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変人しかいないアパートにて。不毛すぎるアタシの毎日  作者: コダーマ


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第34話 みんなでおでかけ~サイクリング・不毛・ヤッホー!

 ズボンを失くした桃太郎は、しばらく短パンで過ごすことになった。


 上はスーツにネクタイ。

 下はうらしまに借りた短パン、そして草鞋。

 出かける時は常に背に「勝訴」の旗。


 最近暑くなってムレるとかで「日本一」のハチマキはしなくなったが、この上ない不審人物という印象が拭えるものではない。

 いや、より増した。


 さて、その桃太郎──。


「余と共に参ろう」


 珍しく早起きした桃太郎、弁当箱に話しかけている。

 あれはゴキブリ騒動で家を失った小人用にと、アタシがもらってきたワンちゃんのお古の弁当箱だ。


「たまには良いではないか。ノンビリと羽を休めるのも」


「そうでゴザルな。拙者も行って良いでゴザルか?」


「無論じゃ」


 桃太郎と一寸法師の会話だ。


 ちょっと待て。

 アタシ、言いたい事いっぱいある。


 そもそも桃太郎、アンタは羽休めっぱなしやろ。

 それからこの2人、いつの間に仲良くなった?


 かぐやちゃん騒動前後、アタシは3日程家を出たから。

 その間に奴らは友情を育んだらしい。

 なんかアタシ、すごい疎外感が……。


 一寸法師用弁当箱を腰に下げ、桃太郎は意気揚々と立ち上がった。


「リカ殿、付いてまいれ」


 そのまま玄関を出て行く。

「早う早う!」と命令され、アタシはカチンときた。


「アンタの家老違(ちゃ)うで。アタシはアンタの家老違(ちゃ)う!」


 こうしてあたしら2人──いや、法師も入れて3人か──はオールド・ストーリーJ館玄関にやって来た。

 すでにオキナとかぐやちゃんが待っている。


 せっかくこうやってアパートのみんなが仲良く(?)なったんだから、どこかへ出かけようとアタシが提案したのだ。

 ところがみんな、あまりノリ気じゃないみたい。


「せっかくの日曜にどこに行くつもりだ?」


 かぐやちゃんが言えば、オキナも肩を竦める。


「さぁ、近場じゃない~?」


 アンタら、日曜とか関係ないやん!


 提案そのものは悪くないというものの、ものすごく面倒臭そうだ。


 こ、これが関西とトーキョーの温度差なのか?


「おはようございます、皆さん」


 そこへカメさん、ピンクジャージで現れた。

 お弁当箱をたくさん抱えている。

 ハイキング気分満々や。


「そ、それは?」


「皆さんのお弁当を作りました。早起きをしておにぎりを100個」


「ひゃ、100個のおにぎり……ッ!」


 かぐやちゃんのテンションがマックスに上昇した。

 声を張り上げる。


「おにぎり! 100個のおにぎりッ!」


 ギスギスしていた空気が一気に緩む。

 かぐやちゃんの雄叫びを聞いて、アタシらはなぜだか和んだのだ。


「ところでリカ殿、どこへ参るのじゃ?」


「いや、オキナが言うように近場でいいねん。むしろこのメンバーで遠出は避けたいところや」


 この人たちを引き連れて公共機関を利用するのは、できるだけ避けたいところや。


 車があればまた別やけど、貧乏アパートには駐車場すらない。

 見た目から判断して、すごい車に乗ってそうなカメさんはアタシの問いに首を振った。


「あ、俺はメカはちょっと」


 あまり興味がないみたいだ。

 まぁ……乙女の彼の守備範囲にメカは存在しないか。

 それにしても、車を「メカ」ってことないやろ?


「一応免許は持っています。でも今はコンタクトをしていないので」


「へぇ、カメさん、コンタクトやったん? 知らんかった。目ぇ悪いと運転できんもんな」


「顔面でケーキを受けた際に、片方失くしてしまいまして」


「……ああ、あの時な」


「裸眼0.04です。自分の足元もほとんど見えていません。あ、大丈夫です。勘で動けます。大丈夫です」


 怖いことを言う。

 するとオキナが馴れ馴れしく寄って来た。

 自分の眼球を指差して「ボクもボクも」と言っている。


「コンタクト屋さんから出てきたら、不思議の国に迷い込んだような気になっちゃうよねぇ」


「そうですね、コンタクト屋さんのお姉さんは異様に優しいですから。己の眼球を任せると、不思議な気持ちになります」


 ……何や、その会話。


 むしろアンタらが不思議ワールド全開やで?

