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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第4章 あらゆる女性が欲するもの
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4-17 アルベルトの決断

「美女と過ごす時間、昼と夜のどちらが良いか?」



 押しかけ女房ユラハから突き付けられましたる選択。


 呪いがまだ半分残っており、今の美女の姿を維持できるのは半日だけ。


 昼と夜、どちらがよいかと夫のアルベルト様に決断を迫りました。



「昼か、夜か……。ええい、これは悩むぞ!」



「悩むも何も、本来“夜”一択ではありませんか?」



 事も無げに、分かり切った助言を私は飛ばしました。


 夫婦の営みを考えますれば、選択の余地などありません。


 あの醜い老婆の姿に、アルベルト様の“ご立派様”を突き入れる事が出来ましたらば、ご自由にどうぞ。


 老婆の醜女を相手にするのは、なかなかに骨だと思いますよ。



「ぬぅぅぅ、ヌイヴェルの言い分はもっともな話だ。だが、私は真っ当な貴族ではない。この国の暗部を司る密偵頭なのだ」



「まあ、女にうつつを抜かさないようにする、という予防的措置をお考えなのでしたらば、昼を選択するのも十分ありではありますね」



「どのみち、子を儲けるつもりはないし、それでもよいのだがな」



 アルベルト様は腕を組み、唸り声を上げながら部屋の中をうろうろしています。


 しかし、結婚断固拒否から、どういう生活様式にするのかという思考にまで進まれました。


 結婚は受け入れ、花嫁も“了”とする点で話が進みましたが、肝心の残り半分の呪いを解く方法は伏せられたまま。


 まあ、見せるわけにはまいりませんし、精々悩んでくださいな。


 実際、まだ部屋の中を行ったり来たり。時折立ち止まっては、女房ユラハ義兄ガンケンを眺めては、また唸るの繰り返し。


 なかなか答えの出ないご様子。



(さて、アルベルト様は答えに辿り着けるでありましょうか。なにしろ、“正答”はもうあなたにお教えしたのですからね)



 契約書の中身を知ってしまいますと、何のことはありません。


 首無騎士デュラハンガンケンが出した謎かけ(リドル)は、むしろこの時のために存在すると言っても良いでしょう。


 あれこそ、ユラハにかけられた呪いを解く、最後の鍵なのですから。



(そう、ガンケンは本当に“妹の結婚相手”を探していたわけではない。妹にかけられている“呪いを解ける存在”を探していたといっても過言ではない。その可能性があるのは、“謎かけ(リドル)の正答”を導き出せた者のみ。さあ、アルベルト様、答えを出す時ですわよ!)



 契約書の中身をバラせない以上、私にできるのはここまでです。


 あとは、アルベルト様、あなたの“気付き”か“優しさ”があれば、呪いを完全に解く事が出来ます。


 さあ、お答えくださいな。



「……ヨシ!」



 どうやら意は固まったようで、改めてユラハの前に立たれましたアルベルト様。


 貴公子が美女の前に立ち、告白を行う。


 なかなかに良き絵面ではありますが、片や死神、片や魔女、どちらも真っ当な存在ではありません。


 それでも少しドキドキしてしまいますのは、なぜなのでしょうか?


 さあ、ズバッと答えてあげてください、アルベルト様!



「ユラハ殿、昼か夜のどちらかを選ばなくてはならない」



「はい、そうですね。それで、アルベルトさん、あなたの答えは?」



 尋ねるユラハに少し躊躇いつつも、アルベルト様は意を決して答えました。



「ユラハ殿は美人だ。陽の光に下にいるあなたも、月明かりの下にいるあなたも、どちらも素敵な事だろう。どちらかを選べなどと、こちらには決めかねる事だ。だから、“第三の答え”を以て回答とする」



「……それは?」



「どちらがよいか、自分で決めなさい。どちらが良いか、自由に選ぶとよい」



 アルベルト様の出しましたる結論がこれ。


 そして、それは魔女の呪いを解くための最後の鍵でした。


 先程のような発光がユラハより発せられ、パシッっと渇いた音と収まる。


 それは誰の目にも明らかだった。


 “呪いは解かれた”という事が。



「やったわ! やっと解呪されたわ!」



「おお、ついにか!」



 自身にかかっていた呪いが解除され、嬉しそうにはしゃぐユラハと、それを祝福するガンケンはその頭を撫で回した。


 怪物と魔女でなければ、実に微笑ましい光景なのでしょうが。


 なお、答えを出したアルベルト様の方は置いてきぼりでございます。



「な、なあ、ヌイヴェルよ、これはどうした事か?」



「アルベルト様がユラハにかけられていました呪いを解いた、ということでございますよ」



「そうなのか!?」



「例の謎かけ(リドル)の答え、それこそ最後の鍵だったのです」



 口付けで呪いが解けるのであれば、ガンケンもユラハもそれほど苦労はしないでありましょう。


 幽世かくりよに属する者を目で捉えられる存在は、数こそ少ないですが、いないわけではありませんので。


 強引に抑え込み、契りを交わしてしまえばよいのです。


 しかし、それでは呪いの半分しか解けず、その状態では絶対に先程の選択肢の場面でしくじってしまいます。


 そうなれば何もかもが台無し。


 それを回避するために、例の“謎かけ(リドル)”を出してきたのですから。



(そう。あの答えを知る者でなければ、決してこの呪いを解く事が出来ない。アルベルト様、お見事でございます)



 なにしろ、ガンケンが出した謎かけ(リドル)


 『あらゆる女性が欲しがるものとは何か?』という問いかけ。


 その答えは“自らの意思で人生を歩む事”、すなわち“自由リベルタ”なのですから。

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