冴えない男爵令息に恋をした日
長編6作目になります!
今回の主人公は、音楽をこよなく愛する公爵令嬢と、ちょっぴり冴えない(でも腕は本物!)ぽっちゃりチェリストの男爵令息。
お互いに不器用なところでぶつかりながらも、じんわりと甘い恋を描いていきます。
どうぞあたたかい目で見守っていただけたら嬉しいです( ´ω` )/
「なんて、素敵な音……」
思わず足を止めた。広場に響くのは、深く豊かなチェロの音色。
ルイーズは父とともに、休日の街を歩いていた。石畳の広場では人々が思い思いに過ごし、カフェのテラスでは会話と笑い声が行き交う。
けれど──その音がすべてを塗り替えた。
広場の一角ではカルテットが演奏を始めていた。バイオリンが二人、ヴィオラが一人、そしてチェロ。
「“劇場の狂人”か……。哀愁があっていい曲だね」
父・コルネ公爵が満足そうに呟く。
「チェロの旋律が胸に響きますわ」
ルイーズは視線を演奏者たちに向けた。そして……彼を見つけた。
チェロを弾く、ひとりの男性。黒いシャツにパンツという簡素な服装。少しぽっちゃりとした体型で、眼鏡を掛けている。冴えない……はずなのに。
(あの人……)
首をわずかに揺らしながら、心から楽しむようにチェロを奏でる姿。その姿に、なぜだか目が離せなかった。
「彼、惜しいわ。もっと痩せていれば、きっと……」
そう思った直後には、もう違った。
(でも、このままでいいのかもしれない。演奏している彼は、すごく素敵)
チェロは語るように、響いていた。
力強く、それでいて繊細。音が彼の人柄そのもののように感じられた。
「次はタンゴか」
父が小さく身体を揺らす。リズムが変わり、広場の空気も一気に軽やかになる。
チェロ奏者の彼も身体を大きく使い、演奏に没頭している。時折親指で弦を弾く姿に、ルイーズの胸が高鳴った。
(楽しいだけじゃない。情熱も、優しさも……この音に詰まってる)
恋の始まりだった。
演奏が終わると、観客の拍手が湧いた。
父が金貨の袋を持たせた従者をカルテットに向かわせる。礼をする演奏者たち。彼の視線が一瞬、こちらに──
(……目が合っちゃう!)
慌てて視線を外す。鼓動が早くなる。息がうまくできない。
「お父様……あの方たち、素晴らしかったですわね」
「うむ。気に入ったよ。今度、我が家のサロンに招こうか?」
「いえ……結構ですわ。今日はこのままで」
「そうか? お前が金貨を入れてやれば、もっと喜んだろうに」
「恥ずかしいですもの……」
父の茶化しにも、笑い返す余裕はなかった。ルイーズは、自分でも理由がよくわからなかった。
ただ──あの冴えないチェロ奏者に、心が惹かれて仕方なかった。
ルイーズはまだ気づいていませんが……これは一目惚れです。そして、運命のはじまり
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