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変人しかいないアパートにて。不毛すぎるアタシの毎日  作者: コダーマ


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第26話 不毛な主義~決してパンツをはかない主義の男

 何だか火がついてしまった。

 一連のかぐやちゃん騒動はここから始まったのだ。


「今からその方を見に行きましょう」


 ワンちゃんが立ち上がった。

 いつにない積極性をみせる。

 言葉もハッキリしていて、声も震えてない。


「アカンて。ワンちゃん」


 アタシの小声での静止なんて聞いちゃいない。

 ワンちゃんのメガネ、爛々と異様な光を放っている。

 アタシのせいや。超絶美青年、でも残念なアタマ…なんて言って複雑な女子のハートを刺激してしまったみたい。


「み、見るだけよ。物陰からコソッと見るだけよ」


 勇猛果敢なお姉が、かつてない弱気な物腰。

 いきなり眉を整えだした。


 心配せんでもかぐや様?

 あの人、他人の姿なんて見えてへん。

 他人の眉毛なんて興味もないで。


「お姉らしくない。悪いこと言わん。あの人はやめとき。だってあの人、自由すぎるもん」


 ……そもそもうらしまの存在は?


 ふと浮かんだ疑問を、アタシは頭の隅に押しやった。


 ともかく、アタシら三人は裏庭へとやって来る。

 できれば二度と会いたくない危険レベルの軍事系電波さん。

 3人で押しかけたらテロと間違われて撃たれかねん。

 いきなり三段蹴りかまされるかも。


「そ、それにしてもこのアパートにこんな庭があったとはな。お姉、開墾してジャガイモ植えよう! 芽を埋めたら、どんな荒地でも勝手に育ってたわわに実つけてくれるで。お姉みたいに物ぐさでも、収穫の喜びを味わいたい人にはピッタリや。食べられるしな。き、聞いてる?」


 話を逸らせようとがんばったけど、ムダだった。

 歩を進めるたびに、足元の地面がだんだんとおかしなことになってきたと気付いたのだ。


 月光の下だと分からなかったけど、昼間見たらスゴイな、この竹やぶ……。

 電化製品だらけだ。

 壊れたテレビとか壊れた炊飯器とか……粗大ゴミ的な物が色々転がっている。

 そして、その中心部には手作り感溢れる竹でできた掘っ建て小屋が。


「なんか、壮絶な感じや。ダメ人間の臭いが漂ってくる……」


 あのボロ小屋の中に、あの電波サンが身を潜めてるんやな……。


「奥ゆかしい和風のおうちの中に、かぐや様がいらっしゃるのね」


 アタシら姉妹は同じ家を見て、微妙に違う感想を持ったようだった。


「どどどどんな……どんな人……ハァハァ」


 ワンちゃん、ずり落ちたメガネを押し上げる。

 アタシが襟首つかんで引き止めておかなければ、小屋へと突進していきかねない。


「落ち着いて、ワンちゃん。TシャツにKILLって書いてあって、真っ赤な短パンの裸足男や。近付いたらアカン。近付いたらアカン」


 そうよ、とお姉も同意する。

 もっともこちらはうっとり頬染めて、憧れの目でボロ小屋を眺めているわけだが。

 遠くから見詰めていたいといったところやろか。

 お姉の意外と乙女な一面を見て、アタシは(悪いけど)戦慄した。


 まさにその時だ。

 ガサッと藪を踏み締め、アタシらの前に一人の人物が立ちふさがったのは。

 それは恐れていた黒髪の美青年ではない。


「ボクの……ボクのかぐやちゃんに何したのさッ!」


 赤毛の失礼な三十歳──オキナや。

 何やコイツ。

 目が血走ってる。

 ハァハァ息切らしてる。


 え? ボクのかぐや……?

