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変人しかいないアパートにて。不毛すぎるアタシの毎日  作者: コダーマ


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第22話 不毛すぎたカラクリ~間に合わなかったバルサン(1)

「ハァ、キレイになると気持ちいいわー」


 清潔な良い匂い。

 吹きつけたアルコールを布で拭い取る。


 家賃を払わないならせめて働けとお姉に命じられて、トイレット、おフロを含む共用部分の掃除(毎日)がアタシの日課になった。

 仕方ない。お姉の言う通りや。

 カメさんも手伝ってくれるし、もうあんな騒動はゴメンやしな。


 ゴキブリ騒動の後、カメさんは姉に掃除の仕方を指導してから帰っていった。

 アカン。カメさん、まだお姉に夢見てるみたいや。

 あの人は懲りない人やで。

 掃除なんて一生するつもりないで?


 モップを洗って、バケツを日光の下に干して。

 ああ、きれいになると気持ちいいなぁ!

 すっかり満足してアタシは部屋に戻った。

 ごく普通の動作で扉を開ける。


「アァ……」


 軽く溜め息でた。

 一気に現実が押し寄せてきたのだ。


 部屋の中では桃太郎が泡吹いて失神していた。


「桃太郎、何があったん? しっかりし……ヒッ!」


 そこで行われている事態にようやく気付く。


「さ、寒い。寒いでゴザル」


 桃太郎の影から、やけにシブい声が聞こえてきたのだ。

 前回の騒動で家(玉手箱)を奪われた一寸法師だ。

 彼は体が小さいので、アタシらとは体感温度が違うらしい。

 プルプル震えながら桃太郎のマゲの中に潜り込もうとしていた。


 桃太郎はコイツの姿を見た途端、例によって倒れたようだ。

 時折低い声で「ウーッ」と呻いている。イビキか?


「アッ、アカン!」


 咄嗟にアタシが大声をあげたのは、法師の手元にキラリと光る白い刃を認めたからだ。

 続いて、縄を裁つようなザクッという音。


「アア……」


 止める間もない。

 一瞬にして桃太郎のマゲはザックリ落とされ、一寸法師はそれを抱えてコソコソと押入れの中に帰っていった。


「ア、アタシもあんな感じで髪の毛持っていかれたんやな……」


 そう思うと何ともやりきれない思いが。

 マゲをスッパリ落とされた桃太郎は、何だか引退した細力士みたいだ。


 法師の住む押入れをまじまじと見詰める。

 エライもん住んでたなぁ、ここ。

 福の神とか言ってるけど、ホンマはただの迷惑な小人なだけやで、アイツ。


「引っ越したいかも……」


 桃太郎も一寸法師も何もかも放って、とにかくここから逃げ出したい気持ちになるのも、アタシ的には仕方ないことやん。

 ボーッとしたまま荷物をまとめかけていたアタシの部屋のドアがバターンと開いたのは、それからしばらくしてからのことだった。


「あら、リカ。何やってるの?」

 余裕たっぷりの上から目線。姉だ。


「今日のお掃除は終わって?」


「ハイ、お姉。おフロもトイレットも終わりました」


 アタシ、まるでシンデレラやん。


 満足いくまでゲームをやりこんで、それから姉はようやく我に返ったらしい。

 気が付けばアパート中、大騒動。


「何かしら……。小さくて茶黒の何かが大量発生していたような……」


 こめかみ押さえながらまるで他人顔でそんなことを言う。

 ケタケタ笑いながらゴキを手づかみしては頭と胴を引きちぎっていた記憶は、都合の良いことに彼女の中には無いらしい。


 とにかく建物中メチャメチャのボロボロということで、お姉は遂に決意した。


「家賃取り立てたい! 家賃取り立て隊!」


 どうやら、このアパートでマトモに家賃を払っている住人は少ないらしい。

 お姉が言うには、そのせいで掃除もできなきゃ修理もできないということだ。

 尤も、それは言い訳くさいけどな。


 ロックフェスみたいなノリでお姉は「家賃取り立てたい~! 家賃取り立て隊ッ!」と歌っている。


「行くわよ、リカ! 桃太郎ッ!」


「え? ちょっと、桃太郎まで巻き込まんといて。コイツ、ちょっと動いただけで大きな顔するからウザイねん。この前だって……」


 アタシの言葉が終わらないうちに「ハハーッ」と背後で声がする。

 振り向けば桃太郎、頭ザンバラのままその場に這いつくばっていた。


「大家殿の命令には、絶対服従でござりまする~」


 主従関係、もうできあがってるぅ?


 アタシ達は、女将軍に付き従う最下層の召使のように部屋を出た。


 まぁ、家賃取り立てるって行動に関しては賛成や。

 ちっとも金払わんアタシに対して、最近風当たり強いからな。

 手元に現金が入れば、お姉もちょっとは落ち着くかもしれん。


「それより桃太郎、アンタいつのまにお姉に手なずけられたん?」


 世話してんのはアタシやろ。

 そう思うとちょっと腹が立つ。


 マゲを失ったことに気付いているのかいないのか、桃太郎は神妙な面持ちだ。


「先日の大掃除で、余は大家殿が大切にされている皿を割ってしもうた」


「ハァ?」


「隠蔽しようとした余に、大家殿はこう言ってくれたのじゃ。気にするでない、形あるものはいつか壊れるのですと──」


「ハァ……隠蔽しようとしたんやね、アンタ」


 何か知らんが、アホの桃太郎はいたく感激したらしい。


 お姉的には、皿なんて別に大事じゃなかったってだけのことと思うけどな。


「心の大きな女子(おなご)じゃ~」


 己の胸に手を当てて、桃太郎はお姉を仰ぎ見た。

 それからアタシをチラ見する。


「ガメついだけのそちとは違うのぅ」


「な、何やと! アンタは誰の世話になってんねん。その言い草は許せへん!」


 そもそも、アタシなんかよりお姉の方が余程ガメツイ人間やで。

 立派なこと言ってもあの人の金に対する執着は普通違(ちゃ)うで!


 反論したってしょうがない。

 無性に腹立たしいものの、アタシは言葉を飲み込んだ。


「お金に振り回されてはいけないけれど、人間が生きていく為にはお金はとても重要なものなのよ」


 なんてお姉は勝手なことを言っている。

 桃太郎は桃太郎でいちいち「ハハァーーーッ」と土下座して聞いてるし。

 傍で見ててウザイことこの上ナシやわ。


 そうこうする間にアタシら3人は1ー4号室前にやって来た。


「あなた、存在がややこしいからもう帰っていいわ」


 お姉にあしらわれ、桃太郎はショックを受けている。

 フン。ざまあみろ、や。


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