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【完結】婚約者の王子より、冴えないチェリストに恋した公爵令嬢  作者: 大井町 鶴(おおいまち つる)
◆第3章 戻った日常

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阻止しようとする婚約者

ルイーズの発した言葉にヘンリーの形相が変わった。


「お前は、本気でその男が好きなのか!?」

「........そういうことではありませんの。私と殿下では考え方が違い過ぎるのではと思ったのです」

「どういうことだ!?」

「殿下は私が殿下に心を寄せていると思って下さっていますね。でも、私を兵士に見張らせるなんて信じていないのと同じではありませんか。一方で、未だリリアン様も側に置かれたままです。私をどうしたいのです?このままでは私は壊れてしまいますわ」


ヘンリーが黙りこんだ。またお得意のダンマリである。リリアンと別れて欲しいわけではないが、正論で攻めた。


(...........黙り込んでしまったけれど、殿下は鋭いわ。私がレウルスに惹かれていると思っているのだから)


「念のため、申し上げますが一緒にお茶をしていた彼は、フルンゼ楽団を起ち上げたにサンス男爵の令息です。あの日は弦を探しに楽器店に行く途中でした」

「なぜ、茶を飲まなくてはならない?」


どうしても2人でお茶したことが引っかかるらしい。


「私は楽団の皆には身分を隠して商家の娘だと言っていますから、馬車に乗って行きたくなかったのです。馬車で向かえば目立ちますし。歩くには距離があったので、お茶をして休憩したのですわ」

「一緒にいたサンス男爵の息子はお前が貴族だとは知らないのか?」

「サンス男爵の令息たちも私の本当の正体を知りませんでした。ですが今回、お茶をしているところを見た貴族の誰かがウワサをしたことで、彼の兄には私の正体を知られました」

「知られてどうする?」

「彼は言いません。私の正体を楽団の皆に知らせても良い結果にならないからです」


ほんの少し、ヘンリーが落ち着いたようだ。


「楽団に所属してどうするつもりだ?音楽家になるわけでもないのに」

「音楽家にならずとも、音楽に真面目に取り組むのは自由ではありませんか」

「音楽家にならないのにムダであろう」


ムダ、と言われてカチンときてしまう。


「私が本気で音楽に取り組もうと思ったのは、誰が原因だと思われますの?」

「オレのせいだというのか?」

「当たりです!」


これまでは、ヘンリーがほかに目を向けることがあったとしても、目をつぶることができると思っていた。だが、あからさまに目の前でそれを見せられると、意外と自分のメンタルが弱いのだと思い知らされた。自分はいろいろと耐えていたのだ。ルイーズはこぶしを膝の上で握りしめた。


「.........でも、殿下のおかげで私は音楽に真剣に向かい合うことができました。殿下との婚約が無くなれば私は音楽を糧として生きていきます」

「バカなことを言うな!そんなに簡単なことではない!」

「殿下が強く主張なされば婚約の解消は叶えられるはずです」

「.........なぜだ?」


ヘンリーが立ち上がる。ガッチリしたヘンリーに見降ろされると怖い気持ちになった。


「なぜ、お前はオレから離れようとする?」

「さっきも言いましたが、私はつらいのです。もう、自由にして下さいませ」


だんだんと言っているうちに感情が高ぶってきて、勝手に涙が出てきた。涙腺のストッパーが完全に壊れているようである。


「み、見ないで下さいませ」


横を向いて手で涙を拭うと、ヘンリーに抱きしめられた。


「こんな時に言うのもおかしいが、お前がそうやって感情を露わにするところを久しぶりに見た」


久しぶりに近くで感じるヘンリーからは懐かしい香りがした。ベルガモットの爽やかな甘みのある香りは昔、ルイーズが褒めた香りだった。


「殿下、私を抱きしめている姿をリリアン様が見たら怒ります」

「リリアンはここにはいない」

「殿下はリリアン様をお好きなのでしょう?」

「分からない」

「分からない.........?」


(分からないってなに?)


分からないのにキスをされても許すのかと、言いたくなった。


「.........自覚されてないだけで、殿下はリリアン様を愛してらっしゃるのです」

「お前はオレを愛しているのではないのか?」

「話をすり替えないで下さいませ」

「いいから答えろ」


殿下は強引だと思う。


「.......私が愛していると言ったら、なにか変わるのですか?」

「変わらない。そもそも最初から何も事態など変わらないんだ」


もう、ワケが分からなかった。ヘンリーはただ、現実を見ようとせず甘えているだけなのではと思えてくる。


「……殿下は残酷です。曖昧な気持ちのままあちらもこちらもと引き止めるのですから。私ぐらい手放しても良いでしょう」


涙がまた一筋頬に流れていく。


(この方は誰でも自分に向き合うのが当たり前だと思っているのだわ。横暴よ)


「やはり、お前の心はあの者に向かっているのだな」


言われてドキリとした。


「どうしてそう考えるのです?」

「廊下で例の男爵家の息子と話す様子を直接、見たからだ。茶を飲んでいた男と同じ男なのだろう?」


意外と事態をきちんと把握しているのだと知った。


「............私は彼の弾くチェロの音色に惹かれているのです。彼自身ではありません」


半分本当で半分ウソを言う。レウルスに迷惑をかけたくなかった。


「だからお願いです。フルンゼ楽団には何もなさらないで下さいませ」

「お前が楽団で活動することは認めてやる」


予想外の言葉を聞いてこわばらせていた体から力が抜けた。


「本当ですか!?」

「だから、これまで通りだ。音楽があれば支えになるのだろう?」

「はい......」


婚約を解消することは無いと言う意味であった。


(リリアン様と楽団のことは交換条件だと言いたいのね……)


ヘンリーの胸の中から抜けようとすると、上を向かされた。目が合う。


顔が近づいてきた。まさかと思ったが、そのまさかだった。


「なにを.........ん」


ルイーズが言葉を言い終わらないうちにヘンリーはルイーズにキスしたのだった。

ヘンリーが.........行動にでたぞ


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