愛の妖精と狭間の世界
お読み頂き有難う御座います。
とある山岳王国の、お伽噺のひとつふたつに出てくる妖精の樹には、異形が現れる。
ほんの外側のみを甘く心地よく繕っている。だが、中身は腐りきった菓子のように恐ろしく。
本能のまま喰らえば、その身をトロトロと蝕む。
迂闊に妖精に手を伸ばせば、たちまち二度と戻れない毒に侵されてしまうだろう。
助言を聞き入れぬ者達は、全て溶けきってしまった。
どんな姿をしているかも、分からない。何を好きで、嫌いなのかも分からない。
本当か嘘かも、分からない。
妖精の話は恐ろしいお伽噺としてしか、伝わらない。
とある山岳王国には、貴族の子女を集めた学び舎が有る。
何時も静かな学び舎は、今。ひとりの女生徒が掻き回していた。
そして、今日も……。
「ねえ! お兄さんに敵わなくても、きっと努力で報われるよ! 元気出して!!」
「は、はあ!? 誰だよ!
な、何て失礼なんだ、ふざけるな! 離せっ!」
えー頭から湯気出てそーなくらい怒って、どっか行っちゃった……。えーと、名前は……攻略対象の一人! アタマ良い枠!
折角個別ルート迄は好感度マックス保ちたいもんね。って、意気込んで声を掛けたのに……。
怒鳴られちゃったし! ひっどい!
プクッと頬を不自然に膨らませた娘は……他の生徒とは少し違う。
よくある金髪に、よくある茶色の目。
だが、何故か少し違っていた。不躾で、奔放なその性質のせいかもしれない。
「何アレ。機嫌、悪かったのかなー?」
でも、何であんなにすんごく怒るの? あたし、このゲームのヒロインなのに?
あー! 分かった! もしかして、選択肢を間違えちゃったか。
本当に、このゲームってシビア!
ちょっとした地味な間違いでも、お気に召さないと直ぐに怖ーい顔で怒り出すんだもん。
現実だと有り得ないよね。あたしの心が広くて良かったな! って感謝して欲しい感じ! リアルなんだから手加減してよね! デリケートな乙女心が傷ついちゃう!
このゲーム……って、乙女ゲーの割に好感度ゲージが見えないんだよね……。
相手の好きな感じの色の服や、髪型までバッチリキメて有ってあげてるるのに……選択肢1つであんなに怒り出すんだ。ヤバいわー。
コミュ障過ぎて、心配になっちゃう。もっとニコニコしないと、将来お仕事出来ないんじゃないかなあ。
あの攻略対象は、文官のトップになるエンドでバリバリ稼いできて欲しいから、ちゃーんとアドバイスし直してあげなきゃね。
うんうん、と自分勝手な考えで女生徒は頷く。その周りを遠巻きに他の生徒達が気味悪そうに避けていったのにすら気付かない。
「でも、あの怒り方……怖いわー。
あもしかして、攻略不可能フラグ?
面倒だけど、チャプタージャンプで戻った方が良さげかなあ」
あたし、桃花可愛服! チェリィドレスって読むの! このゲームの中に転移してきた、かわいーー主人公!
本名はナイショ!
っと、ヒロインらしく紹介したあたしには、そんじょそこらの安っぽいヒロインには無い素敵なチートが有るの。
このゲームは、『とける愛を今あなたと』って名前の乙女ゲームの世界! 間違いない!
現実ウザくて、転移か転生したすぎー! って思ってたら叶ったの! カミサマありがとー!
願いが叶うゲーセンのシール機にお供えしまくったから転移しちゃった訳!
奥から3番目のシール機に推しのシール貼りまくってお祈りしたら、推しと会えるって伝説! ウチの学校で噂されててさー。
放課後忍び込んでめちゃくちゃ祈ったわー。シールも貼りまくりで。最初貼れなかったから他の奴らのシール剥がして苦労したわー。ホントあたしって健気!
そしたらバレて店長がワーワー煩くってさー。ケーサツ呼ぶとか言い出すの。マジになっちゃってヤバくない?
あたしだけじゃねーじゃんっ! て逃げようとしたら、気がつけばここ! サイコー!
