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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第11章 魔女の宴は華やかに
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11ー56 愛情の行方

 妹へのお節介はさておいて、目の前にアリーシャ様が現れた意味を考えねばなりませんね。


 当然、こちらに何か用件があるのは明白。


 そうでなければ、こんな人気のない中庭の隅に、少女が一人でやってくる事など有り得ないのですから。



(私もジュリエッタも、社交界では顔と名前がかなり売れていますからね。もちろん、“悪評”の方ですけど)



 私は魔女にして娼婦であり、しかも“陛下を美貌と甘言でたぶらかす悪い女”と思われていますからね。


 妬みや蔑みの視線を浴びる事など、日常茶飯事です。


 一方のジュリエッタの方も評判が悪い。


 イノテア家の女とは知れ渡っておりますので、つまり私と同じく“娼婦”だと認知されていると言う訳です。


 そして、ジュリエッタの社交界への出入りが頻繁になったのはつい最近。


 ユリウス様がチロール伯爵家の家督を継ぎ、そろそろ結婚相手をとなったため、抜け駆けを防ぐための壁役として、“仮想恋人ファルソアマンテ”になってからです。


 ユリウス様の伴侶の座を巡り、貴族間での駆け引きが激化してきたため、思わぬ抜け駆けがないようにと、陛下が私に相談して、ジュリエッタにその役目を与えたのが始まりです。


 今までは娼館の中だけの、一夜の戯れの相手でしたが、人目に付く場所においてユリウス様と同伴するようになったのですからさあ大変。


 隙あらばユリウス様に食らいつこうとしていた美女の姿を借りた魑魅魍魎、それを遮る壁がいきなり現れたのですからね。


 隙なく張り付かれて手出しができず、どこの馬の骨とも知れぬ赤毛の女に敵意を向ける。


 下賤な娼婦が出しゃばるなと思いつつも、ユリウス様の前ではあくまでしおらしい乙女でいなくてはならないと、表面的には平静でした。


 その分、裏に回ればある事ない事を捲くし立て、私自身の悪評も相まって、白い魔女と赤毛の娼婦の悪名は、ここ最近、上がる一方でした。



(本当に窮屈でしたからね、ここ最近は本当に。陛下の御厚情と、ゴスラー様のおかげで事無きを得ていましたが、下手をすると妬みを買った貴族の方々から集中攻撃を受けていたかもしれませんからね)



 しかし、それも今宵限りで終了。


 私は陛下と、ジュリエッタはユリウス様と、それぞれ別れ話を済ませてきましたからね。


 男女の契から、君臣の別へと。


 ある意味、正しい真っ当な状態になったとも言えましょうか。


 私は別に構いませんが、それでもジュリエッタには少しくらい道を残してあげようかという、私なりの甘い考え。


 そして、その切っ掛けとなりそうな方が、目の前に現れたのですから。


 アリーシャ様の真意を探り、後々に活かさねばとね。


 当然、仕掛けます。



「アリーシャ様、失礼ですが、我々に何か伺いたい事でもあるのではございませんか?」



 感じた性格上、負け犬(・・・)を嘲笑いに来たとか、そういう理由ではないでしょうし、そうかと言って理由もなくやって来るとは考えにくい。


 ならば、話しやすい環境を整えて差し上げましょう。


 話し上手にして騙り上手(・・・・)は、同時に聞き手としても優秀なのですよ。


 とはいえ、実質初対面に等しい間ですから、さすがに気が引けるのかと思いきや、しっかりとこちらを見て口を開いて来ました。


 そして、飛び出す意外過ぎる質問。



「愛してもいない男性と、どうして伴侶にならないといけないのでしょうか?」



 う~ん、成熟した雰囲気に似合わぬ、乙女な質問ですわね。


 いずれ誰かと結婚する、否、させられるのが女という生き物。


 特に上流階級ほど、家同士の繋がりを何より重要視しますので、その証として婚儀を結ぶのは当たり前。


 そうした教育を受け入れているのかと思えばさにあらず。


 見た目に反して、中身や発想が少女でしたわ。



「なるほど、そういう質問ですか。つまり、アリーシャお嬢様はユリウス様の事を愛してはいない、と?」



「そうです。今日お会いしたばかりの方を、どうして愛せましょうか。お父様の監視の下、軽くお話しをしただけなのですよ?」



「足りませぬか、それで」



「ユリウス様はお優しくて真面目な方だという印象を受けましたが、全く心がときめく事はありませんでした。なんと言いましょうか、心ここに非ずで、言葉が浮ついていると言いましょうか、軽いと言いましょうか」



 単なるお嬢様かと思いきや、意外と鋭い。


 ユリウス様も相手を好いて婚儀を申し出たのではなく、陛下に言われて受けた形の婚儀ですからね。


 気の知れたジュリエッタと違い、初めて話す女性を前に多少の緊張をしていたでしょうし、そもそも乗り気でなかったのかもしれませんね。


 上流階級において、婚儀は政略と同義ですからね。


 親や家長の定めた婚儀を、当人らの意志に関係なく進められるものです。



(好き合っていても、ままならない事もありますからね。むしろ、結婚前に顔合わせできただけでも上出来。下手すると、結婚式当日が初顔合わせ、なんて事もありますからね。真面目な分、ユリウス様も悩み多しと言ったところでしょうか)



 ジュリエッタにせよ、ユリウス様にせよ、絶縁状できっぱり別れた格好となりましたが、意外と尾を引くやもしれません。


 まあ、そこをついつい煽ってしまうのが、魔女の悪い手癖なのですが。



「なるほど。ユリウス様を愛してもいないのに、結婚するのは嫌だ、と」



 聞きようによっては、ジュリエッタが激怒する話ではありますが、すでに絶縁状を突き付けましたし、若干揺らぎつつも、覚悟は固まっております。


 ここは、元恋人と、婚約者の、恋の鞘当てを参りましょうか。


 なんとなく、面白そうだから♪


 二人の女の愛情の行方、どこへ飛んでいきますやら。


 しかと拝見させていただきましょう!

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