11-27 魔女の戯れ (3)
“女王の生贄”を打った以上、勝ち筋は見えている。
しかし、盤面は複雑怪奇で、とても読み切れるものではない。
(そう、これを読み切れる者が、超一流なのですよ!)
おそらく、これを読めているのはジュリエッタだけ。
レオーネは頭こそキレますが、将棋の指し手としてはただの一流。
カトリーナお婆様に勝ったとか言っておりましたが、それも“読心”を使えればこその結果。
純粋な知恵比べ、将棋の研鑽としてはまだまだですわね。
「さあ、レオーネ、どうしました? あなたの番ですわよ?」
「…………」
「心を読めない程度で、その体たらくでは興覚めもいいところですわね」
これ見よがしな挑発。
ニヤニヤ笑って、相手の神経を逆なでします。
冷静になって考えれば、あるいは私でも気付かない一手を生み出せるかもしれませんが、そうはさせません。
物理的に叩きのめす事が出来ない以上、徹底的に精神を破壊して差し上げましょう。
まあ、図太い魔女を殺し尽くすのには、少々材料不足ではありますが。
カチンッ! コツンッ!
「先手、白、兵士f3! 女王消失!」
当然、女王を取って来ますわね。
しかし、これで王を守る城壁に“穴”が開きました。
それこそ、私の待っていたものなのですから。
コツンッ!
「後手、黒、城兵g6! 王手!」
壁となっていた兵士を動かしましたので、正面がガラ空き。
友軍が壁になり、逆に王様の逃げ道を塞いでしまうという、バカバカしい状況。
誰も城兵の突進を阻めませんわよ。
コツンッ!
「先手、白、王様h1!」
当然、逃げ込む先は戦場の端の端。
これで、王様はどこにも行けなくなりました。
あとは手順通りに詰めていけばよいだけですわ♪
コツンッ!
「後手、黒、僧正h3!」
gの直線上はg6の城兵が抑えておりますので、白の王様は動けません。
そして、今動いた僧正は、王様にとっては唯一の護衛であるf1の城兵に利かせる。
これを獲りに行きます!
コツンッ!
「先手、白、城兵d1!」
逃げた。護衛が剥がれた。
ああ、蹂躙、楽しいですわね。
それがいけ好かない相手であればなおの事。
そして、ここからが怒涛の展開です。
「後手、黒、僧正g2、王手!」
「先手、白、王様g1!」
「後手、黒、僧正f3、歩兵消失! 王手!」
「先手、白、王様f1!」
「後手、黒、僧正g2、王手!」
「先手、白、王様g1!」
「後手、黒、僧正f3、王手!」
「先手、白、王様h1!」
「後手、黒、僧正f2! 兵士消失!」
はい、これで包囲完了!
王様の回りを僧正二人で取り囲み、さらに、直線が開いておりますので、城兵がいつでも飛び込めます。
もう終わりも近いですわね♪
コツンッ!
「先手、白、女王f1!」
遅ればせながら、ようやく相手側の女王が戻ってきましたか。
しかし、もう手遅れ。
生贄が終わった段階で、こうなる事も予想出来ておりましたのでね。
カチンッ! コツンッ!
「後手、黒、僧正f1! 女王消失!」
さようなら、哀れなる女王。
なすすべなく、汝らの王国が崩壊する様を盤外より見届けよ!
「先手、白、城兵f1! 僧正消失!」
「後手、黒、城兵e2!」
「先手、白、城兵a1!」
「後手、黒、城兵f6!」
「先手、白、兵士d4!」
「後手、黒、僧正e3!」
「先手、白、僧正e3! 僧正消失!」
「後手、黒、城兵f2! 兵士消失! 王手!」
「先手、白、王様g1!」
「後手、黒、城兵f2! …………、詰みの一手!」
これにて終了。
最後は壁のごとき二体の城兵に圧殺され、白の王様は城下の盟を誓いました。
そして、湧き起こる喝采の拍手、雨あられ。
いやはや、これで面目は保たれましたわね。
(と言っても、レオーネはアルベルト様とジュリエッタを下しておりますから、今日のところは1勝2敗で、こちらの負け越し)
魔女の口車での結果となりますが、少なくとも“嫁入り”は防ぐ事は出来ましたので、ヨシとしましょうか。
フェルディナンド陛下も、内心ではビクビクしていたご様子で、今はようやく安堵の顔を浮かべておりますわね。
ご安心ください、陛下。
私はあなたの下を去るつもりなど、毛ほどもございませんわよ。
とはいえ、今は勝利を喜びましょう。
手強い相手ではありましたが、まあ、何とかなるものですわね。
なかなかに面白い勝負でしたわ、魔女レオーネ!
魔女同士の戯れ、案外面白かったですわ♪




