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変人しかいないアパートにて。不毛すぎるアタシの毎日  作者: コダーマ


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第44話 ボクの××は聖水だよ~それは不毛な名言(1)

 風邪は治った。

 一晩寝たらスッキリと。

 夕べは心細くもなったけど、今思えば桃太郎なんかを頼った自分が情けない限りや。


 商店街のドラッグストアに一応、葛根湯を買いに行った帰りのこと。


「ただいま~」


 アパートの玄関に入ってギョッとした。


 マフィアっぽいハゲたゴツイ男が、這いつくばって床を磨いていたのだ。


「カ、カメさん?」


「フシュー、フシューッ」


 呼吸音がすごい。

 額は血の気をなくし、爪の色はドス黒く変色している。


「きょ、今日はカメさん来る日違う(ちゃう)やん。どうした……カメさん? 目ぇ真っ赤やで。怖いで?」


「す、すみません。では見えないようにサングラスをかけます」


「アカンて。やめて! 怖さ3倍増しやわ!」


 なんでも夕べからずっとこうしていたらしい。

 廊下や物置、外壁を磨きまくっていたという。

 ボロアパートの住人からすれば、ありがたい話なんやけど……。


「心を無にして掃除をするのです。心を無にして全てを清めるのです。そうすれば、いつか俺の心も清められます……」


 ブツブツ言ってる。怖い!


「つ、疲れてるん(ちゃ)う? 片付けても片付けてもお姉がちらかすから。カメさん、このところ幾分ノイローゼ気味やったもん。不憫やわ」


 ちょっと精神のバランスを崩してるとしか思えない。

 でなきゃ、この人もいきなり出家(?)なんかせんやろ。


 今日は帰って休み。ここにいたらアカン。

 そう言ってカメさんを追い出す。


 不安定でややこしい感じの人には、できるだけ傍にいてほしくない──それが本音や。


「ホンマに疲れるわ……」


 このアパートにいたら、誰もが頭おかしくなるん違うか?

 お姉もうらしまも、ワンちゃんも花阪Gも、オキナもかぐやちゃんも、とにかくみんな変やもん。

 元凶がどこにあるか分からんけど、互いが互いに影響しあって究極の不毛ワールドを構築していってるに違いない。


「あ、オキナと言えば……」


 アイツも体調を崩したと聞いた。

 昨日の朝会った時には憎まれ口を利いていたけど、そういやちょっと声がおかしかったかな?


「もしかしてアタシが風邪伝染したかな? そんなことないよな。一切接触なかったもん」


 まぁいいわ。ちょうど風邪薬を買いに行ったところだ。

 オキナにも分けてやろうと、アタシは1─4へと向かう。


「この家来るの、ホンマはイヤやねん」


 ほら、薄い扉越しにもう変な唸り声聞こえてくるし。

 何せこの中に住んでるのは立派な変態やからな。

 日常から何をしてるのかサッパリ分からん。


「オキナ? 入るで」


 鍵は開いていた。


「キェェーーーッ! エェェーッ!」 

壮絶な雄叫び。声が高いからこっちの耳にキンと響く。

「ギェエエェッーーーッ! フゲーッ! ゲゲーッ!」


 の、喉、裂けるで?

 アタシの注意なんて聞こえちゃいない。

 奴はホゲホゲ怒鳴りながら、手にしていたスマホを叩き割った。


「ホゲーッ! ゲーーーッ……ゲゲーッ…………」


 ……落ち着いたみたいだ。

 ようやくアタシに気付くと言い訳がましく喋りだした。


「あ、別に何てコトないんだよ? ただ、別れた女房が借金返せってうるさくて。もぅヤんなっちゃう。何とか払わなくてすむように工作してよぅ、リカちゃん」


 別れた女房やて?


「イ、イヤや。アタシは何でも屋違(ちゃ)うし、特にそんな工作はしない。しかも、アンタの頼みやったら尚更や」


「ボク、婿養子だったんだ。小林って苗字だったんだよ。 ヤだな~。誰が小林少年だって?」


「はぁ?」


「小林少年……えっ、名探偵の助手の。えっ、今の子は知らないのか」


 オキナは意味の分からない次元の話をしている。


「今の子とか言わんといて。元奥さんでも、借りたお金はちゃんと返さなアカンで」


「ええっ、リカちゃんがそんなこと言う!? お姉さんのアパートにタダで住んでおいて、小遣いまでせびっているリカちゃんが!」


「……て、的確にアタシの悪いとこ羅列せんといて」


 それにしても、別れた女房やて?

 コイツ、結婚してたんや。

 ええっ、コイツでも結婚できたんや。


 世の無常に打ちひしがれた感で、アタシは窓際の椅子に腰掛けた。

 外は竹やぶ。風に揺れてサラサラと音を立てている。


「アッ、今の話、かぐやちゃんにはナ・イ・ショね」

 奴は唇の前に人差し指を立ててウインクした。かなりムカツク仕草だ。

「借金って言ってもそんなにないんだよ。あぁ、何とか踏み倒せたらいいのにねっ。お互いにねっ」


「可愛く言われても、その意見にはアタシは同意できんわ」


「興奮してスマホ壊れちゃうし。参っちゃう」


 無残な姿のスマホを眺めて、オキナは変な声をあげた。


「アッ! 今アクビしたら、喉の奥からすごい量のヨダレがピュッと飛び出てきちゃった」


「ヨダレ?」


 コイツも大概マイペースなやつだ。

 未練がましく液晶を拭いている。


「汚いナァ。乙女にそんな話せんといて」


「? 乙女って……」


 ハッハッ……すごい低い声でゆっくり笑った。

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