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魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第11章 魔女の宴は華やかに
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11-10 ネーレロッソ大公

 “ネーレロッソ大公国”


 五大公の一つ、ネーレロッソ大公カッポメディオ家が治める国です。


 優れた鍛冶、冶金の技術を有し、“鉄の国”の異名を持つ、五大公国の中でも頭一つ抜けた軍事力を持つ国と言われております。


 軍事力を背景に他国との境界でわざと騒乱を起こし、ゆすりたかり(・・・・・・)を生業とする、極めて不快な存在です。


 五十年ほど前、我がジェノヴェーゼ大公国と全面衝突一歩手前まで関係が悪化しましたが、事態を憂慮された当時の法王聖下が仲介に入り、どうにか最悪の結果だけ免れたという抜き差しならぬ関係です。


 その後も国境付近ではいざこざが絶えず、小規模ながら軍事衝突まである、まさに犬猿の仲というわけです。


 近年でも、我が国に対して様々な策を弄し、何かとちょっかいをかけてくる目障りな存在ですが、その真意が謎でした。



(それに拍車をかけているのが、魔女レオーネの存在。彼女をけしかけ、我が国に何をしようとしていたのか?)



 これが目下の最大の疑問であり、是非とも暴かねばならない事なのです。


 しかし、レオーネは行方知れずであり、一応ダメ元で陛下もネーレロッソ側に使者を出してみるも空振り。



「こちらも彼女の行方を追っているが、どこにいるのやら」



 これが先の事件直後のあちらからの回答。


 つまり、魔女の存在を否定するのではなく、むしろ積極的な関与すら示唆する回答でした。


 そこがまた不気味。


 否定ではなく、肯定した上でのあやふやな回答ですからね。


 魔女を使って何かやるぞ、と宣言したに等しい。


 おまけに、挑発のつもりで出した“ジュリアス殿下の誕生祝賀会”にまで、こうして出席するという豪胆な行動。


 なにしろ、ネーレロッソ大公が国境を越え、ジェノヴェーゼ大公国の領域内に入るなど、何十年ぶりの話かという事ですからね。



「いや~、出迎えご苦労、ジェノヴェーゼの皆々様。歓迎痛み入るよ」



 堂々たる態度で会場の入り口に姿を現した中肉中背の男。


 ざわつく周囲をものともせず、堂々と会場中央へと進み出てきました。



(恰好から察するに、あちらがネーレロッソ大公アレサンドロ様でしょうね。見た目は普通。しかし、何と申しましょうか、嫌な臭いを感じますね)



 はっきり言って、冴えない御仁です。


 それこそ、庶民の格好で街中を歩いていても、それと気付かないほどに平凡。


 フェルディナンド陛下のような覇気もなければ、ゴスラー様のような豪胆さも感じられない、本当にただの人。


 むしろ、アルベルト様に近いかもしれません。


 周囲に同化させ、完全に“何か”を抑え込んでいる感じです。


 そして、ネーレロッソ大公御一行の最後尾に、そのアルベルト様の姿を確認しました。


 いつもの黒尽くしの衣装に、仮面を着けて。



(あ~、今日の宴に姿が見えないかと思っていましたが、そちらに配備されておりましたか。何しろ、ネーレロッソ大公は大事な来賓であり、同時に一番の危険人物ですからね。『来賓の饗応役を仰せつかりました』とでも言って、ずっと張り付いていたようですわね)



 しかし、陛下もお人が悪い。


 わざわざ“仮面の男”に饗応役を任せるなど、それこそ無礼と申しますか、警戒感全開ですと喧伝しているようなものですわね。


 そして、おそらくは魔女レオーネから色々と情報が流れているでしょうし、アルベルト様が“黒い手”の持ち主である事も知っているはず。


 それを饗応役として付けるとは、歓待と脅迫を同時にやっているようなものです。


 気付いている上で側において平然としているという事は、怖くはないという事なのでしょうが、だからこそ不気味なのです。


 こういう手合いは必ず、“何か”を持っていますからね。


 それが命綱程度のものであったとしても。


 そして、陛下のおられる壇上まで進み出て、サッと手を差し出して来ました。


 普通に“握手”の催促ですわね。



「お久しぶりだね、ジェノヴェーゼ大公フェルディナンド殿。以前会ったのは、確か中央大礼拝堂グランデ・カテドラルでの顔合わせ依頼になるかな?」



「そうなります……、かな」



 フェルディナンド陛下は一瞬躊躇ったものの、差し出された手を握り、互いに握手で応じる事となりました。


 しっかりと握られ、軽く振られるその手は、友好的とは呼び難い偽りの交際。


 二人の大公は笑っている。それもにこやかに。


 しかし、目が笑っていません。


 ギラリと輝くその瞳は、相手の細部すら見逃すまいと油断なく見合っています。


 息苦しくは感じますが、だからこそ早く見つけなくてはなりません。



(そう。長年の敵対関係にあるジェノヴェーゼ大公国とネーレロッソ大公国。大公アレサンドロ様にとって、ここは敵地に等しい場所。僅かな供回りで訪問するには、あまりに冒険が過ぎる。その真意は!?)



 意味なく敵地に足を踏み入れ、ただ誕生日を祝いに来た、という訳がありません。


 なにより、レオーネの姿がネーレロッソ御一行の中にはいないというのも、疑念を生じさせます。


 何が目的か、それを早く確認しなくては!

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