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変人しかいないアパートにて。不毛すぎるアタシの毎日  作者: コダーマ


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第32話 さんすうのべんきょうからはじめよう!~アタシの脳ミソ→不毛?

「アカン」


 昼寝から目覚めてアタシは頭を抱えた。


「メチャ、リアルな夢見てしもた」


 来年の3月。

 夢の中でアタシは浮かぬ顔してオールド・ストーリーJ館に帰ってきた。

 玄関にお姉とうらしま、桃太郎にワンちゃん、それからカメさんがズラリと並んで待ち構えている。


 受験、どうだった? と言われ、アタシは力なく首を振った。


「アカン。問題、全然分からんかった」


 こりゃもう1年、浪人やな。

 そう言って夢の中のアタシは笑ってた。乾いた笑いだった。



 時計を見れば午後3時。

 桃太郎は世直しの旅に出たのだろう。


「起こしてくれたらいいのに。まぁいいか。どうせ世直しの旅に出てもアタシ、することないもん」


 そこであらためて気付いた。


「アタシ、アカンって!」


 学校にも行ってないし、働いてもいないから、アカン。

 朝寝坊の上に昼寝のクセまでついてきた。

 この状況を何とかせんといかんという焦りが、段々なくなってきた。


「だから、それがアカンねんて! 自分がまさかの高校浪人やってコトを弁えんといかん」


 来年あらためて受験するとしても、今から準備しとかんと。

 今が5月。

 9ヶ月か10ヶ月後には試験。

 それは長いようで短い期間や。

 何とか……何とかせんといかん。


 ブツブツ言いながらアタシは立ち上がった。

 階段を下りて、お姉の部屋をノックする。

 今日もヒラヒラピンク割烹着姿のカメさんが、りりしく出迎えてくれた。


「ああ、今日カメさん来る日やったんや。さすがに部屋きれいな」


「いえ、とんでもありません」


 控え目に返しながらもカメさん、浮かぬ顔だ。

 お姉とかぐやちゃんのデートを見守り損ねたことに、ひどくショックを受けてるみたい。

 数日ぶりに来てみたら風呂場の屋根が隕石で大破している──そっちの方にはノーリアクションなんやな、この人。


「お姉は?」


 部屋を覗き込むときれいな板間の真ん中でお姉、通帳と書類見ながらニヤニヤしている。

 書類が入ってた封筒には、ドルとユーロのマークと共に数字がいっぱいメモされていた。


「ユーロが堅いわぁ。色々言うても、やっぱりユーロが手堅いわぁ」


 久々に聞くお姉の関西弁。

 イッシッシ……押し殺した笑い声が続く。いやらしい。


「お、お姉、外貨になんて手ぇ出してみ? 痛い目みんで」


 話しかけると驚いたようにこっちを向く。


「うるさい! 円なんて日本が潰れたらお終いよ。アメリカとヨーロッパのお金に変えてたらその分は助かるでしょうが。万一の時の危険を分散しているのよ。わたしは自分の財産を賢く守っているの」


 そんなんアメリカやEUが潰れても一緒やん。


 しばらくして通帳から顔をあげ、お姉は怪訝そうにアタシを見た。


「リカ? 泣きそうな顔をしてどうしたの?」


「うっ……」


 さすがお姉。どんな状況下でも妹のこと、お見通しや。

 アタシは今見た夢の内容を涙ながらに語った。


「アカン、この状況ホンマにアカンねん。アタシ、アカンねん」


 アカンアカン連発。

 アタシ、アカン人間になってるやろ。


「そうね」


 お姉は軽い感じで言って、オホホと笑った。


 ……お願い。否定するか、慰めるかして。


 ツッこむのは心の中だけにしといて、とにかくアタシは問題集を広げた。

 全ての高校に落ちた日の夜、お父が買ってきてくれたものだ。

 無言で差し出された紀伊国屋(本屋)の紙袋……きっと一生忘れられへん。


 1回もページ開けてないコレを使って、今からみっちり勉強する!

 アタシは決意した。


「まずは鬼門の算数からや! うわ、さっぱり分からへん!」


「……算数って言ってるあたりで厳しいですね」


 カメさんが呻いた。


「最初からさっぱり分からへん。お願い。お姉、イチから教えて!」


「さぁ、わたしにも分からないわ」


「え、でもお姉はストレートでトーキョーの国立大入ったやん」


「わたしの時代は何もかもマークシート形式だったのよ。入試はおろか、定期テストもね」


 てことは……勘?

 頭良かったわけじゃなくて?


「トーキョーの大学だって本気で受かるなんて思っちゃいなかったわよ。でも行きたかったの。尊敬するヘビメタバンドの解散ライブが受験の日の夜、トーキョーであったから」


「お、お姉……頭良くて美人のお姉って……アタシはこれでも自慢に思っててんで?」


 尊敬するヘビメタバンドって何や。

 好きなヘビメタバンドでいいやん。

 尊敬って……。


 ガックリ肩落としたアタシの背を、カメさんが優しく叩く。


「リカさん、一緒にがんばりましょう」


「カメさん……。頼りになるのはカメさんだけや!」


 そう叫んで泣くと、カメさんは微妙な笑顔を浮かべた。

 それは控え目で優秀で乙女なカメさんの、今まで見たことない迷惑そうな表情だった。


「……自信はありませんが」


 ともかく3人で問題集と格闘を始めた時。

 ドンドン──扉を叩く音。


「リカ殿~! リカ殿~っ!」


 この声、桃太郎だ。

 半ベソかいた情けない感じでドアを叩く。


「何かあったんじゃないでしょうか」


 アタシは無視しようとしたのに、わざわざカメさんが玄関を開けに行った。


「ヒッ!」


 カメさんの悲鳴。


 すごくイヤやったけど、アタシも出ていく。

 そして絶句した。


 桃太郎、あられもない姿で廊下にポツンと立っていたのだ。

 「勝訴」の旗しょった背広のメガネボーイ。

 上着はちゃんとしている。

 しかし下は穿いてなかった。

 パンツ一丁だ。


「知らぬ間に……知らぬ間に、ズボンが脱げてた」


「……そんなアホな。な、何でズボン? 一番大事なものやん! どこで落としたん?」


「それが分からぬから……」


「じゃあ、どこで気付いたん?」


「げ、玄関で……」


「どこの玄関? 家の? アパートの?」


「アパート……と思う」


「思うって何やねん! 情けない! 情けないわッ!」


 桃太郎の背をバシバシ叩き、アタシは目の前が霞むのを自覚した。


「ごめんなさい、ごめんなさいっ!」


 桃太郎もハラハラ涙を零している。


「リ、リカさん、落ち着いてください」


 カメさんに宥められ、アタシはようやく落ち着きを取り戻した。

 アカン。アタシ、すっかり桃太郎のお母さんと化している。


「余は、コスチュームはあれ1個しか持っておらぬ」


 コスチュームって言うな。


「早う見つけよ。見つけたら褒美にきびだんごをやるぞよ」


 この期に及んで、尚も上から目線なん?


 桃太郎の背を軽く叩いて廊下に出ようとしたアタシを、カメさんが押し止める。


「いえ、俺がズボンを探しに行ってきます。リカさんは勉強を続けてください」


 そこでなぜか桃太郎が頬を染めた。


「そちは優しい奴じゃのぅ」


 カメさんもえらくテレた。

 何やねん、アンタら。気持ち悪いねん!



「不毛恋バナ~甘酸っぱく始まったものの、苦々しく終了する」につづく

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