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第7話 不毛な新キャラ登場~今度は小人だ!

「……和菓子と洋菓子、どちらが良いか聞かなければなりません……はっ、余は何を?」


 ようやく桃太郎は目を覚ました。


「何ちゅう寝ぼけ方やねん! 夢にしたってどういう状況やねん! 何で敬語やねん! いいから桃太郎、早く起きて!」


 アタシはちょっと取り乱していた。

 階下のSM戦争を子守唄に眠りについて──朝起きたらこのザマだ。


「見て、コレ! ヒドイやん!」


 気が付いたら、アタシの髪は耳の辺りでバッサリ切られていた。

 背中まであったから、20センチくらい持っていかれたことになる。


「寝てる間に女の髪切るなんて信じられへん! 最悪や、アンタ!」


「ま、待て。余は知らぬ」


 桃太郎、ようやく寝ぼけ状態から覚醒したようだ。


「シラ切る気? アンタ以外に犯人はおらん! それともアタシが他に恨み買ってるって言うん?」


「し、しかし余は……」


 アタシのあまりの剣幕に、桃太郎の顔は蒼白になっていた。


「アタシはなぁ、このまま警察駆け込んでも構わへんねん!」


 叫んだ時だ。扉をドンドン叩く音が。


「リカ? うるさいわよ。黙りなさい!」


 それは怒声だったが、アタシは姉の声を聞いて涙が零れるのを自覚した。

 ドアを開けて廊下へ転がり出る。


「お、お姉っ!」


「あら、随分サッパリ……」


 アタシはお姉の胸にしがみ付いて泣きじゃくった。


「どうしたんだい、リカちゃん。ネズミが出たのかい?」


 ボケたことを言いながら横から覗き込んでくるうらしまの顔面に、お姉の拳が打ち込まれる。






 階下の姉の部屋に行ってゴミの中で髪を整えてもらい、ようやくアタシは落ち着きを取り戻した。

 別に長い髪に執着はないけど、さすがにショックで涙出た。

 何せ寝てる間に髪を切られたわけだから、事態は深刻だ。


 桃太郎は頑として違うと言い張る。

 嘘は付いてない様子に、アタシ達は戸惑った。


「まぁ、落ち着いて。甘いものでも食べて」


 尻をボリボリ掻いた手でうらしまがお菓子を取ってくれる。


「あ、ありが……」


「あなたのその汚い手から食べ物は受け取りたくないわ」


 代わりにお姉が言ってくれた。

 それにしても辛辣だ、この人。


 うらしまはお姉にそう言われ、嬉しそうに「あふんっ」と叫んでる。

 こっちはこっちで、相変わらずのヘンタイやな。


「リカ、すぐに警察に行きましょう」


 姉の提案に、しかしアタシは首を横に振った。

 昨日そこから帰ってきたばかりなのに、また舞い戻りたくない。


「感電少女、髪抜ける、とか言われたら嫌やもん」


「ブフウッッ!」


 慰めてくれたらいいのに、お姉はそこで笑いをかみ殺した。


「そ、そうね。じゃあ、今日にでも住人にそれとなく聞いてみるわ。不審人物を見なかったかって」


 不審人物なら多すぎや。

 アタシは桃太郎とうらしまを横目で睨んだ。


 それにしてもこのボロアパートに住む人ってどんな奴なのか、ちょっと興味を引かれる。

 せっかくなので姉に聞いてみた。


「ここは1階2階、各4部屋ずつ。合計8部屋あるわ。1ー1はわたしの部屋。1ー2は男性が住んでるけど、ほとんど出てこないわね。1ー3は空き家で、1ー4は気持ち悪い系の男。それから……」


 2ー1はアタシの部屋で、隣りの2ー2には専門学校に通う女の子が住んでいるらしい。


「あっ、その子見たわ。引っ越してきた日にチラッと。ああ、早く挨拶に行かんと」


 2ー3も空き家で、2ー4は引きこもりらしい。


 部屋番号が学校みたいで面白いけど、それにしてもこのアパート、引きこもり多いな!