学校に妖精から愛される聖女が舞い降りた! ってコンセプトでカワイイ妖精が居て、生活を助けてくれるメルヘンなゲームなの。
妖精ってポワポワしてて、かわいーんだよー! あたしなピッタリ!
今のところ見てないけど、そのうち章が進んだら寄ってくるよね!
そんなカワイイ世界にあたしったら、異世界転移? しちゃったのラッキー!
「今、多分3章の真ん中あたりだから……2章からやり直し!
確か王子様がこの上を通りかかるから、あの木の上からスタートしたら、計画的!」
シナリオ分かってるあたしって、かーしこーい!
チャプタージャンプすれば、直ぐに些細なミスなんて取り戻せるもんね!
次はちゃんと正解の選択肢、答えなきゃなー。
あ、今回はチャプタージャンプして王子イベからやろ!
妖精の樹って名前の木の上から登場して、マジメな王子ビックリさせるんだよね。
確か……何かの小動物を救う為に木に登って、落ちそうなあたしをフワって軽やかに受け止めてくれる、初回なのにお砂糖マシマシラブラブイベント!
そう、この妖精の樹がチャプターの初めなのに!
はー、とける愛って、リアルだとどんなのかなー。顔がゆるむー!
ニヤニヤと、脂下がった顔で次のターゲットを狙おうとする女生徒は『チェリィドレス』と自称している。本名は違うのだが、此処ではそれで押し通していた。
しかし、そんないい気分も直ぐに消し飛ぶ声が聞こえる。
「ヒロイ様ー! 何方ですかー?
ああもう、何処に行ったのかしら!」
げっ、世話役だ。イケメンが良いって言ったのに何でか年増のババアを付けられて悲惨! 口煩いしさ! イジメよ!
こーゆーの、ドアマットって言うんだわ!
素行の悪さも有り、『チェリィドレス』はお目付け役を付けられていた。
どうやら、お目付け役へ迷惑行為を報告されたようだ。
「大体あのババア、男と離れろとか何考えてんだ。
それにあたしはヒロイじゃなくてヒロインだっつーの!
桃花可愛服っていう、カワイー名前が有るってのに……ったあ!」
何この謎のロープ! 足を取られちゃったじゃん!
あの世話役、髪くらい可愛く結べよ! 下手くそな縦ロールのツインテールさあ!
解けちゃったし! ホントマジゴミ! つっかえない!
足元を見ずにズンズン進んだ上、転んでしまった。自分で髪結いなど出来ないのに、『チェリィドレス』は乱れた髪に毒吐く。
「いったあ……! ヒロインはウッゼージャマには負けないっつーの!」
足とか擦りむいたけど、チャプタージャンプで元のキレイな肌に戻るよね。
はー。ヒロインは可愛くなきゃ! 可愛くてホント大変だわ。
……チャプター飛ぶ前に、あの男子生徒の正解の選択肢、考えとかなきゃ……。でも、王子イベの選択肢何だっけ。
君は優しいなって言われたらイベントクリアだよね? えーと、優しい感じの選択肢選べばいっか!
集中して、集中して……フワッと体が浮き上がるのが分かる。
キラキラがあたしを吸い込んで……気が付いたら、ピンクの綿菓子みたいな雲の中……。え、何これカワイー。こんなの初めて! サービス? 運が良かったから特別かなー。
でも何だか目が開けにくくて、無理矢理右目を開けようとしたら……。
「えっ……」
めしめしっ……ぼたっ……。
? めしっ……ぼた、って……何。
何かが落ちた音がする。
……何の音よ? え、ハンカチとか?
ん? 目が、開かない……? 疲れ目かなー?
あ、良かった左目だけ……開く……。
「へえっ、えっ……」
ピンクの綿菓子が、あたしに近付いてきて……あ、未だロード中って感じ? こーゆーカワイイ画面有るよね。よくリアルに出来てる。分かった待ってるって。くすぐった……。
でも……おかしいな。長くない?
