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変人しかいないアパートにて。不毛すぎるアタシの毎日  作者: コダーマ


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第52話 最後の刺客・根田太郎登場~不毛アパート全員集合!

「歯ァ痛いし、怖いし、嫌や! こんな未開のエリアなんて行きたくないわ」


「弱音を吐かないでください、リカさん」


「そうじゃ。リカ殿らしくないぞよ」


 ……2人に叱咤激励された。

 腑に落ちん。


 そもそもカメさんが1人では怖いなんて弱音吐くからこんな事態になってんねん。

 マフィアみたいな図体して何言ってんねん。


 未開エリア──そう、オールドストーリーJ館最後の秘境、1─2号室前にアタシらは来ていた。

 この部屋の住人は見たことがない。

 アパート中が変人不毛ワールドで大騒ぎしていても、どこ吹く風と泰然としているような印象だ。

 アタシからすれば、謎でいっぱいの部屋や。とにかく怖い。


 関わりたくないというアタシに向かって、カメさんが言い張るのだ。

 掃除をしたくて仕方ない。

 それが無理でも、せめて現状を把握しておきたいのだと。


 それなら一人でやってと言うと、信じられないことにアタシの首根っこをガッとつかむ。

 恐るべきパワーで。


 ちょうど帰ってきた桃太郎も道連れに、アタシらは1─2へと引きずってこられたところだ。


「グォーッ、ググーーーッ!」


 地面を揺るがす勢いでかぐやちゃんの腹が鳴っている。

 もうイヤや。


「何や、この環境。何や、この人たち。ありえへん。ああ、頭痛い。て言うか歯ァ痛い」


 ブツブツ言ってると、ちょっと待たれよと桃太郎が人差し指でメガネを押し上げる。


「これは……? これはかぐや殿の腹の鳴る音ではないぞよ」


「じゃあ何や? 屁か? アンタの屁なんか?」


 相当、投げやり気分なアタシ。

 たしなめるようなカメさんの視線に応える気も失せた。

 そんな中、桃太郎は1─2のドアを凝視してる。


「まさか? ま、まさか……!」


 轟音はこの扉の向こうから聞こえていたのだ。

 腹の鳴る音ではないと気付いた瞬間、背筋に冷たいものが走る。


「何や何や、猛獣でもいるんか?」


 アタシら3人はピタと寄り添った。

 正確には桃太郎とカメさんがアタシにしがみ付いたのだ。


「なぁ、入るのやめような?」


 今更ながらの提案。

 何せこの隣り(1─3)は噂のある幽霊部屋や。

 本当に怖いモノは実はこっちに住んでいた、なんてオチもあるかもしれん。

 一歩、足を踏み入れたらみんな死んじゃう究極のホラーハウスかもしれん。


「怖いって。何や、このスリラー展開は。怖い目に合ったあげく、幽霊に取り殺されるなんて理不尽や! それやったらアタシは歯医者に行くほうがマシや」


 君子、危うきに近寄らず──そんなことわざを思い出した。

 そう、今が正にその状態や。


「……でも、気になるよな」


 ああ、アカン!

 変な好奇心を出すな、アタシ。身を滅ぼすで。


「ちょっと覗いてみるだけ。中には入らへん。せめて、この音の正体だけでも……」


 アタシの右手は自然に動き、ゆっくりノブを回していた。

 このアパートでは無用心なことにみんな鍵を掛けていない。

 ドアの隙間から、轟音はますます轟いた。


 中は真っ暗。

 玄関から差し込む明かりを頼りに、アタシらはコソコソと中に入って行った。


「誰かおるっ!」


 桃太郎がアタシの腕をつかんだ。

 止める間もなくカメさんが部屋の電気をつける。

 白熱灯の下、浮かび上がる光景。


「グーッ! ググーッ!」


 8畳の板間の真ん中に大きなフトンが敷かれている。

 家具は何もない。フトンのみ。フトンオンリー。

 その中央にこんもりとした膨らみが。

 音はそこから聞こえていた。


「あのぅ?」


 人がそこに横たわっているのは分かった。


「こ、この音はイビキのようじゃな」


 桃太郎、怯えた様子でフトンを見やる。


「そう言えば、大家さんが言っていました。この部屋に住んでいるのは三年寝太郎さん──根田(ねった)太郎さんだと」


 根田太郎……ねったたろう……ねったろう……ねたろう……寝太郎?


