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変人しかいないアパートにて。不毛すぎるアタシの毎日  作者: コダーマ


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第12話 不毛なまでに、乙女 ~8人殺ったマフィアはりりしくてピンクの割烹着(1)

「暑い。余を煽げ」


 実に優雅な感じで桃太郎が要求した。

 アタシは聞こえなかったふりをして、下敷きをパタパタして自分に風を送る。


 連休があけてしばらく経った。

 そろそろ扇風機が欲しい時期だ。


「これ、聞こえぬか。リカ殿、余は暑いのじゃ」


 何度か繰り返されて、アタシは下敷きを桃太郎に投げ付けた。


「アタシはアンタの守役ちゃうで! 自分で煽げや。そもそも桃太郎、アンタが暑苦しすぎんねん! このアパート、暑苦しい奴多すぎるわ!」


 アタシは相当苛立っていた。


 桃太郎のせいではない──いや、不快度を深めてくれるという意味においては立派に貢献してくれているわけだが。


「あっふーん……あふんっ。あぁっふぅーん!」


 不快指数マックスに沸騰してるのが、廊下に響くこのアホ声。

 鬱陶しすぎる。


 言うまでもない。

 声の主はアホ代表・うちの義兄──うらしまだ。


「あふんっ、あふんっ!」


 廊下に出て階段下を覗くと、義兄はあられもない格好でお仕置きを受けていた。

 お姉の部屋を勝手に漁ったからだ。


 パンツ一丁で全身洗濯ばさみ。

 クネクネ身をくねらすたびに洗濯ばさみが弾けて、うらしまは「あふんっ!」とのけぞっている。


「……放置プレイってやつか」


 アタシの視線に気付いて、うらしまはいい感じに頬を染めた。


 ホンマに暑苦しい。


 隣りのワンちゃんも怯えた様子でドアから顔を出してキョロキョロしている。


 ──仕方ない。


 アタシは階段を下りた。

 お姉に許しを請うてやろう。

 うらしま自身はあれで幸せでも、アタシらが迷惑してんねん。


「あの部屋、汚くてむさくるしくて嫌やな。余計に暑くなるわ。不快度倍増やで」


 ブツブツ言いながら姉の部屋のドアを開ける。

 そしてアタシの脳は停止した。


「ス、スイマセン。間違えました」


 慌てて飛び出した。

 きれいに片付けられ、ピッカピカに磨かれた部屋。

 それは絶対に姉の家ではない。


「アレ?」


 あらためて表札を見てみる。

 そこには「1ー1 大家」と筆書きされた表札が。


「アハハ。アタシも疲れてんねんな。白昼夢みるなんて。ホリャ! 今度こそ」


 目を擦ってもう一度扉を開ける。

 しかし光景は変わらない。

 部屋は整理整頓され、塵一つ落ちてはいなかった。


「いらっしゃい。どうぞ」


 玄関で立ち竦むアタシの足元にスリッパが差し出される。

 レースで縁取られたピンクの可愛いスリッパ。

 クマちゃんの刺繍がある。


「カ、カワイイ」


 思わず呟くと、スリッパを持っていた手が一瞬ピクリと震えた。


「あ、ありがとうございます……」


 低い声──聞き覚えのないそれに、ようやくアタシは事態の異常さに気付いたのだった。


 そこにいたのはピンクの割烹着を着た中年の男だった。

 彫りの深い顔立ち、頬には大きな傷。

 体格はラグビー選手を思わせるゴツさ。

 印象が、まるでマフィアのよう。


「しゃ、借金取り?」


 とっさにそう思った。

 するとマフィア(?)は額の皺をグッと深くする。


「何の事ですか。それより桃をむいたところです。食べますか?」


 きれいなお皿に、これまたきれいに飾り切りされた桃がキラキラ並んでいるではないか。

 誘われるようにアタシはクマさんの楊枝を使ってそれを一つ、口に放り込んだ。


「どれ、かたじけない」


 桃太郎も横から手をのばす。


「オイシイ!」


 声を合わせて叫ぶと、そのマフィア(?)は微かな笑みを浮かべた。

 りりしい微笑だ。


 マフィアのくせに、何だか一陣の爽やかな風が吹き抜けるようなこの感じ。


 アタシは決してホレっぽい方ではない。

 けれど今はこのサワヤカさんに心、癒されたい。


「……って待てや」


 自然にいるけど、この人何なん?


「お姉、お姉、ついに再婚したん? 賢明な選択やわ!」


 窓辺で桃を頬張っていた姉はこっちを見て「オホホ」と笑った。


「この方、ハウスキーパーよ。週に1回、お掃除に来てもらうことにしたの」


 あ、ああ……そうか。それでピンクの割烹着かぁ。


(ん? 何でピンク?)


 それはそうと、お姉は自分で掃除する気はないんか……そうなんや、ないんや。

 まぁ、この人の場合、プロの手を借りるのが正しい選択かもしれん。


「俺は亀山社中(カメヤマ シャチュウ)と申します」


 マフィアのハウスキーパーはアタシの前できれいにお辞儀した。


「い、妹のリカです。関西弁は気にせんといてください。え……何? 亀山さん? 今のは名前ですか?」


 マフィア──本名・亀山社中はコクリとサワヤカに頷いた。

 うわぁ、スゴイ名前。うわぁぁ…。


 明治維新の英雄──時代の風雲児が創った会社と同じ名称や。

 大丈夫かいな? アタシとしては先にゴメンナサイと言っとくしかないで?


「カ、カメさんやな。カメさんって呼んでいい?」


「………………」


 返事がない。

 見るとカメさんは額に皺を深く刻んで、ある一点を凝視していた。

 桃太郎の草鞋だ。端がほつれている。


「繕いたい……」


 え?


 カメさん、手がプルプルしてきた。

 小さな動きだが、宙で針に糸を通す仕草をし、その端を玉結びしている。

 そして上下に動かし始めた。

 ほつれた所を糸でかがっているようだ。


「エアか? エア縫いか?」


 一頻りその動きを繰り返して、カメさんは満足したのだろう。

「ふぅ」と息をついてその場に腰を下ろす。


 アタシの胸に、何となく嫌な予感が走った。

 騙された感はあったけど、この人も不毛でヘンな人なんじゃ……。


「あの、お姉……?」


 しかし疑惑を正す間もない。

 玄関の扉がすごい勢いで開かれた。

 全身洗濯ばさみ男が飛び込んできたのだ。

 明らかな不審者の乱入に、桃太郎が甲高い悲鳴をあげる。


 洗濯ばさみ男──うらしまの攻撃。


「アタック! アタック!」


 全身をグイグイとカメさんに押し付ける。

 おしおきを受けて汗だくになった身体で。


 アタシはその攻撃を、心の中で「ヌメヌメ・アタック」と名付けた。


 どうやら、うらしまなりに自分の立場の危うさを自覚したらしい。


「掃除も洗濯も僕がやる! 乙姫サマの忠実な下僕は僕1人だ!」


 ……自分でソレ言っちゃおしまいやろ、義兄よ。


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