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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第11章 魔女の宴は華やかに
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11-28 魔女の素顔 前編

 将棋スカッキィでの勝負は、私の勝ちとなりました。


 “読心”封じが効いたとはいえ、なかなかに楽しませていただきましたわ。



「さて、勝負はついた事だし、魔女レオーネよ、分かっているだろうな?」



 ここですかさず、フェルディナンド陛下からの催促が入りました。


 私が勝てば、レオーネの素顔を拝める事になっておりますので、それを促すのは当然でしょう。


 陛下自身、『処女喰い』の一件で、魔女レオーネの罠にはまり、危うい場面もありましたからね。


 道化姿のその下にある素顔、気になる事でしょう。



(もちろん、私もですわ。彼女が私の“双子”かどうか、判別するのには素顔を確認するのが一番ですからね)



 魔女ユラハからの情報によると、カトリーナお婆様が“雲上人セレスティアーレ”の住まう聖なる山アラアラート山から下山する際、両手に赤子を抱えておりてきたのだそうです。


 片方は私であり、もう片方は行方不明。


 そして、その行方不明がレオーネでは、と言うのが現段階での仮説。


 私の母が雲の上で双子の女児を出産し、何らかの取引を経てお婆様が双子を引き取り下山した、という推察です。


 それが今、あらわになろうとしているのです。


 そんなこちらの思惑など知ってか知らずか、レオーネは深い溜息を吐きました。



「ヌイヴェルよ、一応確認を取っておきたいのだが?」



「何についてでしょうか?」



「俺はな、素顔を人前に晒したくはない。そして、それにはちゃんとした理由がある。それでも見せろとお前は言うのか?」



 レオーネから発せられた言葉は、怒気と哀愁を同居させたような、そんな雰囲気のある言葉でした。


 本当に嫌がっているようではあるのですが、容赦するつもりなし。


 賭けは成立し、勝敗が決した以上、ちゃんとかけ金を支払ってもらわない事には、契約不履行となりますからね。


 私にとって、約束と“絶対”なのです。



「前に会った時は仮面を、今は道化師姿で、素顔を隠している。それゆえに、見てみたくもなるものよ。好奇心、とでも思っておいて」



 これは嘘ではない。


 私は今、自分の出生の謎を追っているのですから。


 どこで生まれ、誰が母親で、あるいは父親が誰であるのか?


 カトリーナお婆様は“雲上人セレスティアーレ”とどんな契約をして、本来は脱出不可能なアラアラート山から、どうやって堂々と下山できたのか。


 他にも色々と、謎はあります。


 それを一つずつ丁寧に、解いていっている状態です。


 レオーネの素顔もまた、それを探るための革新的な部分であると考えたからこそ、危うい勝負にのったのですから。



「ハンッ! 好奇心で俺の顔を見たいとか、ろくでなしだな、ヌイヴェル」



「魔女は多かれ少なかれ、全員揃ってろくでなしでは?」



「俺は至って真面目な常識人のつもりでいるが?」



「少なくとも、真面目で常識的な方であるならば、主君の伴侶を賭けで決めようなどとは申し出る事などないと思いますが?」



「それだけの価値があれば、多少の無茶も通したくもなるさ。お前は自分自身がどれだけ価値のある存在か、まるで理解していないのだな?」



「理解はしているつもりですわよ」



 なにしろ、教会の法王聖下が私を嫁にしたいと言ってきたくらいですからね。


 しかも、義兄妹の婚礼という、禁忌を犯してまで。



(だからこその神話の再現! 原初の人アーダームと、その二人の妻、“聖光母ヴィルジナリス・ハヴァ”と“魔女王レ・ステレーガ・リリン”、これをお婆様と共に下山した双子に担わせようとしている)



 聖光母ヴィルジナリスの腹より生まれた“七つの美徳”。


 魔女王レ・ステレーガの腹より生まれた“七つの大罪”。


 これらをかけ合わせる事により、後の“人類”が誕生したと経典には示されています。


 罪と徳を内包し、その均衡の上に世界、社会が存在する。


 神話の再現とは、まさに人類の始祖となるに等しい行為。


 手を伸ばせど届かぬ神の頂に、上り詰める意味を成しています。


 目の前にその原初の花嫁がいるのであれば、試してみたくもなりましょう。



「経典の中身が変わってしまいますか」



「思惑はバラバラだ。ある者は経典通りの状況をなぞり、ある者は加筆修正を目論み、あるいは神にすら取って代わろうと考える奴までいる」



「そして、その渦のど真ん中に私がいる、と」



「連れて帰って、あれこれ研究したかったのだがな。今回は諦めるとしよう」



「今回は、ね」



 つまり、全然諦めていないという事です。


 折を見て、また仕掛けると宣言したに等しいですからね。


 やはり、油断ならない相手になりますね。



「……話が横道に逸れたな。さあ、俺の顔を見ろ。そして、後悔しろ!」



 そう言って、レオーネは道化の頭巾を外し、その下の素顔をあらわにしました。


 そして、絶句。


 私だけではありません。


 近くにいたフェルディナンド陛下も、将棋スカッキィを観戦していた皆様方も、揃いも揃って絶句したのです。


 あるいは、顔を背けるほどの恐怖を感じて。


 レオーネの素顔、それは“何もなかった”。


 顔が顔の役目をはたしていない、歪みに歪んだ状態。


 古傷で何もかもが潰されていた顔、それがレオーネの素顔でした。

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