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変人しかいないアパートにて。不毛すぎるアタシの毎日  作者: コダーマ


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第35話 みんなでおでかけ~不毛・川原でヤッホー!

「独り占めはアカン!」


 アタシは宣言した。

 曲乗りしていたかぐやちゃんを自転車から引きずり下ろす。


「これはみんなの自転車や! アタシが拾ってきたから、特にアタシの自転車なんや!」


 かぐやちゃんは返事もしない。

 ポカンとしている。


 電波を発して、まったく別次元の何かと交信しているような感じだ。

 アタシの言うことなんて全く聞いちゃいない。

 こっちを見ようとすらしない。


 近所のドブ川の岸には一応堤防がある。

 犬の散歩をしている人やキャッチボールしてる人など、いつも賑わっている場所だ。


 そこに「KILL」Tシャツに赤短パンの絶世の美青年が、ものすごい笑顔で真っ赤な自転車を曲乗りして来たものだから、蜘蛛の子を散らすように人は去った。


「あ、赤い悪魔……あの赤い悪魔に早う腰掛けたい……」


 桃太郎がうずうずしている。

 自転車に早く乗りたくてたまらないらしい。


 赤い悪魔って何やねん。

 さっきは鉄の化け物って言ってたくせに。


「桃太郎、アンタも独り占めはアカンで」


 アタシが釘をさすと、奴は神妙な表情で頷いた。


「承知しておる。余は考えた。皆で乗れる工夫をしようではないか」


 そう言って桃太郎は、まず自分が赤い悪魔に乗った。

 手招きに応じてうらしまが近付き、後ろに座る。

 更にカメさんが荷台の後ろに足先を引っ掛けて立った。


「うむ、良い良い。最適な平衡感覚じゃ」


 器用に小回り利かせて、その場をクルクル回りだす。

 大柄な男二人を乗せているにもかかわらず、小さな桃太郎に疲れは見えない。


「ほぅ! ほぅほぅぅ! ほっほほぅ!」


 興奮したのか、ホゥホゥ叫びながら堤防遊歩道を走り出して行ってしまった。


「桃太郎、戻って来い!」


 すると奴は自転車漕ぎながら右手をすっと伸ばす。

 そして、肘の所でクイッと曲げた。

 あれは自転車ルールや。

 方向指示器の代わりに、己の腕で行く方を示すものだ。


「何あれ? 芸人なの? 電波なの? ああいう芸風(キャラ)なワケ? そ、それとも天然?」


 オキナが呻く。

 桃太郎という存在に、初めて混乱を来たしたようだ。


「そちは余の右へ。ワン殿、そちは左へ乗るが良い」


 従う必要なんてないのに、アタシとワンちゃんは桃太郎の座るサドルにお尻の端っこを乗っけた。

 サドルは小さい。

 アタシたち二人は手を繋ぎ、互いの身体を引っ張り合うことで落下を防ぐ。

 更に全体のバランスを取る為に、もう片方の手を天高く差し伸べた。

 自然と笑顔になる。


「良いぞ、良いぞ。はっはっは」


 こうしてアタシたちは5人で1台の自転車を転がした。


「待って待って!」

 オキナがビート板を抱えて追いかけて来た。

 その辺に落ちていたのだろう。ロープも持っている。

「このビート板を繋げさせて~!」


 ビート板にロープを巻き、その先を荷台にくくりつけた。

 自分はその上にピョンと飛び乗る。


 自転車に引っ張られ、ズルズルと堤防を走る。

 タイヤが付いてたら、スピードついていい感じに爽快な走りを見せるだろう。

 でも、これじゃ単に引きずられるだけだ。

 オキナは身体を斜めに倒して地面にこめかみを擦りつける。


「おでこがぁ~! ボクのおでこが煙をあげてる~!」


 壮絶なセリフのわりに、奴は何だか楽しそうだ。

 その様を、ワンちゃんのデジカメ持ったお姉がケタケタ笑いながら激写していた。


