11-14 対決! 魔女vs死神 (1)
思わぬ事態となりました。
道化師に扮した魔女レオーネに対して、フェルディナンド陛下が勝負を受ける。
その代理人として、アルベルト様がレオーネと対決する事となりました。
(さて、どうなるのかしら、この勝負は)
何を以て競うのかは分かりませんが、“賭け金”は決まっています。
それは間違いなく“素顔”。
どちらも仮面を被る者同士、素顔を晒さないアルベルト様とレオーネ。
勝てば仮面を外せと、互いに言う事は自然な流れでしょう。
(レオーネの素顔を見れば、私と双子かどうか判明する。一方、アルベルト様も素顔を晒してしまえば、フェルディナンド陛下との双子の件が露呈しかねない!)
フェルディナンド様とアルベルト様は異母兄弟と言う事になっております。
相続の問題を生じさせぬため、異母弟のアルベルト様をプーセ子爵家に養子に出したと、世間では思われておりますし、実際、戸籍の改竄から関係者への箝口令など、様々な予防措置が取られております。
双子の件がバレても致命傷とはなりませんが、かなりの心象悪化に繋がりかねませんね。
当人同士はそのように“契約”していたとしても、数々の隠蔽工作に加えて、普段のアルベルト様の働きぶりが悪印象。
異母弟ではなく、双子であると、“入れ替わっているのでは?”と勘繰られて、私との関係まで暴露されかねません。
だからこそ、全力で戦って、勝ってください、アルベルト様!
「……で、何をして遊ぶのかな、道化姿の魔女よ?」
「その言葉、勝負受諾と判断して構わねえな?」
「無論」
「では……!」
ここでレオーネがビシッとアルベルト様を指さしました。
相手に指を向ける、という動作は大変失礼ですので、露骨すぎる程の挑発。
まあ、詐術を使う魔女であれば、これくらいは当然でしょうか。
「では、プーセ子爵アルベルト、勝負といこうか!」
「受けて立とう、ネーレロッソの魔女レオーネよ。何をして勝負をする?」
「折角だ。“コレ”で行こう」
皆の注目が集まる中、その勝負の方法とは“玩具”。
レオーネが持っていた小さな投石機です。
持っていたその玩具を、アルベルト様に差し出しました。
「勝負を始める前に確認しておくが、お前が勝ったら、俺に何を要求する?」
「無論、その仮面を外し、素顔を見せて礼に則った挨拶で、フェルディナンド陛下に挨拶をしてもらおうか」
「では、逆に俺が勝ったら、お前も仮面を外し、うちの大公に拝礼してもらおうか」
やはり、互いに仮面を外せという話になりましたか。
しかも、勝負の方法が玩具の投石機を使ったものとは!
「では、勝負を始めよう。なに、実に簡単なものだ」
そう言うと、レオーネは机の上にバラバラに置かれていた将棋の駒を集め始めました。
六種十六体の白黒二色、合計三十二体分の駒。
それを将棋の盤面上に適当に配置しました。
「先程、子供達と戦争ごっこに興じていてな。その投石機にクルミの実を砲弾として設置し、それを飛ばして何体倒せるか競っていた」
「実際の戦においても、投石機で投げ込まれた巨石が命中すれば、幾人も潰れてしまうものな」
「ああ、その通りだ。それを盤面の駒で再現する」
駒の配置が終わり、砲弾となるクルミを摘まみ、それをアルベルト様に渡す。
「勝負と言うのは、あれか。この玩具の投石機でクルミの砲弾を飛ばし、倒した駒の数を競うというのだな?」
「いいや、ちょっと違う。攻撃を加えるのは、アルベルト、お前だけだ」
「こちらだけだと?」
「ああ。三十二体、全てを“一撃”で倒せ。それが勝利条件だ」
「駒全部を一撃で倒せだと!?」
声を荒げるアルベルト様。
そして、ざわつく観衆。
その反応はもちろん、「無理だ!」と思えばこそでしょうね。
「レオーネよ、なぜ全てなのだ?」
「決まっている。俺は“一撃”で駒全て、三十二体を倒せるからだ」
「なんだと!?」
「三十二体全部を倒せるから、お前が三十二体全てを倒せないと、自動的に負けになるからだよ。引き分けはなし。俺は後攻。先に全部倒せば、お前の勝ちって事にしてやろうという、親切心からの条件提示なんだよ、これは」
駒の並びから、砲弾一発で全てを倒す事は不可能。
しかし、平然と倒せると言い放つレオーネ。
仮面の下では、ニヤニヤ笑っているでしょうね。
そして、アルベルト様の仮面の下は、焦っている事でしょう。
どう考えても、不可能なのですから。
「ま、せいぜい頑張って考えてくれたまえ、アルベルトくぅ~ん♪」
「…………」
「どの位置、どの距離からでも構わないよ。一撃で盤面の駒全てを倒せば、お前の勝ちだ。ただそれだけの勝負、気楽にやりなよ」
喋り方がいちいち癇に障りますわね。
本当に品のない、下町訛りです。
しかし、それを吹き飛ばす、強烈な発言がレオーネの口から飛び出しました。
「悩め悩め、それでこそ人間、磨かれるというものだ。そんな甲斐性なしだからこそ、“バツイチ童貞”なんて言われるんだぞ~」
それは絶対に有り得ないはずの言葉。
だからこそ、私は背筋に寒気を覚えました。
(バカな! アルベルト様に“バツイチ童貞”などと言えるのは、あの時、塔の部屋の中にいた者だけのはず!)
ほんの数分の出来事でしたが、アルベルト様は魔女ユラハと結婚していました。
速攻で離婚しましたが。
“童貞”はともかくとしても、“バツイチ”である事を知っているのは、あの時あの部屋での出来事を知っている者だけになります。
(アルベルト様の“バツイチ”情報を知っているのは、本当にごく少数。実際にあの部屋の中にいた当事者、私、アルベルト様、ガンケン様にユラハの四名。あと知っているのは、私が部屋での出来事を話したディカブリオとアゾットだけ……)
アルベルト様が自分の汚点になるような事を、わざわざ他人に喋る性格ではありません。
あるとすれば、フェルディナンド陛下に対してくらいですが、そうした素振りは一切なし。
そうなると、残る情報漏洩の可能性は、ディカブリオかアゾットが、情報を外部に漏らしたという事になります。
自然と私の視線は、二人の方に向きます。
すぐ側にいる私の従弟、“熊男爵”ディカブリオ。
そして、少し離れたところの人混みの中にいる“天下の名医”アゾット。
(嘘でしょ……。どちらかが情報を漏らした、という事なの!?)
それは最悪中の最悪。
最も信頼していた従弟と従者、そのいずれかがネーレロッソ側に寝返っていた事を意味するのですから。




