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【完結】婚約者の王子より、冴えないチェリストに恋した公爵令嬢  作者: 大井町 鶴(おおいまち つる)
◆第9章 新世界

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不穏な空気

音楽院ではいつものようにルイーズ、フローレンス、コンラート、レウルス、ディーターでランチをしていた。


アードルフは、午前中は授業に出ていたようだが、お昼前に早退したらしい。


「アードルフ兄、なにやってんだろう」


フローレンスがつぶやいた。


彼が度々いないことを皆、気にしている。のんびりしているディーターでさえ、彼の不穏な行動に首を傾げていた。


「……それよりも、レウルスにあのことを話しましょうよ」


ルイーズが場の空気を変えようと口を開いた。


「え、その話ってオレも聞いていいのかな?」


ディーターが聞いてくる。彼は昨日のランチ時にルイーズたちが話していたことを聞いていたから、気を使っているみたいだ。


「もちろんよ。だけど、あなたが聞いたらちょっぴり嫉妬しちゃうかも?」

「え、なになに?まさかプロ交響楽団の入団が決まりそうとかじゃないよね?」

「いえいえ、そこまではまさか。あのね、この夏にフローレンス、コンラートと私で演奏旅行に行くことになったのよ」

「えっ!?」

「本当か!?」


ディーターとレウルスが驚きの声を上げた。


「昨日の紹介というのは、演奏旅行の主催者面接だったのか?」

「そんなおカタイものではなかったけれど、そうと言われればそうね」

「どんな主催者なんだ?いつから計画された話なんだ?詳しい時期は?」

「なんかレウルスってお父さんみたい~」


フローレンスが言うと、ディーターがプッと噴き出した。


「確かに!分かる!」

「誰がお父さんだって?……共にフルンゼ楽団にいたんだから気にするのは当たり前だろ!」

「レウルスは仲間思いだもんね!」


ディーターがニコニコして言った。


「そうだよ!」


腕を組んでフン、とした態度をとるレウルスだが、ルイーズはそれだけではないのをもう知っている。


(私を身内のように心配してくれるのね)


「それにしても、確かに嫉妬しちゃうなあ。オレだけ演奏旅行に行かないことになっちゃうよ~」


ディーターがしょぼくれている。


「お前はこの夏は劇場に通えよ。曲の使われ方だったり、観客の様子を見たり、勉強することはいろいろあるだろ」


ディーターは最近、劇伴音楽の作曲に興味が出て本格的に進路をそちらに考え始めたらしい。


「分かったよ。オレも成長するぞ!」

「そう、その調子!」


ランチの時間は、ディーターがいたから明るい雰囲気で終わった。


教室に入る前、そっとレウルスに引き留められた。ディーターは気付かずそのまま教室に入って行く。


「フローレンスたちのツテならば大丈夫だと思うが、どんな演奏旅行になるのかもう少し詳しく聞かせてくれ」

「ええ。あなたには詳しく話そうと思っていたわ。私のことをずいぶんと心配してくれたし.......。実は、今日、その主催する人が音楽院に来るの。後で紹介したいわ」

「そうなのか。ぜひ、会うことにしよう」


(本当にお父様みたいね........ちょっと面白い)


「……ふふ。本当に私のお父様みたいだわ」

「なに?失礼な。オレはその主催だという人物を信用していいか見極めたいだけだ」

「だから、そういうところよ」

「こら。大事な人のことを気にするのは当たり前だろう」


レウルスは恥ずかしいのか、ルイーズをつつきながら言ってくる。


「イヤ、くすぐったいわ」


思わずキャッキャッしていると、低い声で自分の名を呼ばれた。


「ルイーズ、なにしてんだ」


振り返ると、面白くなさそうな顔をしたアードルフが立っていた。


「……あなたは、早退したんじゃなかったの?」

「そうだったけど、大事な楽譜を忘れたから戻って来たんだ。.......ずいぶんとレウルスと仲良くしているんだな」


そう言うと、アードルフはルイーズの腕をとった。痛くはないが、その手には少し力が込められていた。


「......さっき、フローレンスたちに会って聞いたよ。夏に演奏旅行に行くんだって?なぜ、相談してくれなかった?」


彼は怒っているようだ。


「だって、このところあなたは音楽院にいなかったから......。もちろん、きちんと話そうと思っていたわ」

「決める前に話すべきじゃないか?........放課後に詳しい話を聞かせてくれ」

「用事があるから早退したのでしょう?時間があるの?」

「時間なんて作るさ。僕はルイーズのことが大事だからね」


いつもと違って、アードルフの態度は厳しい。


(大事なのは私だけではないくせに……)


「今日の放課後は、演奏旅行主催の人がここに来るの。だから、後日話しましょう」

「なら、僕も会うべきだ」

「え、あなたが?」

「なにか問題が?僕は君の恋人だよ。勝手に話を進められるわけにいかない」


今のアードルフは不機嫌だった。理不尽だと思いながらも黙った。


「おい、アードルフそこまでにしておけよ。お前が側にいなかったから話せなかっただけだろう。もう授業が始まる。気になるなら放課後まで待っていろ」


アードルフは眉をしかめると、自分の教室の方へと戻って行った。早退するのは止めたようだ。


ルイーズは、レウルスに背中を押されて教室に入る。


アードルフとの間に不穏な空気が漂い始めたのを感じたのだった。

アードルフだけの独り相撲になりかけている.......?


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