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変人しかいないアパートにて。不毛すぎるアタシの毎日  作者: コダーマ


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第42話 リカ、ダウン!~その病の名こそ、不毛ワールド?(1)

「何やら芳しい香りが……」


 そう思って玄関を開ける。

 すると足元に一輪の花が。

 廊下にちょこんと置いてある。

 『おみまい』と特徴ある字でメモが付いてた。


「この字、じいさんや!」


 アタシの肩と足の負傷を知って、それでこの花を……。


「うっ……」


 涙が滲んだ。

 このアパートに来て初めてや。こういう小さな優しさ。


 アタシはいてもたってもいられなくなって、2─4へと駆け出した。

 扉をドンドン叩く。


「じいさん、じいさん、出てきてぇな! お花、ありがとうな」


 中で身じろぎする気配がし、続いてドア越しに例のボソボソ声。


「かたとこしのぐあいは?」


「肩と腰の具合? アタシの負傷箇所は肩と足やけど。なぁ、じいさん、出ておいで。そんな所にこもってたらアカン。アンタはホンマはいい子や。キレイなお花育てるなんて、素敵な心持ってる証拠やん」


 妖精に髪を剃られて以来、花阪Gはこの部屋から出てこない。

 奴がますますヒッキーになったのは、アタシにも責任の一端があるわけやし?

 とにかくアタシも必死だった。


「な! 出てきたらケーキあげるで」


「いーやーだー」


「チョコレートは?」


「いーやーだー」

 中から抑揚のない恨みがましい声。

「かみのけはえるまでじぃはでていかない。すいようびのスロットてんごくのひいがい、じぃはそとにでない」


 ──髪の毛生えるまでGは出て行かない。水曜日のスロット天国の日以外、Gは外に出ない。


「は? スロット天国の日?」


 それはどうやら、行き付けのパチンコ屋のスロットの設定激ユルの日らしい。


「パチンコではかせげないと、さいきんようやくわかった。スロットしかない。じぃにはもうスロットしかない。スロットしか……」


 きっと真っ暗な部屋でカーテンの隙間から差し込む日光に頭だけピカピカ光らせて、畳見ながら喋ってるんやろな。

 暗いんだか、おかしいんだか。

 引くほど、笑える姿でいるんやろな。


「かみのけがはえるまで、じぃはぜったいでていかない」


 決意は固いようだった。


 スゴスゴと家に帰ると、お姉とワンちゃんが待っていた。

 お茶飲みながら桃太郎と談笑している。

 この変な光景を、いつの間にかアタシは見慣れてしまったようだ。


「リリリカさん、おかえりなさい」


「じい殿の所へ行っておったか?」


 ワンちゃんと桃太郎がアタシにお茶を淹れてくれる。


「うん。何か放っとかれへん、あの子。パチンコばっかり行ってたらアカンし、何とか散歩にでも誘い出してやらなと思ってな。アタシ、お母さんみたいな気持ちになってしまうねん」


 そう言うと、お姉は肩をすくめた。


「気持ちは分からなくもないけど、あの子25歳よ」


「うそっ!? お姉より年上やん。保護するような年齢違(ちゃ)うやん」


「フフッ。そんなことよりリカ、この間の写真よ。ホラ」


 手渡された数枚の写真。

 これはサイクリングの時のものだ。

 曲乗りの様子が生き生きと映し出されている。

 お姉がデジカメでパシャパシャ撮ってたアレやな。


 やっぱり紙媒体はいいわ。

 手にした時、何か感慨があるもん。


「あああたしがプリントアウトしたんですぅ」


 ワンちゃんが誇らしげに付け加える。


「あ、ありがとう。ウッ!」


 肩と足に痛みが蘇った。

 そう、正にこの直後や。アタシがすっ転んだのは。

 写真の中のアタシの目一杯の笑顔が、余計にいたたまれない感を出している。


 あれから僅か2日か──色んなことがあったなぁ。

 しみじみと思い返すたびに、肩抜けた痛みが蘇る。


 会話が途切れた時に気付いた。

 久々にアパートは静かだ。

 時折お茶をすする音がするだけの、ゆったりとした時間が流れている。


 うらしまは会社やし、オキナは出かけてる。

 かぐやちゃんはかぐやハウスで寝ているし、花阪Gはあの調子や。

 それから麻雀の勘定をめぐってかぐやちゃんと取っ組み合いの大喧嘩をしたあげく、キレて出家したカメさんは今は寝込んでる。


「どうして亀山はわたしの部屋で寝込むのかしら。自分の家に帰ればいいのに」


 冷たい言い方やけど、それはお姉の言う通りや。

 奥ゆかしい乙女を装っていても、根っこの所はやっぱりマフィアだったんやな。

 強引極まりないもん、あの人も。


「リカ、どうしたの? あなた、顔色悪いわよ?」


「え?」


 反射的な動きで頬に手を当てる。ちょっと熱い?

 心労がたたって熱が出たとか?


「ハックシュン! ハッ……クシューン!」


 大きなクシャミが立て続けに出た。


「大事ないか、リカ殿?」


 桃太郎がティッシュを取ってくれる。


「やだ、風邪? 伝染さないでよ」


「あああたしだって、もうすぐテストなんですからね」


 女2人は自分の顔の前を手で仰いだ。

 菌を払う仕草だ。


 ……こういうところで人間の本性って分かるなぁ。


 数時間後、アタシは大熱出して寝込んでしまった。


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