 別に変な人はいないと言う(姉目線で、ってところがポイントやけど)。

 アタシもどうでも良くなってきた。

 何やらどっと疲れが……。


「アタシ、ちょっと休むわ。とにかく犯人見付かるまで、桃太郎は部屋に入らんといて!」


「そんな! では余はどこで寝ればいいのじゃ」


 桃太郎がお姉に泣きつく。


「そんなこと言ったら可哀相でしょ、リカ」


「な、何の関係もないねんで、アタシとコイツの間には! アタシが面倒見る筋合いはないわ! お姉が世話したらいいやん!」


「お断わりよ。嫌に決まってるじゃない」


「あぐっ……!」


 桃太郎が呻く。


 すごい理不尽な思いをしながら、アタシは部屋に戻った。

 きちんと鍵をかけて、窓の戸締りも確認する。


「ああ疲れた、疲れた。ホンマにヒドイ目にあったわ」


 フトンに入ろうとした時だ──カリカリカリ。

 妙な音に気付いた。


「なに?」


 うらしまが言ったようにネズミが住んでるのかもしれない。

 何せ古い家だから。


 断続的に続くカリカリ音。

 押入れから聞こえてくる。


 そーっと押入れを開け、アタシはそこに信じられないモノを見た!


 桃太郎の勝訴ノボリが広げられ、その上に黒い糸みたいなのが大量に敷き詰められている。

 アタシの髪だということはすぐに分かった。


 それを絨毯代わりにして立つ──ソレ。


 人間の手の平サイズの小さな人。

 血色の良い頬に糸のような細い目。

 じーっとアタシを見詰めている。


「こっ……!」


 小人やーッ!

 小人に遭遇してしもたーッ!


 ちょっとドキドキしながらも、アタシはソイツに手をのばした。

 捕まえようとしたところでガブリと指を噛まれる。


「痛たたたッ! ゴメン。ゴメンって! 放して」


 すると小人はアタシの指から牙を抜いて、軽やかに床に降り立った。

 どうやらこちらの言うことは分かるらしい。


「ア、ア、アタシの髪切ったん、もしかしてアンタ……?」


 すると小人、クルリとこちらを向く。


「拙者、一寸法師でゴザル。そちら様は?」


 うわ、喋った!

 しかも声がえらくシブい。

 セッシャ? イッスンボウシ? ゴザル?


「──ちょっと待って。アタシの脳、許容範囲越えたわ」


 深呼吸してみる。

 スーハースーハー。

 よし、落ち着いた。


「アタシは多部リカ。アンタは一体? その、一体……?」


 とても一寸法師には見えない(いや、一寸法師を見たことはないけど)。


 小人は童話の中の西洋人のパジャマのようなワンピースを着ていた。

 緑色のフワフワの生地で、胸元にはリボンが付いている。


「拙者は一寸法師。言わば福の神でゴザル。誰にも言ってはならぬ。リカ(うじ)よ、そなただけの福の神でゴザル」


「ア、アタシだけの福の神……?」


 頭がボーっとしてきた。

 こ、これは希少価値の座敷童みたいなものかもしれない。


「リカ殿っ、今悲鳴が聞こえたぞよ。無事であるか?」


 扉を叩く音。桃太郎だ。

 怪しまれたらアカン──とっさにアタシはそう思った。


「な、何でもない。帰って、桃太郎」


「リカ殿、余には帰る所はない。ここしかないのじゃ」


 絶対ドアは開けない。

 固く誓ってアタシ。再び押入れを覗き込む。


 アタシだけの福の神。

 アタシだけの福の小人……。


 それからアタシは自分で言うのも何だけど、ちょっとおかしな行動を取るようになってしまった。




「不毛な信念 ~人類の2分の1は既に宇宙人だという強烈な確信」につづく

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