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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第4章 あらゆる女性が欲するもの
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4-14 “絶対”は揺るがない

 兄である首無騎士デュラハンの名前はガンケン


 妹の老魔女の名はユラハ。


 二人の名前が知れた時、私はピンと閃きました。


 そそくさと部屋の隅に移動し、“床の一部”をひっくり返しまして、そこに隠しておりました頑丈な宝箱を取り出しました。


 開け方は私しか知らない“からくり仕掛け”の鍵を解除し、中から書類の束を取り出しまして、それらをササッと確認。


 そして、一枚の紙を取り出しました。



「ありましたね、お婆様との“契約書”が。妹さんの方の名前に聞き覚えがあったので、もしやと思いましたが、やはりお婆様との契約者でしたか」



 私が持っております書類の束は、お婆様が遺した“契約書”でございます。


 祖母である大魔女カテリーナの魔術、それは【絶対遵守フィサティオーネ】と呼ばれるもの。


 一度交わした約束は絶対に守られる。例え“カミ”であっても破ることはできない。それほどの強制力が働きます。


 発動条件は、“魔女の血を混ぜたインクで契約書を交わす事”。


 効力は、“契約内容に沿った行動を取ることになる”というもので、仮に契約に反する行動を取ろうとすると、“脳内の記憶が改竄”され、反する行動を取ろうとしたことを忘れてしまうというとんでもない効力。


 そして、その効力期限は“契約が履行されるまで”となっており、お婆様の死後もこうして効力を発揮しています。


 私も何度か術を使用したり、あるいは契約完了する場面に出くわしましたが、契約が切れた際は契約書が煙のように消えてしまいます。


 こうして書類が残っているという事は、契約がまだ有効である証。



「おお、やはり残っていたか! あの魔女め、契約書を“盾”にして、我が“ガンド”すら弾きおったからな!」



「契約は“絶対”ですからね。神の雷すら、契約書を焼き払うことはできませんよ」



「それは身に染みておる。もし、その契約書をどうこうできるのであれば、今すぐにでもお前から強奪してやるところだが、奪ったところで意味を成さないからな」



「契約は契約。これが存在する限り、誰であろうとその内容に縛られる」



 お婆様が規格外であったのは、やはりこの絶対に破られない契約と、それを使いこなせる頭脳や度胸があればこそ。


 こうして伝説の怪物相手に平然と契約を結べるのですから、大したものです。



「しかし、改めて中身を見てみますと、とんでもない話ですわね。これは要するに、“賭け事の宣誓書”のようなもので、互いにかけ金と勝負の内容を決め、それを以て決闘しているようなものですね」



「そう。そして、あの腐れ外道は我が妹を“虜”にしやがった!」



「そちらは貴重な文献やらをかけ金にして、それを取られた格好ですしね。しかも、負けた方は“人前に出るのが恥ずかしくなる恰好を晒す”というおまけ付き」



「酷いと思わんか!?」



「受ける方もどうかと思いますね。ただ……」



 契約書の中身を読んでみますと、あろうことかお婆様が差し出したかけ金はなんと、“生まれたばかりの男孫ディカブリオ”のようです。


 お婆様、自分の孫をチップにして、賭場に繰り出しますか!?


 やっぱりあの御方の考えは理解しかねますね。


 まあ、“絶対に勝つ自信”があればこそ、チップと言う名の見せ金を奮発したのでありましょうが、ディカブリオには黙っておきましょう。


 危うく伝説の怪物に食べられかけていたと言うのは、精神衛生上よろしくありませんので。



「……アルベルト様、やはり婚儀を進めましょう」



「なぜそうなる!?」



「利点が大きい上に、“安全”であるからです」



 私はアルベルト様に中身を見られないようにしながら、書類をピラピラ。


 さっさと話しを進めようと促しました。



「先程も申しましたが、そちらの老魔女と婚儀を結べば、緑の騎士様と縁続きとなります。数々の伝説に彩られし怪物、それを身内にできるのです。悪い話ではありませんし、大いに利用できます」



「うむ、そこの魔女の言う通りだ! 妹と結婚すれば、義理の兄弟となる! 『お兄さん、御助成頼みまする!』と叫べば、すぐに飛んで来るぞ」



「随分と軽い“伝説の怪物”だな」



 アルベルト様は完全に引いていますね。


 まあ、自分の魔術が通用しない相手ですし、警戒するのは当然でありましょう。



「ほれ! 妹もまんざらではないと、顔を赤らめておるぞ」



「いや、そんな反応されても困るんだが……」



 実際、老魔女ユラハは顔を赤らめ、照れ臭そうにアルベルト様を見つめております。


 見た目が老婆ではなく、年若い乙女であれば、貴公子に恋い焦がれる少女で通せるのでありましょうが、今の絵面はなんと言いましょうか、ダメです、はい。



「では、婚礼の誓いとして、二人で熱い口付けでもしましょうか」



「だから、なぜに婚姻が前提に話が進んでいる!?」



「その方が面白そうだからですわ♪」



「ヌイヴェル……、お前なぁ!?」



「アルベルト様、女性に恥をかかせるのは、男として最低ですわよ」



「フンッ! 据え膳食わぬは男の恥だが、膳に載せられているのが毒草であれば話は別だ! 誰が食べるものか!」



「……あの老魔女で童貞を捨てるのは、さすがに気が引けますか」



「一言多いぞ! 何か今日はやけに突っ掛かってくるな!?」



 困惑しっぱなしをアルベルト様ですが、もちろん理由はあります。


 それは今し方確認した“契約書”の中身です。


 これはお婆様とユラハが勝負をした際に交わした約束事。


 どうやらお婆様は幽世の存在に対してあれこれ勝負を挑み、それを以て相手から絞り上げていたようです。


 知識、技術、金銭から、珍しい道具まで、“幽世の存在”だからこそ得られる報酬と言うものがあるのでしょう。


 互いに賭け金を差し出し、勝った側が貰い受けると言う単純な方式。


 しかし、契約書を見てみますと、あれこれ細かな設定を盛り込まれ、今なお縛るような内容もちらほら。



(怪物相手に命懸けの賭け事とか、お婆様も大胆ですわね)



 こうして目の前に伝説の怪物や、本物の魔女がいると言うのに、お婆様の契約書でそれが夢でも幻でもなく、本当に実在する存在なのだと言う事が嫌でも思い知らされるというものです。


 そして、それらに勝ちを修めてきたというお婆様の“凄み”についても。


 やはり、あの大魔女にはまだまだ遠く及ばないと、考えるに至りました。


 もちろん、今この状況を有効活用する手立ても、同時に思い付きました。


 こういうところが、私自身、お婆様の孫なのだと痛感する次第です。


 危険であっても、儲けを見込めるのであれば突っ込むべし。


 さて、今回の交渉であり、茶番劇でもあります話し合い。上手くいかせたいものです。

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