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変人しかいないアパートにて。不毛すぎるアタシの毎日  作者: コダーマ


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第51話 トラウマ万歳~よみがえる不毛人生初期のころ

 洗濯がうまくいかなかったとカメさん、落ち込んでいる。


「俺は何の為に生きているのか、分からなくなりました」


 別に洗濯するために生きてるわけ(ちゃ)うやろ!

 どいつもこいつもウザイねん。いい加減にしろや!


 さすがにそんなことは口に出せない。

 カメさん、見るからにズズン……と暗い。

 スーパーハウスキーパーとしてのプライド、ズタズタらしい。


「このKILLTシャツが異常なんや! 重ッ!」


 ズシッとくる。

 重さで手首を持っていかれそうや。


 赤短パンもまた然り。

 何の素材でできてるんや、コレ。


 総重量20キロはあろうか。

 手足首のアンクルだけじゃなく、かぐやちゃんは衣服にも恐ろしく負荷を与えて鍛えているらしい。

 そう、全ては実戦に備えて。


「洗濯を失敗するようでは、俺はハウスキーパー失格だ……」


 カメさんは褒められると育つタイプだと、アタシは薄々気付いていた。

 失敗すると途端に落ち込む。


 可哀想で見ていられない。

 見苦しくて見てられない。


「カ、カメさんは天才や。ナンバーワン・ハウスキーパーやもん。ダントツや。カメさんのおかげでお姉のゴミ……きたな……ご、へ……部屋がどんだけ救われてるか……。感謝しても足りんわ。いや、て言うか、そもそも何でかぐやちゃんの洗濯をアタシらがするねん。本人にやらせたらいいやん!」


 クソー! この忌々しいKILLTシャツ。あのデンパ野郎め!


 蘇る負の記憶。

 足裏のダメージはまだ癒えない。


「いつか復讐してやる……!」


 アタシは心に誓っていた。


 しかし褒めまくったおかげか、カメさんは瞬時に立ち直っていた。

 この人も勝手な人や。


「俺について家事を学べばいいですよ、リカさん」


「……はぁ、ありがたいことです」


 疲れるわ、この人。


 週イチの契約で来る筈のカメさん、しかし連日入り浸っている。

 お姉が散らかすから、見張ってないと不安らしい。


 それはいいけど、なぜかアタシを助手か何かと思ってるらしく、家事のサポートや、コインランドリーへの同行を強要するのだ。


 2人でアパートに帰り、アタシはカメさんについてお姉の部屋へと入った。

 幸いなことに、この部屋の変態住民は留守のようだ。


 うらしまは会社、お姉は買い物か?

