父たちを説得する作戦
「じゃあ、そういうことで宜しく。楽団の連中とは気軽にね。あと、今日の練習に来られなかった女性団員にも柔軟に接してもらえると助かるな」
「わかりました」
「あと……お付きの人は毎回、あのカフェで待っててもらうつもり?」
レイニーがカフェの方を見て言う。ジーナのそわそわした様子がこちらからも見えている。
「しばらくは……こちらの方で考えます」
「OK。じゃあレウルス、お前からほかに伝えたいことは?」
「別にない。もう戻っていいか?練習の時間が惜しいんだ。練習には遅れるな。それだけだ」
レウルスはそう言うと、建物の中に入って行く。
「ごめんね。あいつ、ぶっきらぼうで言い方もきついけど悪いやつじゃないんだ」
「確かにぶっきらぼうな方ですね。なかなか神経質そうだわ」
「う~ん、あいつはストイックだからね。……おや、お付きの彼女がしびれを切らしてやって来るよ」
ジーナが待ちきれずにやって来た。
「お嬢様、ずいぶんと遅いので心配で……」
「待たせちゃったね。馬車はどこかで待たせているのかな?大丈夫?」
ニコリと微笑みながらレイニーがジーナに話しかけると、彼女の顔がポッと赤くなる。
「大丈夫ですけれど……」
ジーナがこの人は?というようにこちらを見た。
「この方はフルンゼ楽団の楽団長でコンマスのレイニーさんよ。サンス男爵家の方だったわ」
「あら、貴族の方がほかにもいたのですね」
「まあ、そういうことよ」
「でも、お嬢様とは……もごもご」
ジーナがうっかりルイーズの本当の身分を言いそうになったので、口を塞ぐ。
「ええと、もう大丈夫かな?そろそろオレも戻らなくちゃ。ジーナちゃんも気を付けて帰ってね」
バチンとウィンクすると、手を振って戻って行った。
「……お嬢様、あの方はずいぶんとハンサムな方ですね」
しっかりとレイニーに魅了されたようだ。
「あの方、女性にモテモテなんですって。音楽面では真面目に見えたけど、そのほかはどうかしら。ところで、私はフルンゼ楽団に入団したわ。帰ってバイオリンの練習をしなくちゃ」
「やはり本気で入団されたのですね……旦那様にはなんて言えばよいのでしょう……」
ジーナがブツブツと言っている。
待たせていた馬車のところまで戻ると、父たちに入団した件をどう話そうかとルイーズもやっと考え始めた。
答えは出ないまま屋敷に着いたが、練習室に直行した。
バイオリンケースからバイオリンと弓を出すとさっそく弾き始める。
やはり、慣れたバイオリンで弾くとしっくりくる。しばらく練習していると、だんだんと調子が出てきた。
「ルイーズ、ただいま」
父と兄が一緒に帰ってきた。バイオリンの音につられて練習部屋に来たようだ。
「さっそくバイオリンを弾いているのだな」
「ええ」
(入団したことを言うならば、今よね)
バイオリンを置いて、背筋を伸ばすと父と兄の方に向き直る。
「……ねえ、お父様とお兄様は私のことを大切に思ってらっしゃるわよね?」
「なんだい急に?お父様はルイーズをいつも大切だと思っているよ」
「僕だって妹を大切だと思っているよ。なんたってあのリリアン姫からお前を守ろうとしているんだから」
「お兄様、ストップですわ。話がズレそう」
「で、どうしたのだ?」
「あのね……」
入団したことを正直に話した。レウルスへの興味は伏せてそれ以外を。
話し終えると二人は唖然としている。
(反対するかしら……)
上目遣いでおそるおそる彼らを見つめる。
「一人楽団に乗り込んで入団してきただと?」
「ええ。広場での素晴らしい演奏をお父様も聴いたでしょう?フルンゼ楽団は将来性があるわ」
「いろいろと驚いてどこから話せばいいのやら……あの楽団は平民が中心であろう?」
やっぱり、そこが気になるのか、と思った。
音楽家を支援している父はフルンゼ楽団のことを少し知っているようだ。
「そうですが、逆に得るものがあると思えますの。正体は隠していますから、忖度されることはありませんし。貴族の楽団ならそうはいかないでしょう?」
「そうではあるが……。観たことはないが、彼らは新進気鋭の楽団だそうだな」
「でも、そこにルイーズが入団するなんて……」
兄の言葉に、父の眉がさらに寄った。
「正体を隠すと言ったが、団長には知られたと話したな。どういうことだ?」
「貴族だと悟られないようにして訪ねたのですが、彼に見抜かれました。というのも、彼は貴族ですから。貴族特有の振る舞いに詳しかったのですわ。フルンゼは、そもそもサンス男爵の兄弟が起ち上げ運営しています。彼らと話し合って、団員には貴族であることを伏せてもらうことにしましたわ」
「彼らが話さないという確証はあるのか?」
「ええ。彼らは余計な摩擦が生じるのを好みません。あくまで音楽が大事ですから。あ……でも、公爵令嬢であることは兄弟にも秘密にしていますわ。だって、あまりにも爵位に差がありすぎますもの。子爵令嬢ということにしましたわ」
「身分を偽るなんて、スパイみたいだな」
兄が感心したように言う。
「仕方ないではありませんか。私がフルンゼ楽団に所属するには、庶民に近い身分ではないといけませんわ」
「子爵は庶民ではないがな」
「……お兄様は黙っていてください」
プイと横を向く。
「ルイーズ、お前がバイオリンに集中すると言ったのはこういうことだったのか?」
向き直ると、父が真剣な顔をしていた。
「そうですわ。やるなら本格的にやると決めたのです」
手を胸の前で握りしめ、はっきりと言うと父が深いため息をついた。
「はああ……あのポンコツ王子め!」
ルイーズがとんでもない行動に出たのはヘンリーのせいだと考えているようだ。
「お父様、心配なさらないで下さいませ。私、絶対に正体が知られるようなことはしませんし。音楽に精進するだけですわ!」
「ルイーズ、そういうことではなくて……うぉっ!」
父の眉間のシワを見て、ルイーズは飛びついた。もう、これしかないと。
(必殺 “抱きつき”よ!小さい頃によくやった技)
抱きついた手にギュッと力をこめる。
「私は……私は優しいお父様が大好きですの」
「そうか……まあ、ルイーズが元気になるなら仕方ないと考えるべきか……」
「父上!城の方に知られたら問題になりますよ!……うぉぉっ!」
ルイーズはすかさず兄にも抱きついた。
「私は優しいお兄様も大好きですわ。いつだって私の心の支えですもの」
「……お兄様は泣きそうだっ!」
男二人はルイーズに大変、甘かった。『必殺 “抱きつき”』に陥落した。
「ルイーズがフルンゼ楽団に所属するのはいろいろと問題があるだろうが、真剣に音楽に取り組みたいと言われれば……反対しがたい。亡き妻も音楽に真摯であったからなあ」
「血ですねぇ。ところで、ルイーズ、お前が楽団に所属するというならば、こちらでもお前の正体が知られないようにせねば。子爵家と名乗ったなら、母方の親戚であるリルト子爵家の名を出したのだろう?」
「そうですわ」
父と兄があれこれ話し合いを始めた。
こうなれば、細かいことは彼らが全てをフォローしてくれるに違いなかった。いつもそうだから。
予想通り、数日後、フルンゼ楽団の練習場のほど近い場所に、リルト子爵家所有というていの建物が購入されていた。
コルネ公爵家はこうと決めたらすぐに行動に移す家
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