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【完結】婚約者の王子より、冴えないチェリストに恋した公爵令嬢  作者: 大井町 鶴(おおいまち つる)
◆第3章 戻った日常

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ついて来てほしいって言って

突然のレウルスの留学話は楽団員の中で大きな衝撃をもたらしたが、彼らは意外と柔軟に受け入れていた。


(皆は納得しているみたいだけど、私はまだ.........)


音楽留学の真相を確かめたくなった。


「レイニーさん、ちょっと聞きたいのだけど」


レイニーの袖を掴んで事務室の方に向かう。部屋に入り扉を締めると向かい合った。


「部屋で2人きりになるのはマズイんじゃなかった?」

「今はそんなことはどうでもいいわ。............どうして、突然、留学だなんて話になったの?」

「君が気にすること?」

「それはだって………」

「君は殿下の婚約者だから?」

「これはレウルスさんと楽器店に行った時のことが原因だわ。私は彼とは楽団仲間であってなんでもないと説明したのに。...........だけど、殿下は気に入らなかったのでしょう。こんなことになってしまったのは私のせいだわ」

「だから、君が気にする必要はないんだよ」


ゆっくり、はっきりと言われる。


「.......どういう意味で言っているの?」

「さっき、レウルス自身が言っていただろう?前向きに考えているって。あいつにとっては、どんな形であれ、音楽留学できるのはチャンスなんだよ」

「チャンス...........?」

「そう、チャンス。音楽を本格的にやろうと考えている者なら留学は当然、念頭にあるからね。ここも音楽が盛んな国だけど、トリアは世界から音楽家がやってくる国として有名だし」

「レウルスさんは良くても、レイニーさんはそれでいいの?大切な右腕なのではないの?」


楽団の立ち上げは2人が行ったことだ。レイニーが主力になっているとはいえ、レウルスがいなくなってしまっては痛手になるのではないか。


「大丈夫だよ。オリビア.........ルイーズ様が褒めてくれたのもあって、順風満帆だよ」

「ルイーズ様だなんて言わないで。距離を感じて寂しいわ」

「ごめん、オリビアちゃん」


レイニーがふざけた様子で言う。


「からかっているの?本当は私の名をそのまま呼んでもらいたいと思っているというのに」

「.....オレもそうしたいけどさ、殿下に睨まれたくないかなぁ」

「そうよね、ごめんなさいね。私は、あなたたちとこうして気軽に話せるのが嬉しいわ。ここは私の大切な場所なのだから」

「そう言ってくれると嬉しいよ」


頭を撫でられた。頭を撫でるのは彼の癖なのだと思った。


「レイニーさんは殿下に直接会ったの?」

「いや、侍従の方から伝えられたよ。留学費用の小切手もその時に渡された」

「ずいぶんと手際よく用意されていたのね」


結局、ヘンリーは自分の思い通りにしたかったのだと感じてしまう。


「オレも聞きたいんことがあるんだけど。オリビアがここに所属することを殿下は許してくれているの?」

「ええ」

「寛大なんだか、そうではないんだか………。高貴な方が考えることはよく分からないな。あ、これはここだけの話で」

「もちろん、話すわけないわ。私がここに所属していいと許されたのは..............社交をしているなら知っているでしょうけれど、リリアン様が関係しているわ」


レイニーの顔を伺うと、合点がいっているようである。


「君という婚約者がいながら、隣国の王女様と仲良くしているんだっけ」

「まさにその通りよ」

「殿下はリリアン様を側に置くために私にも好きなことをさせようとお考えなのよ。だから、楽団に所属することを許したの。でも...........レウルスさんを突然、留学させるなんて。彼にとってチャンスだとはいえ、横暴だわ」

「カフェでお茶していただけでそうなるのか」

「..........実は、王宮での演奏会時にレウルスさんと話していたのを殿下に見られたのも原因だわ。つい、音楽談議に花が咲いてしまって楽しそうにしてしまったの」

「殿下はなかなか嫉妬深いんだね。お気に入りのお姫様もいるってのにさ。......あ、ごめん」

「いいの、事実よ」

「あのさ...........」


レイニーがためらうように口を開く。


「オリビアがここに入団してきたのは、逃げる意味もあったんだよね?」

「広場での演奏に感激したのは本当よ。殿下が勝手なことをしているから自分も新しい世界を持ちたいと思ったのも本当。それではダメかしら?」

「いや、音楽は素晴らしいものだ。人を感激させたり、慰めになったり、やる気にさせたり。ただの逃げ場になっていないのならいいのさ。でもその心配はないね。オリビアはいつでも真面目に音楽に向き合っているからね」

「そう言われると安心するわ」


練習場に戻ると皆、まだ練習を続けていた。レウルスの留学話が皆の刺激になったらしい。レウルスもチェロを弾いていた。


ルイーズは皆が帰るのを待って、まだ練習をしていたレウルスに近づいた。練習場には2人しか残っていない。


「レウルスさん、少し話をしてもいい?」

「どうした?」

「留学の話なんだけど……本当に迷いはないの?レイニーさんと一緒に立ち上げた楽団でしょう?心配ではないの?」

「オレがいなくなっても変わらないさ。ミアにとってはオレが去ることをチャンスだと思えるほどであって欲しい。仲良しごっこをしていたんじゃ、大した演奏家になんてなれない」


どこの世界でも一流になろうと思ったら激しい競争がある。音楽家同士の競争も当然あると言っているのだ。


「分かるけれど.............私はあなたの美しいチェロの音色が聴けなくなると思うと寂しいわ」

「………3年はそう長い時間でもない。あっと言う間だ」

「3年間も行くの!?」

「さっきレイニーが話していただろう?」

「ちょっと混乱していて聞いていなかったわ……」


妙な沈黙が漂った。


(私がこんなに動揺していたらおかしいとレウルスも思うわよね..........落ち着かなきゃ)


「オレが戻るまでにお前も成長していることを望む」


別れの言葉を言われたようでたまらなくなった。


(置いてかれるなんてイヤ。離れたくない……ついて来てほしいって言ってくれたら嬉しいのに)


「泣くな。………ルイーズ嬢はどうしてそんなに無防備に涙を見せるんだ」


そう言うと、レウルスはルイーズを腕の中へと引き寄せたのだった。

突然の留学話は皆の刺激になりました


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