 アタシは勝手に冷蔵庫を開けた。


「カメさん、ゴメンな。冷蔵庫こっそり使わせてもらって」


 隅の方にアタシの秘蔵のチョコレートが、キレイなラップ(リボン付)にくるまれて隠してある。

 このリボンはカメさんの仕業やな。

 ストレス緩和効果のあるチョコを、アタシはガリガリ食べた。無心で食った。

 実はアタシの部屋には冷蔵庫がないのだ。


「これから夏にかけて食べ物腐るから不安やわ。冷蔵庫欲しいけどお金ないし。お姉に借りたらマジでショバ代とられるしな」


「でもこちらの冷蔵庫も限界のようです。奥に入れていた刻みネギが凍っていました」


 うらしまが寝ぼけてソレを食べてたらしい。

 想像すると何だか怖い光景やけど、アタシには関係ない話や。

 カメさんは尚も何か言いかけるが、アタシは知らん振りしてチョコを片手に自分の部屋に帰った。


「ただいまー、桃太郎。お土産あるで……アレ?」


 部屋の中はシン……としている。

 桃太郎がいない。

 いつもウザイくらいに部屋に居座っている桃太郎が。


 そういや例の雨乞いの一件以来、かぐやちゃんになついて竹やぶに出かけたりしているっけ。


「イェッヘーイ!」


 久々の1人をアタシは謳歌した。

 この部屋、1人きりだと広く感じられる。


「イェーイ! 広―いお部屋でローリングぅ! そぉーれ、ゴローン!」


 コローンと前転してたら、押入れのフスマが数ミリ開いた。

 一寸法師が顔を強張らせてこっちをじっと見てる。

 アタシと目が合うと、ピシャッとフスマを閉めた。


 我に返って恥ずかしくなり、アタシは最後の前転を途中でやめた。

 その時だ。


「アッ!」


 奥歯に激痛が走った。

 ガクリとその場に横になる。


「どうしたでゴザル、リカ(うじ)?」


 法師が慌てて駆けてきた。


「歯、歯が痛い……」


 噛んでたチョコレートが虫歯にへばり付いて強烈な痛みが。

 前から冷たい物がしみて、ヤバイと思っていた所や。


「アアッ、歯が……歯がッ!」


 口で息をするのも痛い。

 スースーと空気が触れるだけで痛い。


「拙者、リカ氏の口の中に入ってチョコレートを剥がすでゴザルよ」


 法師が妙なことを言い出した。


「やめて! そんなん気持ち悪い! 気持ち悪いからやめて!」


 さっきまで何ともなかったのに。

 突然のこの激痛は何や?


「クソゥ! 歯医者はキライやねん」


 アタシはドンと床を叩いた。


「幼稚園のころ、怖い歯医者に行ってしもてん。ヘンな病院で、診察室が和室やねん。障子で仕切られた狭い個室の中に診察の椅子があるんや。怖くて泣いてるアタシはオカンと離されて一人で連れて行かれて。暴れるから危ないって言ってベルトで手足を固定されて、更に看護師さん三人がかりで押さえつけられたんや。コレ、ホンマの話やで!」


「そ、そうでゴザったか」


「その後、何年もあの時の夢見てな……。何回も何回も見てるうちに、医者の顔面がピカーッと光るようになってきてん。こりゃもう完全にトラウマやで?」


 あれ以来、歯医者には行ってない。

 歯が痛くなると薬を詰めて誤魔化している。

 しかしそれも限界のようだ。


「アカン! アカンって! 絶対行かない。歯医者だけは怖いねん。歯医者に行くくらいなら宇宙の彼方に消えてしまいたい」


「宇宙の長い歴史に比べたらリカ(うじ)の一生など、ほんの一瞬でゴザル。その中で歯医者の時間など一瞬の中の一瞬ではゴザらぬか」


 法師がアタシの口を覗き込む。


「そんな慰め方せんといて! 否応なしに怖さ倍増や! ああぁ、いっそ人間に歯なんてなかったらいいのに! 人類総入れ歯ならいいのに」


 虫歯になったら部分交換。

 痛んできたら全交換。


 眼鏡みたいなもんや。

 数年に1回、オシャレ感覚で入れ歯を交換する文化。


 ピンクの歯とかラメ入りの歯とか、ダイヤモンドの歯なんてのも出てくるかも。

 それなら歯を選ぶのも楽しいやろ。

 そんな世の中になったらいいのに。


 恐怖のあまり、アタシはヒドイ妄想を口走っていた。


「グー! ググーッ!」


 窓の外からはかぐやちゃんの腹の音が響く。

 更に玄関前には人の気配。


 扉をドンドン叩くのはカメさんや。

 アタシを追ってきたらしい。


「ずっと考えていました。確かにリカさんの言う通り、俺のおかげでこのアパートはきれいに生まれ変わることができたと思います。でもまだ足を踏み入れていないエリアがあるのです。気になって気になって仕方がありませんッ!」


 そんなんどうだっていいねん!


「ググーッ、グググーッ!」


 外からはムカツクくらい大音響の腹の音が。

 あの人、最近は腹いっぱいにごはん食べてるやんか。

 どういう胃袋してんねん!


「リカさん、付いてきてください。掃除エリアが」


 アタシは「ガーッ!」と吠えた。

 威嚇の叫びや。


「今はそれどころ(ちゃ)うわァッ!」



「最後の刺客・根田太郎登場~不毛アパート全員集合!」につづく

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