12-6 人妻競売 (3)
オノーレとエイラの夫婦喧嘩は、見ていられないほどに険悪。
原因は多岐にわたりますが、まあ“夜の営み”に関する事が大きいですわね。
(元気があり過ぎるのも、また困りものだという事ですか)
私自身、娼婦として幾人もの殿方に抱かれてきましたが、中に“精剛”と評しても申し分ない程の元気な方もいらっしゃいました。
それこそ、一晩で十回戦を超える時も。
隣にいるジュリエッタにしても、“元”上客のユリウス様がそうですわね。
ユリウス様も精力旺盛で、“壁男”と称されるほど。
一発致す前に“壁を叩く”という奇行のために、そう他の客から呼ばれるようになりまして、「今宵は何回壁を叩くのか?」で賭けが成立する程でしたからね。
しかし、それは“一夜の恋人役を演じる対価”があればこその話。
まあ、ジュリエッタの場合はそれ抜きでも良かったかもしれませんし、実際、陛下が結婚の許可まで出していましたからね。
まだ後を引きずっているようですが、身を引いてしまいましたが。
4年ほどの付き合いもありましたし、相性は互いが認め合うほどに良い。
(……が、目の前の二人は別! 相性云々は考えず、私が仲人になって、短期間で結婚してしまいましたからね! これは迂闊と言わざるを得ない!)
なにしろ、オノーレとエイラは私が互いを紹介してから、それこそ半月と経たずに結婚してしまいました。
互いをよく知る機会もなく、上司、領主の一門から薦められたので、そのまま結ばれたという感じです。
いやまあ、二人は庶民で、仲人の私は貴族(自称)。
紹介されたからには断りにくいというのもあるでしょう。
結果としては大失敗。
精力のあり過ぎる夫に嫌気がさし、新妻が辟易とする展開。
そこから亀裂が深まって、ついには料理の味付けなどの日常的な話にまで対立構図が広がりを見せ、収拾が付かなくなったのが現在の状況。
挙げ句に、脅しのつもりなのでしょうけど、妻を売り飛ばそうとする夫に、「上等!」と啖呵を切る妻という有様。
(ならば、本当に売りに出してみましょう! もちろん、脅しとしての狂言による嘘の競売ですけどね!)
すでにアゾットに財布を渡し、庶民では手が出せない金額を持たせています。
周囲を見渡せど、お金を持っていそうな貴族の気配、姿は一切なし。
なので、私とジュリエッタの財布でも、余裕で競り勝てます。
(最初は低めの金額で始めて、誰でも参加できるようにして、場を盛り上げる。そして、盛り上がってきたところで、アゾットに競り落とさせる。“本当に売りに出される”とは、思っていないでしょうからね、二人揃って)
何と申しましょうか、言い争う二人からは、まだ余裕が伺えます。
実際、二人にはさり気なく“肌を触れあって”、確認しましたからね。
我が魔術【淫らなる女王の眼差し】は、肌の触れ合った相手から情報を抜き出すもの。
今の二人からは“これ以上にない苛立ち”と、“どうせ相手の方が折れる”という、高を括った態度で、心が埋め尽くされておりました。
ならば、本当に売りに出されたらばどうなるか?
いくら何でも、そんな“非常識”は有り得ないと困惑し、自らの罪が重荷となって、後ろめたさが形成される。
そこで、ようやく口論の熱気が冷め、私の言葉が入り込める隙が生じる。
そこでアゾットが競り落として終了。
冷静さを取り戻した二人を私が諭して、万事解決というわけです。
(まあ、そちらの方が大仕事なんですけどね。とにかく、問題なのはオノーレの遠慮のなさが主な原因とはいえ、決して引こうとしない二人の性格が起因してますからね。これを丸くしない事には、今回を解決できたとしても、問題の先延ばしにしかなりません。本気で手を打たないと、すぐに再燃するでしょう)
そう考えると、かなり頭の痛い話です。
この二人の性格を変える方法、どこかにないものかしらね。
(長い時間をかけて、ゆっくり諭していかねばなりませんか……)
それこそ、カトリーナお婆様なら、【絶対遵守】を用いて、「夫婦喧嘩はダメ、絶対!」とでも契約させれば完了ですからね。
私の“口八丁”にも限度と言うものがあります。
(なるようにしかなりませんが、こうなってはとことんやってやりましょうか!)
私は意を決し、そこらにあった木箱の上にエイラを立たせ、声を張り上げる。
「さあさあ、皆様、お立合い! 今日は連れ合いの方に幸運をもたらす雌馬をご用意いたしました。一度足を止めて、ご覧になられていただきたい!」
いささか品のない声を張り上げておりますが、祭りの喧騒に負けているようでは、注目を集めることなどできません。
我がイノテア家は商会も経営する商人の家門でもありますからね。
この手のやり口も、当然熟知しております。
さあさあ、魔女による妙齢の婦人の競売、始めましょうか!