何でか、顔中……痛……。
メリメリ……ドロリって……。 ちょ、痛いって。ピンク近いし……え、何これピンクが、見えなくなってきた……。
口が痛い鼻が痛い目が……。イタイイタイいた何これ、知らない。
ヤバいってコレ。早く、チャプター、ジャンプを……。
「ひゅー……ひ………」
喉が……。
動かなくなった『チェリィドレス』へふわふわとした綿のような物が纏わりつく。
顔を、胴体を、全身を。
そして、木全体を覆ってしまった。
そして少し時が経ち、貴族の子女が集まる学舎に昼休みが訪れる。
何時もは穏やかに流れるこの時間に何故か悲鳴や怒号が響き渡り、大騒ぎが起きていた。
何でも、庭園に植えられた木からこの世とは思えない気味悪い物体が滑り落ちてきたらしい。
大体眉根を寄せて不快感を表す者も多いが、後で詳細が聞けるかしら? 等と気味悪いものに耐性のある令嬢などは楽しそうに微笑む。
令嬢の中には、少しばかり興味を示す者も少なからず居たようだ。
「あの木って、ドドドクムシが見つかったから伐倒する予定だったわよね」
「朝に通りがかったら、もう受け口が造り始めていたわね」
「異形も気になるけれど、駆除の邪魔になってはいけないわ。
庭師が規制線を張っていたから、中庭付近には近付かないようにしましょうね」
「ええ、そのつもりよ」
少しばかり興味を示した中の幾人か……。
高位貴族の婚約者を持つ、彼女達自身も高貴な令嬢達は、先日聞いた情報や今朝のことを優雅に話しながら、貴族用食堂で昼食を摂る為に歩いていた。
そんな彼女達へ、オズオズと後ろから声が掛けられる。
「あの、お嬢様方。お初お目にかかります。失礼ながら、は、発言をお許しください」
令嬢達が振り返ると、其処には一般生徒として教育を受けている迷い人が深く腰を曲げていた。
貴族らしくない、使用人としての礼儀を叩き込まれたらしくぎこちなくも恭しい。
「まあ、貴女は……ヒロイと一緒に巻き込まれた迷い人のお嬢さん」
「ご機嫌よう。勿論、頭をお上げになって構わなくてよ」
令嬢のひとりが許可を出すとホッとしたようで、迷い人が顔を上げた。
化粧けの無い素朴な顔をしている少女だった。令嬢達とそう歳は変わらないようだ。
「あ、有難うございます。
私はヨコノエミ、と申します。
その、ヒロイというのは私と同郷のスズキスワコさんの事ですか?」
その問いかけに、令嬢のひとりが上品に首を傾げる。他の令嬢達もその名前は記憶に無かった。
「まあ、あの者はそんな名前だったの?」
「……そうよね? サララミ様、聞いた名前とは違う名前だったわね?」
「ええ、私もヒロイの他にもゼリードレスだかデリードレーだかという名前も聞いたわよ」
「わたくしも伺ったわ。
何でも、カワイイ? から名前が幾つか有るのだとか。
異世界の風習って、不思議ねえ」
告げられた名前のおかしさに、エミは堪らず吹き出した。
「ぜ、ゼリードレス……!? うわ、ヤバ! えっぐ。
……はっ! し、失礼しました。
すみません、その、スズキスワコさんが本当です。偽の名前を名乗っているようです」
エミは嫌悪感を全面に出してしまったことを詫び、慌てて不思議そうな彼女達の疑問に答えた。
「偽名……? ということ?
まあ、そのゼリードレスとは、どういう意味なのかしら?」
「……ええと、お菓子と、お嬢様方が着ておいでのお服のような服の事を、偽の名前に……」
「まあ、このガウンの事かしら」
どうやらこの世界では、令嬢達の纏う豪奢な衣服をドレスとは呼ばないらしい。
「ええ、そ、そうです。
少し、形は違うのですが……。
ドレスって、平民が着られないような、手の込んだお服という意味です」
まあ、と令嬢達は不思議そうにエミを見た。
もうひとりの迷い人の話は思いがけぬ小雨のように、パラパラと令嬢達の耳に入ってはくる。
だが、彼女の噂は『無礼』『勘違い甚だしい』などあまり良いものではなかった。
いや、良い噂は入ってこない。今の所はだが。
恐らくこれからずっと、ずっと、良い噂は無いだろう。
「彼女は生まれながらの貴族なの?」
「いえ、平民です。
ただ、私達が居た世界には、貴族でなくても着られる安くでお手軽なドレスも……お服もありますし……。御免なさい、説明が難しいです」
「兎に角、己を大きく見せる為の、箔付けのような偽名でしょうかしら?」
「そうです、お嬢様」
ひとりの令嬢の推測に、エミは肯定する。
「まあ……。何にせよ、偽名というのは……問題ね。
スズキスワコという本名に、そちらでは何か曰くが有るのかしら? 呪われているとか?」
「本名の方が落ち着いて、いい名前だと私は思います。
でも本人はその、年よ……古い響きで、可愛らしくないと嫌っていました」
「古風ということ……?」
「その『ゼリードレス』という偽名は、貴方の世界で持て囃されるお名前なの?」
エミは苦いものを噛んだような顔を一瞬だけ見せたが、直ぐに居住まいを正す。
隙を見せず、しゃんとするようにとの教えを思い出して。
「……一般的には、おかしなひと、という目で見られます。
此処で『お菓子ガウン』と名付けたお嬢様が居たとしたら……?
