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第6話 不毛なまでの怯え方~初めて会った義兄はヘンタイでした(2)

「いやや! 1人でしろや! アタシは共犯にはなりたくないわ。お姉はアンタが思ってる以上に恐ろしい人やで。羊の皮被った悪魔や! 住家は魔界や! 赤い血なんて1滴も流れてへん! アタシは幼い頃から、どれだけあの人に怯えてきたか……」


 じんわりと涙が溢れてきた。


「肩、外れたのも乙姫サマの仕業なの……?」


 うらしまの目つきが嫌だ。

 コイツの頭の中で、今アタシは自分と同じ種類の人間として区分されているに違いない。


「ちょっとその目……。その目、やめろ! アタシは、少なくともアンタに蔑まれるいわれはないで。肩外れたのだってお姉は関係なくて……」


 その時だ。

 意外と律儀な桃太郎がゴミの山から顔を出した。


「声が高いぞよ。隣近所に知れてはコトが面倒になろう。して、うらしま、大家殿は入浴中ということじゃが、そろそろ出てまいられるのではないか?」


「ハッ!」


 お姉の話になると、うらしまは明かに動揺して周囲をキョロキョロ見回している。


「あ、あの人はお風呂が長いんだ。特に今日はお気に入りのユーカリの入浴剤を入れておいたから、あと20分は出てこないはず」


 ほぅ、と桃太郎が声をあげる。


「それだけ時があれば余裕よの。うらしま、そちも知恵を回したの」


「無い脳みそを振り絞って考えたんだ!」


 威張るな!

 桃太郎も実は面白がってるだけなんちゃうか?


「絞るんならお姉との交渉に頭使いや。お姉かて鬼ちゃうで……多分。こんなドロボウみたいなことするより、小遣いちょっと上げてもらったらいいだけやん」


 そう言うと、うらしまは千切れんばかりの勢いで首を横に振った。


「ひぃぃ……」


 心底怯えた目だ。


「……何でアンタ、お姉と結婚したん?」


「……ると、たまら…………」


「え?」


「のの……と、た……なくなっ…………」


「なに?」


 アタシと桃太郎は顔を見合わせた。

 手は一応、金目の物を求めてゴミの中を這い回っている。


「罵られると、たまらなくなるんだ」


「……………………」(アタシ、無言)


「……………………」(桃太郎、無言)


 ──アタシらにどうしろって言うんですかッ?


「うらしまって見下されるように言われるともぅ……ウズウズしちゃう。洗濯ばさみの攻撃を受けると僕は……あ、あふんっ」


 喋り魔のうらしまは自分の恥ずかしい話を勝手にベラベラ語りだした。

 正直、どうリアクションをとっていいか分からない。


 どうでもいいけどお姉、夫を「うらしま」って呼ぶけど、自分だって苗字はうらしまなんじゃ…。

「うらしま乙姫」か──ゴロ悪い上にアホみたいな名前や。

 それを言ったら「多部乙姫」も大概やけどな。


 部屋中漁りながら廊下で音がするたびにビクビクするが、アタシとコイツのビクつきは根本的に違う筈だ。

 怒られたい感、滲みまくりのうらしま──根っからのドMや、この人。


「……アタシ、なんでこんな酷いストレス感じながらこんなことしてるんやろ」


 お姉に見付かったら、おしおきは今度は洗濯ばさみじゃすまない。

 恐ろしいことこの上ない。


 まぁ、このゴミの中から果たして何が出てくるのか、純粋に興味はあるけど。


「なぁ、リカちゃん。僕……僕……」


 うらしまが変なこと言い出した。


「うちのカミさんがすごいサディストで……ってブログでも書こうかと思ってて。大ヒットしたら書籍化されて、僕は一気に印税生活に突入だぞっ!」


「ハァ。書いたらいいやん」


「じゃあリカちゃん、パソコン買ってって乙姫サマにお願いしてくれよ」


「何で義妹にアブナイ橋渡らせようとすんの? 自分で頼みぃや!」


「義妹は感電少女だって、リカちゃんのことも書いてあげるよ」


「……遠慮しとくわ」


 コイツ、血ヘド吐くまで張り倒したい。


「買ってもらったパソコンで、えっちなサイトを見ようと思ってるわけじゃないぞッ☆」


「どうでもええわ! 黙れや!」


 うらしまは「あっ!」と叫んでアタシを見た。


「その怒鳴り方ぁ。乙姫サマと同じ血が流れてるぅ」


 この男、すごいムカツク。


「お姉は根っからのいじめっ子やからいいかもしれんけどな、アタシは普通やねん。アンタのそのドMっぷりはウザイだけや!」


 怒鳴るとうらしま、内股になって「あふんっ」と悲鳴をあげた。


「こんなアホには付き合ってられへん。桃太郎、帰るで!」


 桃太郎はおとなしく立ち上がった。

 探せど探せどゴミが出てくるこの部屋に、もう飽きたのかもしれない。


「こんなに部屋荒らしたら、絶対お姉に怒られるわ。1人で怒られろ、ボケ!」


 捨て台詞と共にドアを開けて、アタシは内臓が凍りつくのを自覚した。


 目の前には湯上りでホッペ真っ赤なお姉。

 ご機嫌な様子でニッコリしている。


 ただし、目は笑ってない。


「お、お帰りなさい。お姉」


「ただいま。このゴミ娘」


 ひぇぇ、お姉にだけは言われたくない。


 アタシは桃太郎の手をつかんでお姉の脇をすり抜けた。

 その場から一気に逃げ出す。

 背後ではポキポキ指を鳴らす音が。


「ゴメンナサイッ!」


「カンベンしてくださいッ」


「あふんっ! あっふぅん」


 うらしまの悲鳴が聞こえる。

 でもなんか嬉しそう。

 ハァハァ言ってる。



「不毛な新キャラ登場~今度は小人だ!」につづく

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