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【完結】婚約者の王子より、冴えないチェリストに恋した公爵令嬢  作者: 大井町 鶴(おおいまち つる)
◆第2章 宮廷にて

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勘違いする婚約者

苛立ちを感じていたが、フルンゼ楽団の皆が演奏する音楽は心を癒してくれた。


落ち着いた旋律は徐々に重厚でドラマチックな旋律となり、美しい音色に自然と涙が出そうになる。止めようと思っても自然と涙がこぼれ落ちた。


(音楽ってどうしてこんなにも人を感動させるのかしら。心が洗われていくようだわ)


ベールがあって良かったと思った。そっとハンカチで涙を抑える。


チラリとヘンリーを見ると、彼はルイーズが泣いていることに気付いてはいないようだった。リリアンにおいては退屈そうであくびを噛み殺していた。


(信じられないわ。どうしてこんなに美しい音楽を聴いて眠たくなるのかしら。音楽に共感できないなんて可哀そう!)


音楽を愛するルイーズにとっては リリアンの行動が信じられなかった。


(それより、演奏を聴く方が大事だわ!)


演奏は、主題となる部分が繰り返し奏でられ最も盛り上がるところであった。


(皆、ステキよ!)


心の中で一生懸命、応援した。自分も一緒に弾いているような気分になる。


男性の団員は皆、髪の毛をキレイに後ろに撫でつけられたヘアスタイルで統一していた。練習場で会うラフな姿とは違って皆、スタイリッシュに見える。


(レイニーやレウルスもとてもステキだわ)


いつも一流の演奏家の集まる楽団の音楽しか聴いたことがなかったが、自分が所属する楽団ということを除いても彼らはとても良い演奏をしていた。


(私、どうして一流の音楽家と言われる人の演奏だけが素晴らしいと思っていたのかしら............)


ルイーズは公爵令嬢として生まれてから、常に最高のものに触れる生活をしてきた。街に出て気軽な音楽演奏を聴くことはあっても、それは正式なものとは別物だと思っていた。


(恥ずかしい。彼らはいつだって真剣に音楽に取り組んでいたのに.....)


そう思ったら、悔いる気持ちもあって余計に涙が流れた。


しきりに涙を拭く姿に、隣にいたヘンリーもさすがに気が付いたようだ。リリアンも気付いたらしい。


急にヘンリーに手を握られた。


ビックリしてルイーズが思わずヘンリーを見ると、隣でリリアンが睨んでいた。


(わざわざリリアン様の前で手を握るなんて..........殿下はなにを考えているの?)


こうなるともう、音楽を純粋に楽しむ余裕がなくなった。幸い、プログラムも終盤であったので間もなく演奏は終わりを迎えたが、落ち着かない演奏会となってしまった。


泣いて鼻をかみたくなったルイーズはそっと席を立とうとすると、なぜかヘンリーもついて来ようとする。


「殿下はこちらでお待ちくださいませ。私一人で大丈夫ですわ」

「………」


振り切るようにして部屋を抜け出すと控室へと急いだ。部屋で鼻をかんで、涙で崩れたメイクを拭き取ると、ようやく落ち着いた。


「感動して泣いてしまったから顔がひどいわ。ベールをしていてちょうど良かった」


ホッとしていると扉が開いた。


「ルイーズ」


ヘンリーだった。


「殿下、どうしてここまで.......」

「お前が泣いていたからだ。泣いていた理由が気になった」

「理由………?」


(そんなの、音楽に感激したからじゃないの)


不思議なことを聞くものだと思っていると、ヘンリーは見当違いなことを言った。


「リリアンがいたからだろう」

「え?」

「今日の演奏会はさっきも言ったように隣国の王族であるリリアンも...........」

「リリアン様は関係ありませんわ。音楽に感動したからです」

「..........そう言い訳できるからこそ、泣いたのだろう?嘘をつくな」


(なにを言っているの?)


ヘンリーと自分は考え方が違うとは常々思っていたが、こうまで違うことを言われると唖然とした。


「リリアン様は本当に関係ありません」

「ではなぜ、最近は宮中に顔を見せない?リリアンに会うのが嫌だからだろう?」

「.........ただ、忙しいのですわ」

「学園に通っていないのに、なにに忙しいというのだ?」


(学園に通っていないのにですって?)


留年して忙しくなったのはご自分のせいではありませんかと、言いそうになってグッと言葉を飲み込んだ。


「私だって、いろいろとやることはありますから」


ツンと横を向くと、ヘンリーに腕を掴まれた。


「ならば、来い。楽団の者が戸惑っている。お前が機嫌を損ねて出て行ったと思っている」

「なんですって?」


思わぬことを言われて、ヘンリーに連れられるまま演奏会場に戻ると、貴族達が楽団に話しかけている最中であった。


「まあ、そうなのね!」


リリアンが甘えた声で話していたのはレイニーであった。レイニーは笑顔でリリアンの相手をしていた。


(レイニーの営業スマイルはともかく.............リリアン様ったらあくびをしていたくせに調子がいい)


「ルイーズからも労いの言葉をかけるように」


ヘンリーに言われてレイニーの前に立つと緊張した。ベールがあるとはいえ、距離が近い。


「私たちの演奏はいかがでしたでしょうか?」


レイニーは少し不安気な顔で聞いてくる。


(演奏が気に入らず部屋を出たと勘違いをしているのよね………)


ルイーズは正体がバレないようにしなくてはと緊張が走ったのだった。

ヘンリーは人の感情を推し測るのが苦手です


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