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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第4章 あらゆる女性が欲するもの
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4-18 謎かけの答え

「あらゆる女性が欲しがるものとは何か?」



 首無騎士デュラハンガンケンが出してきた謎かけ。


 その答えは“自由リベルタ”なのです。



(そう、当たり前に過ぎて、皆が失念していた事。金銀財宝の山も、豪華なお城も、素敵な騎士も、全てが霞んでしまうほどの珠玉、それが“自由”。自らの意思で人生を歩む。これに勝るものはありませんわ)



 女三界に家無し、という言葉があります。


 年若き頃は、親の言う事に従うのが道理。


 結婚してからは、夫の言う事に従うのが道理。


 老いてからは、子の言う事に従うのが道理。


 三つの世界を渡り歩く人生なれど、身を落ち着かせる場所無し。


 女とはそういう生き物であり、誰かの指示に従って生きていくのが美徳とされております。


 しかも、上流階級ほど、この傾向が強い。


 女の意志など関係ない。政略結婚なんて当たり前、政治の道具であり、子供を産むための畑、という認識がはびこっています。


 誰もが欲し、それでも望めないからこその答え。


 欲してはいても、端から諦めているため、誰も思い浮かべない。


『あらゆる女性が持ちえないもの』、それすなわち“自由リベルタ



(ですが、“魔女の館(わたしのうち)”だけは例外。ここは魔女が支配する女の園であり、例外的な“女性優位”の空間なのですから)



 “魔女の館”の支配者は、もちろん魔女であるこの私。


 本来ならば、その上位に来るはずのファルス男爵イノテア家の当主ディカブリオさえ、私の言いなりなのですから。


 まあ、重度の姉上至上主義シスコンな上に、嫁の仔猫ラケスにまで尻に敷かれる情けない“熊男爵バローネ・オーソ”だからこそ、許されているのです。


 ここには“自由”がある。


 女が自分の意思を示し、日々を過ごしていけるという“自由”が。


 何者にも望めない、魔女と、その取り巻きだけが自由にできる場所。



「つまり、最初から呪いを解くためだけに、あんな謎かけ(リドル)を!?」



「そういう事です。口付けだけで解かれる呪いならば、苦労はしません。しかし、最後の鍵となる“自由に選ばせる”を導き出せる殿方は、まずいません。あの謎かけ(リドル)を解き、しかも“美女を独占する”という欲望に打ち勝てる者でなければ、ね」



「なるほどね~。あの問いかけも、これの為って事か」



「ですので、それを導き出したアルベルト様の見識と器量、お見事でございます」



「かなり手掛かり(ヒント)を貰っていたからな。あれで正答を導き出せんのなら、相当な節穴だ」



「それでも、です。最後の最後で正答を選び出したのですから、その決断を下したという事でございますよ。並の人間では、そうは参りません」



 なにしろ、絶世の美女を独占できる好機なのですからね。


 夜を選び、屋敷に逼塞させて、自分だけが楽しむ。普通の男性であれば、まずこれを選択することでしょう。



(まあ、それをやったら、怖~い“お兄さん”が黙っていないでしょうけどね)



 おそらくは、何度もそういう事が繰り返された事でしょう。


 「兄弟!」と馴れ馴れしく語るも、実際は“妹”の事しか見ていない怪物なのですからね。


 今も、解呪された妹と喜んではいますが、花婿は置いてきぼり状態。



(自己中心的な者には決して解けない呪い。ほんと、お婆様は食えない御仁です)



 優しい笑顔を微塵も崩さず、悪辣な策を打ち出すお婆様の姿が目に浮かぶというものです。


 それを突破したアルベルト様は、だからこそお見事なのですけどね。


 そして、そんな事を考えておりますと、持っていた“契約書”もまた、煙のように消えていきました。


 契約の内容が完遂され、意味をなさなくなったので、跡形もなく消えてしまったのです。


 つまり、今ようやく魔女と魔女との対決が、“罰ゲーム”も完了し、終わったという事です。


 その負けた側の魔女が、罰のである呪いが解け、ウキウキしておりましたが、その顔が不意にアルベルト様に向けられました。



「あ、アルベルトさ~ん」



「何かな、ユラハ殿?」



「『自由にしていい』ってことなんで、離婚しましょう!」



「うぉ~い!?」



「いや~、目的は果たしたんで、もうアルベルトさんには用がないんで」



 呪いを解いてもらって、この物言いである。


 どこまでも自己中と申しましょうか、さすがは“本物”の魔女ですわね。


 人間で、“なんちゃって魔女”の私とは、精神構造が違うようです。



「なるほど。女性は手綱を握っておかないと、どこかへ行ってしまう。そういう事なのだな?」



「アルベルト様、それは違います。“魔女”だからですわ」



「つまり、“魔女”はろくな奴がいない、という事か!」



「否定は致しませんわ」



 まあ、私自身、結構あくどい事をやっていますからね。


 金のため、楽しみのため、そして、家族のため、なんでもしますから。


 まあ、さすがに世話になった人を、ポイッと投げ捨てるような真似はいたしませんけどね。



「アルベルトさん、不満ですか?」



「むしろ不満しかないが!?」



「こんな美人とちゅ~して、それでも不満ですか?」



「口付けを交わした時は、たしか老婆の姿であったはずだが?」



「まあ、もっと“濃い”のをお望みでしたら、報酬としてお引き受けしてても構いませんわよ。もちろん、“お兄様”の監視付きで」



「……遠慮します」



 アルベルト様は報酬の受け取りを拒否しました。


 思い切り、不満げな表情を浮かべながら。


 まあ、伝説の怪物に監視されるというおまけがなければ、受け取っても良かったのでしょうが、本当に“後が怖い”ですからね。


 超絶美女との逢瀬がなくなって、残念でございましたわね、アルベルト様♪

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