 微妙な空気が漂う。


「ままま待ってくださいぃぃ!」


 そこへ今度はワンちゃんが飛び出してきた。

 首からデジカメを2つも提げてる。


「遅くなってすいません。めめめメモリーカードの予備を探してたら時間がぁ。アレ、小さすぎて失くしてしまうんですぅ。もうすぐテストで大変なんですけど、今日は撮って撮って撮りまくりますよぅ!」


 スマホじゃなくてデジカメというところが微笑ましいなぁと一瞬思ったアタシ。

 でも、ワンちゃんが持っているのは撮り鉄が装備してそうなガチのカメラで、アタシは目を逸らしてしまった。


 ワンちゃん、珍しく顔を紅潮させて異様なテンションだ。

 それから桃太郎の短パン姿を見て、呆然と鞄を落とす。

 短パン、生足とブツブツ言いだしたので、アタシは聞こえないフリを決め込んだ。


 最後に、うらしまにパラソルを差させた姉の登場だ。


 これで役者がそろったわ!


 まだ見ぬヒッキー2人に対しても一応ドアの隙間にお誘いのメモを挟んだのだが、現れる気配はない。

 仕方ない。いずれお目にかかれる日もあるやろ。

 いや、別になくてもいいんやけどな──正直なところ。


「だからリカ殿、どこへ向かうつもりなのじゃ?」


「しょしょ商店街ですか?」


 桃太郎とワンちゃんが不思議そうに顔を見合わせる。


「商店街やったらいつものコースやん。わざわざみんなで出かけるんや。もうちょっといい所行こうや」


「そう申しても交通機関を使わずして、この辺りに商店街そぞろ歩き以外の娯楽はないぞよ?」


 ……ここってトーキョーやったよな?


「まぁ、ちょっと待ってて。いよいよアレを出す番やな!」


「アレとは?」


 アタシは建物の脇に隠していたアレを取りに行った。


 チリンチリーン。

 心地良いベルの音を鳴らす。

 それは真っ赤な自転車だ。


「いい拾い物したわ」


 すごく得意な気分になった。


「て、鉄の怪物ッ!」


 桃太郎がヒッと悲鳴をあげる。

 その様を見て、オキナが軽くウケてた。


「この自転車な、いつ見ても川原に転がってたから拾ってきてん。捨てられたんか何か知らんけど、持ち主ももう取りに来んやろ。洗って磨いたらこんなにきれいになったし、ホンマにいい拾い物やで。ヒッヒッ」


 アカンて、アタシ。

 貧乏に侵食されていってる。

 とは言え大阪にいた頃、アタシは自転車でどこまでも行ったもんやで。

 電車賃ケチって、余所の府県にまで自転車飛ばしたもんや。


「たった1台の自転車(チャリ)をどうするのさ。交代で乗るの? それとも全員で曲乗りする~? どっちにしろ、大した娯楽じゃないよね~」


 オキナが理に適った苦情を述べる。

 いちいち癇に障る言い方をする奴だ。


「み、みんなで色んな乗り方して遊んだらいいやん。交代で速さを競ったり、細い棒の上を走ったりして……」


 段々自信がなくなってきた。

 確かに今時、自転車なんて娯楽とは言えんかも。

 ガックリ肩を落として、アタシはみんなの所に自転車を引いてきた。


「おおぅぁ!」

 真っ赤な自転車を見るなり、かぐやちゃんが一声吠えた。

「おおぉぉぅ!」


 同時にお腹をグゥ! と鳴らし、彼はアタシに向かってものすごい速度で突進してきた。


「わ! ちょ、何や。怖いって。かぐやちゃん、走るの速すぎ! ギャッ、それアタシの……!」


 自転車の後輪タイヤを片手でわしづかむ。

 そのままグググッと持ち上げた。

 かぐやちゃん、自転車を頭上高くに掲げ、空中でクルクル回しだす。

 すごい笑顔だ。


「な、何してんの。あの人……?」


 アタシはさすがに怯えた。


 するとかぐやちゃん、笑顔のまま「おぉう!」と自転車を放り投げ、自分も宙にジャンプする。

 曲芸のような身のこなしでサドルに足をかけ、そのまま地面に着地。

 笑顔のまま漕ぎ出した。

 僅か数秒後には、はるか向こうを走っていた車に追いつき、追い越していく。


「か、かぐやちゃ~ん、待ってよ!」


 オキナがヨロヨロ追いかけだした。


「あ、あの人何なん? アタシの自転車(チャリ)やで。とられた……」


「リカちゃん、元気を出せ」


 うらしまにポンと肩を叩かれ慰められて、アタシは更に落ち込む。


 仕方なく、アタシらも彼の後を追った。

 徒歩で。


 ようやく追いついた時、かぐやちゃんは川原で曲乗りしてた。

 ものすごい笑顔で。



「みんなでおでかけ~不毛・川原でヤッホー!」につづく

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