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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第4章 あらゆる女性が欲するもの
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4-16 美女と過ごす時間

 蓋を開けてみれば、何の事はございません。


 あの老魔女のユラハは、呪いをかけられた姿だったのでございます。


 その呪いを解く方法はただ一つ。



「つまり、事情を知らない男の人が、その醜い見てくれにもかかわらず、慈悲の心を以て彼女を妻に迎える事だった、というわけです!」



 要するに、おとぎ話にありがちなパターン。


 呪いを受けた姫君は、王子様の口付けで元に戻るという話。



「ああ、良かった。ようやく元の姿に戻れたわ~。あの人でなしの魔女にまんまとハメられて、自分で自分に呪いをかけて、しかも解除できないなんて!」



「ユラハよ、下手に詐欺師の口車に乗ってはならんぞ! いくら赤ん坊が美味しそうだったからと、ホイホイ賭けになんぞ受けてしまって」



「うん、ごめん、兄さん。勝てるはずだったんだけどな~」



 何やら物騒な怪物と魔女の兄妹話。


 何しろ、その詐欺師呼ばわりの魔女は、私のお婆様である大魔女グランテ・ステレーガカトリーナの事を指しております。


 あろうことか、生まれたばかりの従弟ディカブリオを賭けの代金にして、目の前のユラハと勝負したそうなのです。


 で、結果はお婆様の勝利。


 ユラハから色々とふんだくった挙げ句、“人前に出られない姿”にまで変えられてしまい、元に戻せと凄んだ兄ガンケンすら契約書を盾に退けたのでございます。


 そして今、呪いを解くための必要条件が揃ったと言うわけです。



「とはいえ、まだ呪いが完全に説かれたわけじゃないんだよね~。アルベルトさ~ん、残りの呪いもどうにかして欲しいんだけど~?」



 先程までは無口であったのが嘘であるかのように、やたらと軽い態度と口調に変わってしまった魔女ユラハ。


 まあ、あの醜い老婆の姿では、姿勢も態度も引っ込み思案にならざるを得ないでしょうが、“仮にも”夫に向けてする態度ではありませんね。


 まあ、幽世かくりよの存在に礼儀作法を解いたところで、無駄でありましょうが。



「お、おう。それで、ユラハ殿、その呪いとやらはどうすれば解けるのだ?」



「もちろん、口付けだけじゃなくって、もっと“濃い”のをすればよいのですよ」



「え……。それって」



「もちろん、ガチの本気で夫婦になって、あれやこれやをするって事です!」



「……マジ?」



 アルベルト様は困惑してらっしゃいますね。


 まあ、先程までの全力拒否とは違って、どちらかというと、迷っていると言ったところでありましょうか。


 まあ、これほどの美人から告白され、「夫婦になってくださいな♡」と言われたら、男だったら喜んで飛びつく事でありましょう。


 すぐ横に立っている首無騎士デュラハンが目に入らなければ、という前提ではありますが。



「アルベルト様、良かったじゃないですか! こんな美人と夫婦になれるんですから、探してもなかなかいませんよ!」



「まあ、美人なら、目の前にいるんだけどな」



「あら、嬉しい。私もそういう対象に見ていてくださったのは、光栄の極みですわ。ですが、今は目の前のユラハ様の事を、どうにかするべきでありましょうに。二股は、あまり関心いたしませんね」



「……なんか今日は、妙に含みのある言い方が多いな!?」



「気のせいですわ」



 まあ実際、含みのある言い方はしておりますね。


 契約書をしっかりと確認してしまった以上、私はアルベルト様に一切の助言ができません。


 あくまでこの呪いは、「解呪の方法を知らぬ者が手順通りに事を成す事」によって、ようやく解除されるのですからね。


 呪いの半分は、事情を知らぬ者が醜い老魔女と結婚する事、これで解除。


 残りの半分はこれからなのですから。


 さあ、アルベルト様、気張って残り半分も解いてしまいましょう。



「で、アルベルトさん、私はこうして元の姿になる事が出来たのですが、呪いがまだ半分残っているのです」



「それで、それを解くために夫婦になれ、と」



「そこが問題なのです。実は半分が呪いをかけられたままなので、この姿でいられるのが、一日の内の半分だけなのです」



「なんだと!? では、昼か、夜か、どちらかしか今の姿を維持できないと?」



「そういう事なのです。半日は今の姿で、残りの半分は先程までの老婆の姿で、過ごさなくてはなりません」



「呪い半分というのも、また面倒な状況なのだな」



 アルベルト様はユラハの姿をジッと見つめ、どうしたものかと悩んだ。


 呪いを解くためには夫婦にならねばならず、より“濃厚な時間”を過ごさなくてはならないのだという。


 今の姿ならともかく、あの老婆の姿で抱き付かれるのは、どうにも嫌なようですね。


 顔に書いてありますよ、アルベルト様。



「そこで、アルベルト様に選んでいただきたいのです」



「選ぶ? 何をだ?」



「昼か、夜か、どちらかしか今の姿を維持する事はできません。なので、夫であるあなたが、妻である私の姿を決めていただきたいのです。“昼”に美女の姿を取るのか、“夜”に美女の姿を取るのか、どちらが良いのか、という事をです」



「な、なんだと!?」



 ここでユラハの口から究極の二択。


 昼と夜、美女と過ごすのは、どちらの時間が良いのか、という事を。



(まあ、普通に考えたら、夜一択でしょうけどね)



 夫婦の営みの事を考えますと、夜に今の姿を取ってもらった方がいいのは当然。


 老婆の姿では、股座またぐらの“ご立派様”も萎えてしまわれるでしょうからね。


 美女と寝たら朝に老婆が横に! というホラーな展開に慣れさえすれば、この質問は選択の余地がない。


 昼を選択する利点と言えば、皆に見せびらかすくらいでしょうか。


 俺の嫁は超絶美人なんだぞ、と。



(つまり、この選択は、“夫としての愉しみ”か、“妻の名誉と称賛”か、どちらかを選ぶという事でもあります。さあ、アルベルト様、どちらを選択なさいますか!?)



 なかなかに難しい選択肢。


 欲望に忠実であれば、夜を選ぶでしょうが、そうなると、妻をずっと屋敷に閉じ込めておくことになるのは必定。


 昼に醜い老婆の姿では、人前に出たくない姿を晒すハメになりますから。


 妻の名誉を重んじれば、昼にこそ、美人でいて欲しい願うものです。


 しかし、それでは折角の美人妻も夜は醜い姿となり、夜の営みに支障が出てしまいます。


 お婆様もとんだ呪いを残したものです。


 そりゃ幽世の方々からも恐れられようというものですわ。


 その呪いの行く末、しっかりと孫の私が見届けさせていただきますね♪

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