「また太郎さんか! このアパート、太郎さん多いな」


 あらためてツッこむ。

 男7人中3人が太郎やで?


「しーっ! リカ殿、静かに」


 桃太郎が口に指を当てるも、アタシは急にどうでも良くなってきた。

 ひそめていた声のトーンを戻す。

 急に怖さが失せたのだ。


「大丈夫。この人、ガン寝や。絶対に目ぇ覚まさへんわ。ホラ、見てみ。寝てる人の鼻チョウチンなんてアタシ、初めて見るで」


 グースカ寝ている根田さん。

 呼吸のたびに片鼻からプクーッとチョウチン出ている。


「ヒッキーで3年間この部屋にこもってるって人やな。だからこんな時間でも寝てるんや。食事とか家賃はどうしてはるんやろ。謎、多すぎやな」


元国際警察(インターポール)の敏腕捜査官だったけれど、ある事件で恋人を殺され引退──天才探偵として日本警察と契約を結び、迷宮入り事件のみを取り扱うようになったのでは? 彼の天才っぷりには一定の周期があり、3年活動しては3年寝て。その繰り返しで、今は休眠期に入っているのではないでしょうか」


 カメさんがおかしなことを言い出した。

 何やソレ。この人、どこまでドリーマーなんや。


「何や、その設定は。それだけで1本、マトモな(?)小説でっちあげられるで。むしろそっちやで? なぁ! むしろそっちやろ!?」


「は、はぁ……むしろそっちとはどういう?」


「い、いや、こっちの話や」


 困った人やと思いながら、アタシは根田さんのフトンをかけなおした。

 何があったか知らんけど、3年の眠りって一体どういうもんやろな、なんて考えながら。


 その時だ。


 一瞬、目を開けた根田さん。

 アタシとガチッと視線が合った。


「…………! ね、根田さん、今すこし微笑んだ……」


 腰を抜かしてその場にヘナヘナとへたり込んだアタシを、桃太郎が支えてくれる──いや、支えようとして一緒に転んだ。


「あ痛ァ! リ、リカ殿? 何を申しておる? 根田殿はずっと眠っておいでじゃ」


「え?」


 アタシたちの後ろでカメさんが呻き声をあげる。


「きゅ、急に眠気が……」


 突然にその場に倒れこむ。


「亀殿、しっかり……ムニャ」


 間髪入れず桃太郎もコテンと寝てしまう。


 正体不明の攻撃を喰らったわけじゃない。

 みんな気持ちよくなっただけや。

 なにせ根田さん、スヤスヤと気持ち良さそうに眠ってる。

 見ているうちにアタシもボーッと暖かくなって瞼が落ちてきた。


「グゥ」


 安らかな気持ち。

 ああ、こんな深い眠りは初めてだ。


 気づいた時、そこに根田さんの姿はなかった。

 アタシら3人は無人の1─2号室で、寄り添って眠りこけていたのだ。

 3人ともヨダレまみれだ。


 外はもう暗い。

 アタシらは呆然と顔を見合わせた。


 なぜだかとても満ち足りた気分。

 かぐやちゃんへの復讐心も、歯医者への恐怖もスッと消えていた。


 アタシは悟りを開いたのだ。


「全て空しい。しかし全て素晴らしい。人の世は儚く一瞬だ。でもアタシにとっては、それが永遠なんや」


「な、何を言っておるのじゃ?」


「見える。光が…」


「そ、そちは何を言っておるのか?」


 桃太郎、ドン引きでこっち見てる。



「不毛遠征計画~それは波乱の予感」につづく

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