 頭の中でその意味を反芻する間もない。


「キシャーッ!」


 お姉が歯を剥いてオキナを威嚇した。


「フシャーッ!」


 お姉に反論(?)してから、オキナはアタシの方を向いてビシッと人差し指を突きつけた。


「夕べ、キミと喋ってただろ。その後かぐやちゃん、急に様子がおかしくなって……」


「か、かぐや様のご様子が?」


 お姉にまでジロリと睨まれ、アタシは生きた心地がしなかった。


「かぐやちゃん、こめかみに隕石が当たったって言って寝込んでるんだよ!」


 オキナは「カーッ!」と叫び声をあげる。


「いや、オカシイって。人間のこめかみに隕石当たったら、その人死ぬで? かぐやちゃんは寝込んでるわけじゃなくて、単に寝てるだけやろ? 昼過ぎに目覚めて、夜明けまで起きてるタイプの人ってだけやろ?」


 まぁアタシも人のことは言えんけど。

 オキナだってそれっぽいし、うちのお姉もそっちの部類や。

 だいたいこのアパート、そのテの人多すぎんねん。


 お姉とオキナが激しい睨み合いをしている中、アタシは遠慮がちに背中を突つかれる感触に気付いた。

 ワンちゃんだ。


「リリリリカさん、アレ……アアアアレ……」


 震える指先が示す方向は、例の竹の小屋。

 入口の扉(葉っぱのカーテン?)が揺れている。

 ガシャンガシャンと音がする。

 KILLTシャツと赤短パンの絶世の美青年が、寝ぼけ眼をこすりながら竹やぶに姿を現したのだ。


「ウゥムムム……???」


 ワンちゃんが複雑な表情で唸り声をあげる。

 分かるで、その気持ち。

 見とれていいのか、呆れたものか、慄いた方がいいのか、一瞬判断がつかへんねん。


 最初から判断能力を奪われているらしい二人は、各々「アッ!」と叫んでモジモジし始めた。

 姉とオキナも、かぐやちゃんの登場に気付いたのだ。


 KILLTシャツの美青年は、小屋の周囲のブービートラップの点検を始めた。

 アタシらに気付いてない筈ないが、完全に自分の世界や。

 ものすごく珍しい動物を動物園に見に来たような錯覚に陥る。


 そんなアタシのすぐ横──火花を散らしているお姉とオキナ。

 爪で相手の手の甲を引っかいたり、足を踏んづけたり。

 恐ろしく低レベルで陰湿な嫌がらせ合戦を繰り広げている。


 そんな中、遂にお姉がキレた。


「髪にガムなんて付けんなやァッ! 程度わきまえやッ!」


 ドスのきいた声で怒鳴り、オキナの鼻を(グー)で殴る。

 「ガーッ!」と吠えて、オキナのズボンのベルトを抜き放った。

 あ、鮮やかな脱がしのテクニック……!


「キャッ?」

 叫んでオキナ、前を押さえて前屈みになる。

 その裾をガシッとつかみ、お姉はオキナのズボンを力任せに引っ張った。

「やめてー! やめてぇー!」


 オキナの悲鳴が響き渡る。


 ──んん?


 異常事態に気付いたのはその時だった。

 徐々にズレていくズボン。

 白い尻が露になり、割れ目が見えてくる。


「えぇぇ?」

 次の瞬間、アタシは声を大にして叫んだ。

「こ、この人、ノーパンや!」


 たすけてー、と近くの竹にしがみ付き、オキナは涙を流している。


「そ、そういう主義なんだよッ! パンツをはかない主義で何が……何が悪いのさッ!」


 丸出しの尻をプルプル震わせて、オキナは「主義」を連発した。

 男のズボンを剥ぎ取りながら、髪振り乱してお姉は高笑い。


「オホホッ! 恥をかくがいいわ! かぐや様の前で恥をかくのよッ!」


 ケタケタ笑っている。


「……なんて光景や」


 アンタも十分、恥やで?


 竹やぶの向こうからかぐやちゃん、ポカンとした顔でこっち見てる。



「不毛な主義、崩壊~ヘンなアンケート」につづく

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