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変人しかいないアパートにて。不毛すぎるアタシの毎日  作者: コダーマ


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第25話 超絶不毛美青年登場!~でも頭がすごく残念なかんじ

「桃太郎のアホーッ!」


「オォーーーーーッ!」


 アタシの叫びに答えるように、連夜のごとく響く奇声があがった。

 近所の不審者が何か言っているのだろう。


 いやいや、夜更けにアパートの庭でこんな大声出したらアカンん、アタシ。

 ご近所迷惑ってものを考えなアカン。


 ともかくこの興奮を鎮めないと……。

 いや、沈めるには勿体ないエネルギーやという思いも。

 何かに利用せんと。しかし何に?


 町に走り出て踊りまくるくらいしかすることないで?

 アカンアカン。もう二度と警察沙汰はゴメンやわ。


 1人でアパートの庭にうずくまって、アタシはグルグルといろいろなことを考えていた。


 我に返って思う。

 別に本気になって桃太郎に出て行けって言ったワケ(ちゃ)う。


「でも、だからってアタシが出て行くことないやん!」


 1人ツッコミが悲しくなる。

 すっかり家出グセが身に染み付いてるみたいで、我ながら嫌になる。

 でも、今更奴のいる家には戻れんしなぁ。


 行く当てもなくアタシはオールド・ストーリーJ館の建物脇をトボトボ歩いていた。

 庭とも言えない空間には、お姉の部屋の物干し台が置かれている。

 手入れは行き届いている筈もなく、雑草がチョロチョロと生えていた。


 そんな庭を奥の方へと向かう。

 アタシの部屋(今はもう桃太郎の部屋か)と反対側──4号室のあたりまで来ると、景色は一変した。


 目の前には竹やぶ。

 サワサワと風に葉が揺れる。

 このマイナスイオン……ああ、心が癒されるようだ。

 狭い敷地だけど、裏の方に来たのはこれが初めてだ。


 空には満月──鏡のように澄んでいてきれいな光だ。


 急に自分がちっぽけな存在になったような気がした。

 今までモヤモヤ渦巻いていた色んな嫌なことが、心から散っていくようだ。


 アタシが和んでいたところに、突如ガサガサ──竹やぶがさざめいた。


「な、何?」

 周囲も暗いので、さすがに恐怖が先立つ。

「誰かいるんか?」


 まるで返事をするように竹林が、割れた。

 ガチャガチャ金属音を鳴らして一人の人物が飛び出してくる。


「ヒィーッ!」


 アタシが叫んだのは、その人物のパッと見の異様さに肝を冷やしたから、という訳ではない。


「ちょ、超絶美青年や……」


 思わず口元を押さえたのは、鼻血噴くんじゃないかと思ったくらい相手に見とれたから。


 月光の下、白い肌に黒髪がよく似合う……見たことないくらいの美しい男が、そこには居た。


「アノ……アノ……アンタ、いや、アナタは?」


 ボーッとする一瞬の間に、アタシは違和感に気付く。

 せっかくの美貌なのに、彼はKILLって書かれたボロTシャツと、真っ赤な短パンを身に付けていたのだ。

 更に、足は裸足。


 それだけで何とも言えん、残念なかんじや。

 しかも手首足首には太いアンクルが、傍目にもズッシリ重量感たっぷりに巻き付けられている。

 ガシャガシャいってた金属音の正体はコレか。


「テロだーッ!」

 男は叫んだ──月に向かって。

「テロだ。テロだーッ!」


「うわ……」


 アタシは一歩、身を引く。

 顔が強張るのが自分でも分かった。


 その時、はっと気付く。

 この声──夜中になると聞こえてきた奇声や。

 この人の叫び声だったんや。


 ゴゴゴゴ……。

 地鳴りのような音も響く。


「な、何や何や?」


 超攻撃型宇宙人の襲来か?


「アンタ、誰……いや、何なん?」


 日本語(というか人間の言語)が果たして通じるのか疑問を抱きながらも、声をかけてみる。

 男は初めてアタシに気付いたかのようにギロリとこちらを睨んだ。


「ア、アタシは怪しい者違(ちゃ)う。多部リカっていって、ここのアパートの住人で……」


 声が上ずった。

 TシャツのKILLの文字が何とも恐ろしい。


「ワシは戦場のカリスマだ!」


 唐突に、男は言い切った。


「うわぁ……」


 うわぁ、ソレって間違いなく「自称・戦場のカリスマ」やん。

 悲しい自称やわ。


 ここ、ただのボロアパートの庭やもん。

 戦場違うもん。平和な日本やもん。

 それに、ワシって、ワシってアンタ……どう見ても20歳そこそこなのに、よりによってその一人称か。


「な、何してんの?」


「ゲリラ戦の訓練だ」

 想定していた答えが返ってきた。

「ここはスイスアーミーの武装村だ。そしてワシは戦場のカリスマだッ!」


「………………」


 混乱を来しかけた頭を、アタシは必死で整理する。

 この人、戦場のカリスマって2回も自称したで。

 ゲリラ戦? スイスアーミー?


