陽気な楽団員たち
ルイーズが入団して初めての練習日に練習場に向かうと、入口のところで楽団員のメンバーに会った。
「やあ、オリビアちゃん!今日から練習に参加だよね。僕はトランペット担当のブラッドだよ。宜しくね!」
握手を求められてルイーズも手を握った。
「オリビアちゃんの手はよく手入れされているよねー。白くてキレイ!」
「え、そうかしら?」
「オレも楽器を使う人間だから手のケアはしておきたいんだけどね」
ブラッドの手は荒れていた。手を使う職業なのだろうか。
「いい演奏のために手のお手入れは大事よね。今度、手に良いクリームを持ってくるわ」
「え、ありがとう。でも、そいういう意味で話したわけじゃないんだ。....気を使わせちゃったなあ」
ブラッドは嬉しそうにしながらも頭をポリポリとかいていた。部屋に入ると、まだ数名しか来ていなかった。
「まだ、全然人が来ていないわ」
「皆、働いているからね。皆、結構忙しいんだ。だから、練習に皆がそろうのもなかなか難しくてさ」
「そうなのね……」
(庶民はそういうものなのね………)
ルイーズは学問やマナーなどはたくさん学んできたが、労働経験は無い。庶民の生活など想像したことが無かった。
「オリビアちゃんはなんかいいとこのお嬢様っぽいね。どこに住んでるの?」
「えーと、私は……」
「ブラッド、さっそく口説いてんのか?」
ホルンを抱えた男性が声をかけてきた。
「あ、オレ、クリフっていうんだ~。ホルン担当ね。宜しく!」
「オレもオレも!オレはコントラバス担当でモーリス!同じ弦楽器同士仲良くやろうよ!」
わらわら男性団員達が集まってきた。
(話が逸れたのはいいけど、一気に自己紹介タイムになったわね。えーと、あの人がブラッドでこの人がクリフで、コントラバスの人がモーリスだったかしら.........?)
「ブラッド、クリフ、モーリス、宜しくね」
「お、すぐに名前を憶えてくれたんだ?」
「名前を覚えるのは得意よ」
社交界で名前を覚えるのは必須だ。名前を覚えるのは仕事だと言ってもいい。
わちゃわちゃと話していると、楽器ケースを肩にかけた女性が扉をバンと開けて入って来た。
(なんか、勇ましい感じの女性ね)
赤毛に目元がキリリと上がった女性だった。
「よお、シャーロット!」
「何の騒ぎ?練習しないでおしゃべりしている時間があると思ってるの?」
「怒るなよ。美人が台無しだぜ。この子だよ。新しく入団した子って。オリビアちゃんていうんだ」
「ああ、その子がオリビアというのね」
ジロリと見られる。
(不躾に見てくるなんて無礼ね)
たまに社交界でも挑戦的なタイプがいるが、こうもあからさまな視線を投げつけられるのは珍しい。
「あんた、挨拶は?」
「え?」
「新入りなんだから、あんたから挨拶するのは当然でしょ?」
(……庶民はそういうものなの?)
どうも庶民と貴族ではいろいろと違うらしい。いつもならぞんざいな言葉を言う者には冷たい対応するルイーズだが、庶民の感覚に慣れていないルイーズはそんなものなのかと素直に受け取った。
「挨拶が遅れましたバイオリン担当のオリビアと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
ハッキリとした声で挨拶をし、礼儀正しくお辞儀をする。
「よし、きちんと挨拶できるじゃない!気に入った!」
先程まで睨みつけるような表情をしていたシャーロットはいきなりルイーズに抱きついた。
「え?え?」
「挨拶は基本よね!アタシ、素直な子が好きなのよ。そういう点でアンタは合格!ここって男ばっかりだし、スイーツの話をできる女子が入って来て嬉しいわ。こいつらにスイーツの話をしても全然伝わんないし」
「はあ.........」
「アタシがいろいろと教えてあげる!」
シャーロットは長い髪の毛をかき上げながらウィンクした。
「おいおい、何を教え込もうとしているんだ?妙なことは教えるなよ?」
やって来たレイニーが言う。彼の後ろにはレウルスもいた。目が合ったが、すぐに逸らされた。
(レウルスって貴族なのに愛想が悪いのね)
社交界ではいかに余裕を持って優雅に見せるかが大事なので、余裕がなさそうな不機嫌な表情をする者はまずいない。だから、むしろレウルスみたいな人は逆に新鮮である。怒りの気持ちが湧くというよりも珍しい生き物をみるような気持ちになった。
「今日は、楽器ごとに分かれて練習しよう。オリビアはこちらに」
レイニーに呼ばれてバイオリン担当者同士で集まる。
それぞれの楽器ごとに練習が始まると時間が飛ぶように過ぎた。ルイーズは必死だった。
(ピッチを合わせなくては…。こう人数が多いと難しいわ)
ちなみに、持ってきたバイオリンはルイーズが愛用している最高級品のバイオリンではなく、あえてリーズナブルなバイオリンを持ってきた。父と兄にそうするように言われたのだ。
(確かにあのバイオリンを持って来たら何者なのかと、問い詰められたでしょうね。でも、慣れたバイオリンじゃないと弾きにくいわ)
自分の奏でる音に集中したいところだが、ほかのバイオリンの音にも合わせねばならない。理想通りの音を出そうとして無我夢中で弾いていた。
チラリと部屋の片隅で練習をしているはずのチェロの方を見ると、いつの間に来たのか若い女性のチェロ奏者がレウルスの隣にいて2人で練習をしていた。
ルイーズは、チェロを弾く若い女性がとてつもなく気になったのだった。
シャーロットは楽団の中でマドンナ的な存在
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