよね)
ルイーズ1人なら断っただろうが、レウルスがいるから来た。
「ここよ!“マアド”!」
フローレンスが看板を指している。ステーキ店らしかった。店に入ると肉の焼ける香りがして食欲をそそられる。
「美味しそうな香りがするわ」
「ここの肉料理はどれもおすすめだよ」
案内された席につくと、慣れた様子でアードルフとフローレンスが注文していた。
「馴染みのあるお店なの?」
「ああ。良く来るよ」
「というより、ここはアードルフ兄のお店だもんね」
「おい、言うなよ」
アードルフがフローレンスに言う。
「あなたのお店?ご実家が経営しているの?」
「...............うーんとさ、まあ乾杯してから話していこうよ」
ワインが運ばれてきた。まずは乾杯をする。
酒を水だと言ったフローレンスたちは本当によい飲みっぷりだった。料理が運ばれてくる前に何杯もグラスを空けている。
「それでそろそろ、ここのお店とのつながりを説明してくれてもいいのでは?」
ルイーズもお酒を飲んで気分が良くなってきたのもあって、気になっていることを聞いた。
「僕はいろいろと手広くやっているんだよ」
「あなたが経営しているの?」
「手伝ってくれる人やアドバイスする人がいるからね」
「アードルフ兄、まどろっこしい。もう言っちゃえばいいじゃん」
「まあ、これから仲良くなりたい君たちに隠すことはないからなあ」
気になる言い方をする。
「教えて。私のことは話したでしょう?」
「え~、じゃあルイーズがキスしてくれたら話そうかなあ」
調子に乗ったアードルフがバカみたいなことを言ってくる。
「するわけないわ」
「さすがにアードルフ兄がそういうことを言うのはヤダ」
レウルスは黙っているが眉の間にシワが寄っていた。腕を組んでいる。
「冗談だよ。...........僕さ、王弟の孫なんだよ。といっても側室の子どもだから、かなり自由にさせてもらっている。フローレンスも同じだよ」
「王族に連なる血筋だったのね」
「いや、でも正当ではないし...........」
「私はそんなことを気にしないわ。それに音楽には関係ないことでしょう?」
レウルスがいつか言った言葉をそのまま言う。レウルスもうなずいていた。
「やっぱり君たちはいい人だなあ。良かった、良かった」
いい人、と言われてかつての自分を思い出した。人道的ではないことをした覚えはないが、手を拭いたハンカチをそのまま床に捨てたりしていたことがあった。片付けるのはメイドの仕事であってそこまで気を使わなくていいと思い込んでいたのだ。
学園に入って、まわりの人を知るにつれてそれは改善されたが、勘違いとは恐ろしいものだと思う。
(環境って大事よね。人に褒められる人格で良かった)
公爵令嬢としてはもっと気高くていいのだろうが、あれは疲れる。自然体でいられるのはとてもラクだった。
ふと見ると、目の前のレウルスは隣に座るフローレンスにつがれるままワインを飲んでいた。フローレンスも気楽な立場を楽しんでいて自由であった。
(楽しいな)
いつの間にかリラックスしてお酒を楽しんでいたルイーズだった。
自由に生きる彼らに影響を受けるルイーズ
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