とお考え頂くと……分かり易いでしょうか?」
「それは確かに、そうね」
エミの拙い説明に納得してくれたようで、令嬢達は穏やかに微笑んだ。彼女達は少なくとも、言葉は拙くとも丁寧な物腰のエミに好意的に接してくれるつもりらしい。
「小さいお嬢様への愛称なら、有りえるでしょうけれど……。
あの年齢では中々……おかしいわね」
「そんな淑女は此方ではお暮らしになれないでしょう。あら、想像すると本当に痛々しいわね」
「親しい仲なら、子供の頃の愛称もあるでしょうけれどねえ」
「だけれど、公共の場ではお呼びしないわ」
「エミ嬢、貴方の世界では家名ではなく、おかしな自称を名乗る文化が? 親しくもない関係でも」
令嬢達の問いに、エミは首を控えめに振った。
いるかも知れないが、公共の場では名乗らないだろう。少なくとも、普通の感性では。
「いえ、故郷では此処と同じく、家の名前やお仕事の役職以外の名前は……名乗りません。お仕事でなら……辛うじて」
「お仕事で使う名前?」
「でもあの方は、職業婦人ではないわね」
「その通りです、お嬢様」
「まあ……。誠実さのない方ねえ」
「そうね、最初に神官様から御告げされたでしょうしね」
今は此方の世界を知ってください。
貴方と我々には、信頼関係が足らない。
そう優しく告げられたというのに、彼女は偽名を名乗り好意の手を無視した。
迷い人に対しては、破格の申し出だった筈だが。現に、もうひとりの迷い人エミは申し出を受け入れ、この国の民として暮らそうと学園に通って真面目に勉学に励んでいる。
「そして、その、先程の……ドドクムシとは何でしょう?」
令嬢が教えてくれたのは、以下の話だった。
ドドドクムシとは淡い色彩にふわふわの羽を持ち、高音域の笛のような鳴き声をした虫である。
見た目は妖精のように可愛らしい。
集団で動く様は、まるで淡いピンクの花や雪が舞い散るようだという。
だが、その派手な見た目に騙されて、フラフラと寄ってきた鳥や小動物、中型動物ですら多勢に無勢で取り囲み、食らう。
繁殖期には何と、丸ごと巣に持ち運んで幼虫の餌にするケースすら有るそうだ。
因みに、見張り虫(少し小さく、直ぐに逃げてしまい見つけ難い)を何が何でも最初に殺さないと、直ぐ取り囲まれるらしい。
此処に住まう人間ですら、直ぐ様対策を講じないと危険な虫だそうだ。
駆除には、隙間を出来るだけ塞いだ甲冑と目の細かい特製の鎖帷子で挑まなければならない。
ただ、虫の噛む力は普通の虫より遙かに弱いので、最初に噛まれた部位によっては……数十匹程度に囲まれたならば、命ばかりは助かる、らしい。
助かったとしても、多くの場合通常の生活は送れない。噛まれた組織は溶かされて復活しないからだ。
そして悪い事にドラゴンや火蜥蜴など、炎を使える鱗持ち魔獣の好物なので、放置すると火災と虐殺が起きる。
厄災の呼び笛とも呼ばれていた。
「先日の授業では、まだ其処までは進んでなかったかしら……」
「でも、庭師はちゃんとドドクムシの説明立て札を立てていたわよ。
何故あの方は、お勉強されないのかしら……?」
「そんなにあちらが良いのなら、お帰りになられた方が良いのにね」
「お、お嬢様方の仰せの通りです……」
かの異世界から来たと宣う偽名を名乗る女性……スズキスワコは、自主的にこの世界へ来たらしい。
エミとは違って。
施錠済の神殿の床に座り込んで、供物を勝手に食べていたそうだ。