 小さなタイヤさえあれば、ビート板を何枚も繋げて大勢の人が乗ることは物理的に可能だろう。

 曲がる時は大変やけど。

 例えて言うと、レールのない小さな電車といった形や。


 堤防のはるか向こうでアタシらの姿を目撃した人が「キャー」と悲鳴をあげている。

 ゴルフの練習していたオッサンがクラブを振り回して仰天している。


「余たちは一つじゃ。一つになったのじゃ」


 楽しそうに桃太郎が笑った時。

 アタシは肩を走る激痛に気付いた。


「ワ、ワンちゃん、腕引っ張りすぎやって。肩抜けるッ! アタシ、抜けたことあるって言ってるやろ」


 しかしワンちゃん、アタシの声に気付いてない。

 桃太郎と共に笑っている。


「痛ッ……!」


 アタシが身じろぎした為か、一気にバランスが崩れた。


「アッ!」


 更に、猛スピードで何かがこっちに飛んでくる。

 オッサンが振り回していたゴルフクラブだ。

 手を滑らせたのだろう。

 最悪なことに、それが桃太郎の顔面を直撃した。


「ギャゥゥ!」


 次の瞬間、アタシたちは宙を舞っていた。

 六人が、色んな体勢取りながらも空中を泳ぐその姿。

 川原に投げ出されるまでの間アタシ、ワンちゃんとずっと目が合ってた。


 地面にドサッと激突したアタシの上に、更に赤い悪魔が降ってくる。

 空中でバラバラになった自転車の車体がアタシの肩を直撃したのだ。


「グゲッ!」


 今ので完全に外れた。

 アタシの肩、完全に持ってかれた。


「アタシが拾ってきた自転車(チャリ)に、何でアタシが撥ねられんねん……」


「泣くな、リカ殿」


 元凶である筈の桃太郎が、ピンピンした様子でアタシを覗き込む。


「…………泣いてへんわ」


 気付けばアタシのすぐ隣りにかぐやちゃんも倒れていた。

 あれ、この人自転車には乗ってなかったよな?

 見れば腹(胃のあたり)がプックリ膨れている。

「うぅむぅ!」なんて呻いてる。


「あっ、俺の鞄が!」


 突然カメさんが叫んだ。

 勝手に開けられ、周囲にラップやリボンが散乱している。

 その隙間で一寸法師が必死の形相で米粒食べていた。


 どうやらかぐやちゃん、お昼ご飯のおにぎり百個を独り占めして食べちゃったらしい。


「ゲプッゥ!」


 ものすごいゲップをした。


「みんなで食べようと思って作ったのに……」


 カメさんが涙ぐみ、桃太郎がショックで泣き出す。

 つられてワンちゃんも号泣し始めた。


 どうでもいいけど皆、肩外したアタシには無関心なんやな……。


「何や……何やねん、この仕打ち……」


 カメさんに肩を嵌めてもらって、アタシらはヨボヨボとアパートに帰った。

 かぐやちゃんも壊れた自転車を抱えて、泣きながら付いてくる。


 アタシは自分の部屋に入った。

 そして呆然と立ち尽くす。


「どうかしたか、リカ殿」


 背後から聞こえる桃太郎の声が遠のく。

 アタシの部屋はグチャグチャ。

 荷物がひっくり返っている。


 ドロボウが入ったのだ。


「た、大変や! お金お金」


 大事な鞄を開ける。

 幸いなことに、なけなしの現金には手を付けられていない。

 桃太郎と一緒に調べたけど、盗られた物はなさそうだった──ただ一つのものを除いて。


「何も盗まれてないのなら、不幸中の幸いと申すものじゃな」


 桃太郎がアタシの外れたての肩をポンと叩く。


「違う。桃太郎……。盗まれた物がある」


 それはアタシのパンツや。

 ケースに入れてたそれらがゴッソリ持っていかれてる。


「どうしよう。パンツ、今はいてる1枚しかない……」



「パンツを盗まれた!~桃太郎が指揮る不毛捜査」につづく

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