表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第11章 魔女の宴は華やかに
347/404

11-16 対決! 魔女vs死神 (3)

 並べられた駒を、一撃の下に倒せ。


 盤上に並べられた将棋スカッキィの駒は、全部で三十二体。


 レオーネはそれを一撃で全て倒せるのだと言う。


 そして、アルベルト様の手には投石機オナガーの玩具と、砲弾代わりのクルミの実があります。


 それを持ちながら、机の上にある駒を眺めながらグルグル。



(命中すれば、確実に倒せるだけの威力がある。しかし、三十二体全てを倒すとなると、砲弾一つでは足りない)



 先程アルベルト様が試射されましたが、通常の投石機同様、放物線を描きながら砲弾が飛ぶだけ。


 直線で飛ぶため、すべてを巻き込むには狭すぎる。


 しかし、レオーネは可能であると、自信満々です。


 つまり、確実に全てを倒せる方法はあるという事です。



(いえ、これはもしや……)



 私はある事を閃きました。


 その方法を使えば、確かに駒全てを一撃で倒せる方法です。


 それに気付いた時、してやられたと感じました。



「アルベルト様!」



 思わず叫んでしまった私。


 後先を考えない迂闊な行動でした。


 皆の視線が私に注がれましたが、口を紡がざるを得ません。



「おいおい、ジェノヴェーゼの魔女よ、助太刀はダメだぜ。お前の相方が無様に負けを晒す姿を、じっくりその場で眺めてな!」



 レオーネからの嫌味が飛び、たしなめられる。


 当然ですわね。今は決闘の最中なのですから、横槍は厳禁。


 アルベルト様の名誉にかかわる事ですので、引き下がらざるを得ません。



「ククク……、ジェノヴェーゼの白い魔女よ、どうやら一撃で倒す方法を見出したようだな。だが、動くなよ、喋るなよ。それでは面白くない」



「…………」



「やはり、ジェノヴェーゼの連中は温いなぁ~。魔女の智恵と、死神の闇討ち、両方が揃ってようやく俺と同等ってところか。大した事ないな。分けて対処してしまえば、どうという事はない」



 余裕の態度のレオーネ。


 確かに前回戦った時も、法王聖下の横槍がなければ危うかったですからね。


 どうやら、私もそれを勘違いしていて、レオーネの実力を低く見積もっていたのかもしれません。


 攻撃に特化した魔女ではなく、攻撃が得意であっても、全般的に知恵の回る存在である事を、見落としていたのです。


 事実、あの時、ヴォイヤー公爵家の屋敷に兵力を想定以上に集中させていた事を、実際に屋敷に踏み込むまで気付けませんでしたしね。



(お願いです、アルベルト様! 気付いてください! 魔女の最大の武器は、他者を惑わす“口先”にこそある、と!)



 方法を探し、なおもグルグル回りながら、時折止まっては考えるアルベルト様。


 あの姿は完全に魔女の術中に落ちてしまっています。


 このままではマズいと思いながらも、助言を出せないもどかしさ。


 戦力を分散させるのは、戦の常道。


 各個撃破は、効率よく敵を倒すための作戦なのです。


 まんまと分断され、魔女と、死神を、分けて倒そうとしています。


 “死”に直結させるのではなく、“名”を汚す。


 アルベルト様は死神。ジェノヴェーゼ大公国の暗部を司る密偵頭。


 髑髏の番犬が破れたとなれば、それは密偵頭を覆う“正体不明の不気味さ”という漆黒の帳を、外す事にもなりかねません。


 不気味であれば、人はなるべく近付かないようにするのが常。


 それが外れてしまえば、そこに“侮り”が生じる隙が出来る。


 死神にとっては、本当にそれは致命傷にもなりかねない。


 闇の中に蠢く何か、それが死神の不気味さを醸しているのですから。



「さあ、決めろ、死神よ! 一撃だ、一撃!」



 唯一の手がかりは、レオーネだけでなく、私も答えを見い出した事。


 つまり、“誰でも可能な再現性のある答え”だと言う事です。


 実際、やり方さえ分かってしまえば、この場の誰でもできてしまうのですから。


 ハラハラ見守っておりますと、アルベルト様が遂に考えをまとめたようで、動き出しました。


 予備のクルミの実を掴み、それを全てグシャリと潰してしまいました。


 その欠片をたっぷり投石機オナガーに設置し、駒に向けて発射!



(散弾による広域制圧射撃! それがアルベルト様の答えですか!)



 コチン! カチン!


 無数の欠片が一斉に飛び散り、次々と駒をなぎ倒して行きました。



(……が、ダメ! それでは倒しきれない)



 確かに想定以上倒れましたが、全てを確実に倒すのには再現性が薄い。


 偶然に頼る一撃では、倒れないものが出る。


 現に、倒し切れなかった駒がいくつかありました。



「ほ〜、なかなかのものだ。無数のつぶてを用意し、駒を倒す手数を増やしたか。記録は三十二体中の二十六体だ。惜しかったな、死神」



 レオーネの高笑いが広間に響く。


 あるいは何度かやれば、全て倒しきれるかもしれません。


 しかし、その一度を最初に引くのは至難の業。


 アルベルト様には、その“運”がなかったのです。


 確実な再現性に乏しい以上、幸運に頼らざるを得ませんから、しくじりもあって当然。


 残念ですが、レオーネの勝ちです。



(こっそりと答えを教える事さえできれば、アルベルト様が無様を晒す事もなかったのに!)



 やられたのは私も同じ。


 答えを得ながら、それをお伝え出来なかったのですから、参謀役としては失格です。


 私もまた、レオーネに負けたと言えましょう。


 なんという醜態でしょうか!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