「アブナイッ!」


 KILLTシャツが眼前に迫り、アタシは竹やぶに突き飛ばされた。

 尻餅ついた痛みを感じる余裕もなく、目の前の光景に視線が釘付け。


「好きにはさせん! 地球を好きにはさせんぞ!」


 視線の先にあるのは──月だ。

 この人、月に向かって叫んではる?


「目を覚ませ!」

 突然怒鳴られ、肩を揺さぶられた。

「あれは軍事衛星だ。月じゃない! 地球の様子をつぶさに偵察する軍事衛星なのだ!」


「あ、ハイ……」


 頷きながら、アタシは確信した。

 この人、ただの電波(デンパ)サン(ちゃ)う。

 イカレっぷり半端ない。いわゆるホンモノってやつや。


「そ、その手足のアンクルは?」


 見るからに重そう。

 歩行困難な程の重量のそれを、ヤツは軽く振ってみせた。


「月から強烈な敵が、遂に波状攻撃を掛けてきた時に外すつもりだ」


 強烈な敵って?

 ソレってアンタの敵なん?

 それとも人類の敵なん?


「あと、お風呂に入る時だ!」


「?」


 ……意味分からへん、この人。


  ※  ※  ※


 桃太郎のいる2ー1には帰れないので、結局アタシはお姉の部屋に泊まらせてもらった。

 夜中にアタシが転がり込んだ時、お姉はすでにグーグー寝てた。

 新婚家庭に申し訳ない、そう言うとうらしまはキョトンとする。

 よう分からん夫婦やわ。


 ボーッとしたまま眠りに落ち、目を覚ましたのは翌日の昼前。

 お姉はとっくに起きていてワンちゃんと一緒におやつ食べてるし、うらしまは会社に出かけた後だった。


「……アタシ、ヘンな夢みた」


 ボンヤリした記憶を手繰り寄せる。

 たしか月光の下、竹やぶでヘンな美青年と遭遇して……。


「夢、(ちゃ)うって!」

 アタシは叫んで、飛び起きた。

「お姉ッ! うらの竹やぶに不審な人が……!」


 お姉は食べてたお菓子を慌てて飲み込みむせている。

 この人の焦った姿を見るのは初めてだ。


 アタシは夕べの出来事をできるだけ詳しく、2人に語った。


「ううううらの竹やぶにそんな人が? ちっともししし知りませんでした」


 ワンちゃんが怯える。


「メッチャ格好いいねん! でも言ってること全然分からんの。頭がちょっと残念なかんじでな、そこがスゴイ勿体ないねん。勿体なさすぎるねん…って、お姉、聞いてんの?」


 お姉は窓から竹やぶの方向を見てボーッとしている。

 何となく様子がおかしい。


「……あの方はいいのよ」


 小さな声で呟く。


「あ、あの方? 知ってたん? あの人、ここの住人? 庭に住んでんの? そういや小さい小屋みたいなん建ってたけど。お姉? 顔赤いで?」


 アラ、と言ってお姉は両手をホッペに当てた。


「あの方はかぐや様っていうの。とある星の高級家具店の御曹司なのよ。民の暮らしを知る為、お忍びで地球にいらして……」


 ちょっ、ちょっと待って!

 アタシはお姉を押しとどめた。


「か、かぐや様って……。お姉ともあろう人が……目ぇ覚ましや! あの人、ちょっと脳味噌湧いてんで! 本物やで! ホンモノやで!?」


 かぐや様って……そもそもお姉は相手が誰でも呼び捨て。

 敬称付けてたのはお父さんとお母さんくらいのもんや。

 あとは友だちでも先輩でも先生でも近所の人でも、容赦なく呼び捨て。

 なんでそれが違和感なくまかり通ってたんかは謎で仕方ない。


「どこの御曹司やて? かぐや様っていったってあの人の家、手作り感満載の掘っ立て小屋やん?」


 お姉は「アラ!」と悲鳴をあげた。


「小屋じゃないわ! あなたも見たでしょ。あの家、ちゃんと自らの手で1ヶ月もかけて造られたのよ」


「造ったって……竹でできた小屋やん! しかもアレ造るのに1ヶ月かけてたら、意外と不器用やで。かぐや様! そんなんじゃゲリラ戦は戦えへんで! ……ってお姉、まさか1ヶ月もその様子を見守ってたん? 気持ち悪いで!」


 お姉、珍しく「グッ」と唸る。


「あなた、今日はツッコミが冴えてるわ。どこから反論していいか、一瞬分からなかったもの」


「ア、アリガトウ……」


 一応礼を言ったもののアタシ、すごく複雑な気分や。

 また、一騒動起きるような気がする。



「不毛な主義~決してパンツをはかない主義の男」につづく

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