神官が恐る恐る声を掛けると、呆然としながらも嗜めるエミの制止を振り切って、こう叫んだ。
「あたし、妖精に愛されたヒロインなの! イケメンどこ!?」
「は!? あの、な、何を言ってるんですか!? 頭おかしい!?」
そして、扉まで走って出て行ったと思ったら憤って帰ってきたと言う。
何がしたかったのか。意味が分からない。
しかしエミは、乙女ゲームの事など何一つ知らない、単に巻き込まれた同じ学校に通う下級生だ。
妖精に愛されたヒロインさんことスズキスワコの事は、学校でも評判の痛々しい上級生としてしか知らない。
「此処、あたしに相応しい世界でいて欲しいんです! だって、フィクションじゃん」
「此方が貴女に相応しい世界かどうかは判りませんが、お互い歩み寄ってゆきましょうね。迷い人よ」
叫ぶスズキスワコにも穏やかに、年嵩の女性神官が窘めたという話だが……。
素直に勉学に励むエミとは違い、それからの彼女は酷いものだった。
初対面の顔の良い男子生徒に馴れ馴れしく付き纏い、怒らせたり。
立ち入り禁止の場所に乗り込んだり、挙句の果てに他人の持ち物を盗んだりと……。
「早くその盗人を捕まえて!」
「ヒロイン様を捕まえるなんて無理よー! チャプター……ジャンプ!」
捕まえようとしても、何故か不思議な力で逃げ果せてしまう。
謎の言葉を遺して。
勿論同郷のエミにも助力を頼まれたが、意味不明過ぎて彼女にも対策が分からなかった。
何故、スズキスワコだけ不思議な力が使えるのか。
それすらも不明だった。
『ヒロイン』と名乗っていたから、何か特殊な力でも有ったのだろうか。
本当は、『スズキスワコ』とエミが同郷なのかも怪しい。エミは彼女との話の通じなさにそうなのかもしれない、と時折思っていた。
学校が同じだからと言って、同じ世界で生まれたとは限らない……。
と其処まで考え……しかし荒唐無稽な考えだとも思えず、エミは身を震わせた。
異世界としか思えない世界に、エミは実際居るのだから。
「あまりにもおかしい方だから、出そうな所に杭でも打っておこうかと思ったのだけれどね」
「意外と罠に掛からない運の強さが有ったのねえ」
「本当」
笑顔で語り合う令嬢達の目は底知れない。
見た目はお伽噺の妖精のように美しいのに、恐ろしく熱くも冷たくも見えて、……温度がない。
スズキスワコが妖精妖精と何故か騒いでいたけれど、エミの知る妖精ではなく……触れてはいけない存在だったのではないだろうか。
ましてや、怒らせるなど言語道断で。
「エミ嬢、故郷を離れてお寂しいでしょうに。貴女の努力は立派だわ」
「きっと神官さまがご帰郷への道を開いてくださるでしょう」
「あ、ありがとう、ございます……」
おとなしく害にならない単なる迷子、の内は優しくしてくれるのだろう。
巻き込まれただけなのだから、と。
だが、無理に入ってくる者に、世界を掻き回す者妖精達は容赦しない。
エミは知らなかったが、スズキスワコが狙う『攻略対象』達は此処に並ぶ令嬢達の身内だった。
「さあ、エミ嬢。次の課程が始まってよ」
「は、はい」
明日からまた平穏ね、と微笑む彼女達に……頷くしかなくて。
神官さまの奮闘で帰る頃には、スッカリと記憶から消えてしまっていた。
まるで、溶けて消えてしまったかのように。
丁寧に話し合えば分かってくれるタイプの妖精です。
お読み頂き有難う御座いました。




