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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第2章 名医になる予定の男
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2-18 何もしなかった魔女

 それから一週間後、再びヤブ医者と再会を果たしました。


 本来ならば顔を合わせるのも嫌な相手ではございますが、今日は相手に赤っ恥をかかせてやるのが目的でございますので、まあヨシといたしましょう。


 そして、肝心の二人の患者もやってきております。


 互いに腕に切り傷があり、私が“魔術”によって治療した方には、以前巻き付けました手巾ハンカチがそのまま巻かれております。


 一方のヤブ医者が“医術”で治療を施しました者は、包帯がしっかりと巻かれ、双方あの日のままで過ごしたご様子。


 よしよし、準備は整いましたね。



「では、御二方、その布を取っていただきましょうか」



 興味津々の野次馬達が見守る中、それぞれの布を外しました。


 そして、見える互いの切り傷。


 結果は一目瞭然でございますね。


 患者二人の患部を見てみると、その切り傷は私が治療した方が医者の治療した方よりも、明らかに早く傷が塞がっていました。



「フフフ~♪ どうやら結果は見えてしまったようですね♪」



「ば、バカな!? まじないなんぞで、傷が癒えるわけが……」



「ですが、結果はほれ、ご覧の通りでございますわ♪」



 そんな馬鹿なと言いたげな医者の顔は真っ青で、まるでこの世の終わりのようなひどい顔。


 いささかはしたないと思いつつ、心の中では諸手を上げて喝采しましたわ。


 ああ、楽しい楽しい! 気に食わない相手の歪んだ顔ほど、愉快であり、愉悦に浸れるものはございませんわ。


 そして、とどめの一言。



「これにて証明。私の“魔術”とあなたの“医術”、はてさて、どちらが優れているのかが、ね。ここにいる皆様方が証人でございます」



 言い切って差し上げましたわ。


 ああ、最高! 気にくわないバカが歯ぎしりしながら苦悶する姿、下手な喜劇を観劇するより、余程丹田に響いてきますわ。


 魔術を目の当たりにしてざわつく観衆!


 屈辱のあまり嗚咽を吐き出す医者!


 まさかの事態に驚く患者!


 それと拍手で捲くし立てるジュリエッタ!


 皆が皆、私を認めざるを得なくなる。魔女はすごい、“魔術”は本物だと。


 しかし、滑稽すぎて笑いが止まらず、顔に出さずに優雅に佇むことが、なんと難しいことなのでしょうか。


 なにしろ、私は“何もやっていない”というのに。



(そう、私は特に何もやっていない。魔術を施した“ように見せかけた”ただの水を、患者にかけただけ。あとは手巾を巻き付けただけ。本当にこれと言った治療はしていないのですからね)



 私の魔術は詐術と話術の合わせ技。


 肌の触れ合う相手から、情報を引き出すというのはれっきとした魔術ではございますが、それ以外は“偽物”なのですからね。


 それっぽい演出と、あとは魔術を行使したと錯覚させるだけの“結果”をみせれば、あら不思議!


 皆が皆、騙されるというわけでございます。


 今回もまた、それに属するもの。何もしていないのに、何かをやったとおもわせただけなのでございますから。



(まあ、ヤブ医者の間抜けた顔を拝めましたし、ヨシとしましょうか)



 そう、ここまでは私が頭の中に想い描いた絵図の通りの結果。


 しかし、予想外の展開とは往々にして起こるものでございます。


 そして、それはやって参りました。


 ギョッと驚く群衆は慌てて道を開け、さながら花道のごとくパッと開かれましたる通り道。


 そこを進むは二人の男。


 一人は我が家にて務めておりますアゾットで、もう一人は例の喧嘩で重体となっていた男。


 私やヤブ医者の見立てでは、もう助からないと放置されていた者。


 しかし、あれから一週間が経ったというのに、死んでいませんでした。


 それどころか、アゾットに付き添われ、杖を突いてではありますが、今なお自分の足で立って歩いております。


 足がありますので、幽霊の類ではなさそうでございます。


 まあ、白昼堂々現れる幽霊など、いないとは思いますが。



(となると、アゾット、あなた、目覚めていたのですね)



 アゾットの持つ魔術、それが覚醒しているとしか思えぬ現象でございます。


 “それ”を狙って、わざわざ七年に渡る時間と、他国の医大に留学させるというかなりの出費に目を瞑り、医者にしたのでありますから。


 しかし、結果を見れば、成したという事が見て取れます。


 あの重体の患者を治してしまったのですから。



(どうやら目覚めていたようですね、アゾット。あなたの魔術、【医聖の天啓ガレノス・リベラトーレ】が!)



 数年がかりの計画が上手くいき、今日の出来事が吹っ飛ぶほどの最高の慶事といったところでございましょうか。


 しかし、これはかなり“危うい”事でもございます。


 ざわめく群衆がその証。


 これは修正の必要があると、私の頭の中では新たなる台本が、急速に書き直されていきました。

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